表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は死んだ目をしてる  作者: 上葵
クリア後、節句、夢現
75/79

続 世界の終わりによろしく 10


 月明かりはあるものの、木々の葉に遮られているため原始の闇を思い出させる静かな夜だった。

「大口叩いて逃げるとか」

 危機をいち早く察知し、先に森に避難していたミヤと合流する。

「うるせぇな。場所と時間と相性と体調と運が悪いんだよ。仕方ないだろ」

 ふくろうの鳴き声が森に響く。先ほどの争乱が嘘のように平穏な森だ。

 それにしても。走り回ってすごい疲れた。苔むした倒木に腰掛ける。汗がどっと吹き出た。

「しかし妙だな。あれだけやたらめったら乱射してるのに、銃弾がなくなる気配がない。リロードのスキでもあれば仕留められるのに」

 断続的に弾丸を飛ばす様子は機関銃に思わせた。疑問なのが装填の方法と打ち出される前の弾丸の保管場所だ。

「おそらく僕と同じ」

「……なんだって?」

 射し込む月明かりが少女を優しく照らし出す。

「彼は僕と同じ種族。嫉妬のスキルを使っている。門戸開放のクラスアップ門戸通過」

「えーと……とりあえず分かりやすく説明してくれ」

「お昼にマクラにオニギリあげたの覚えてる?」

「ああ、あれは助かった」

「実は近所の人のオニギリを空間転移させて取り寄せたんだ」

「気づいてたけど気づかないふりをしてた」

 すまないおじいさん。

「門戸通過は近い距離の物質を取り寄せたり送ったりできる。おそらくオートマトンは搭内部の弾薬庫から大量の弾丸を補給してるんだ。塔の内部には弾丸は生成する機械があるに違いない」

「なるほど……それを遮断することは?」

「無理無理無理かたつむり」

 煽るような物言いに腹が立ったが有益な情報なのは確かだ。弾切れを狙えないというのがわかったので、戦略を少し変更しよう。

「こういうときのための作戦がひとつ残されている」

 ミヤがこてんと首をかしげた。

「魔王城を守ってたヘカトンケイルを倒した方法なんだけどな。遠距離から弓矢で攻撃しまくるんだ」

「……」

「位置がばれたら移動して、ちくちく。ばれたら移動してちくちく。こうすれば時間はかかるけどいつかは勝てる」

「くず」

「くずじゃねぇよ。立派な戦略だよ。矢がないから石とか投げとくか」

 オートマトンは近づかなければ攻撃してくることはないので、距離を保って遠距離から石を投げまくれば負けることはないだろう。

「バッティングセンターのストラックアウトで培ったコントロールを見せてやる」

 手頃な石ころを拾う。

「石て……」

「石投げは戦国時代じゃ有効な手段だ。常勝武田軍には投石部隊がいたらしいぜ」

「今は現代」

 水切りに最適な石としてネットオークションに出したら値段が付きそうなくらい素晴らしい流線型の石ころだった。

「さてと」

 移動する。

 一度射程距離外に出ると攻撃対象はリセットされるらしい。人形から弾が飛んでくることは無かった。

「マクラ、待って」

 ミヤに呼び止められた。

「なんだ?」

「実はマクラが「てつのつるぎ」を買った武器やさんで僕もあるアイテムを購入した」

「ふーん。なに買ったんだ?」

「これ」

 ミヤが鉄製のくの字の武器を掲げる。「ブーメラン」

「小学校の文化祭じゃないんだから」

「石よりはよっぽど攻撃力があると思う」

「いや、石の方があるだろ。まあいいや。貸してみ」

「やだ。僕が投げる」

「あ、そ、そうですか」

 勝ち誇った顔でミヤは大きく振りかぶってアボリジニもビックリな投擲をしてみせた。

 ひゅるひゅると弧を描き人形に近づいていくブーメラン。なかなかのいいコントロールだが、当たったところでダメージは期待できないだろう。

「あ」

 ぱんっ、と軽い音がした。

 目標に当たる前にブーメランは人形に撃ち落とされた。

「……戻ってこない……」

 泣き出しそうなミヤを横目に、俺は一歩前に出た。

 こうみえても弱小とはいえ元高校球児だ。ピッチャー経験もある。

 マウンドの記憶がフラッシュバックする。

 目を閉じ、少し精神統一してから、

「おぅりゃぁ!」

「声でか」

 シャウト効果といい、大声を出すと一時的に筋力が高まるの、だが、コントロールは高まらないらしい。あらぬ方向へ飛んでいく石。

「ノーコン」

「うるせぃ」

 力みすぎえすっぽぬけた。ボールとは握りが異なるから仕方ない。

「あ」

 人形の肩口から銃が現れ、空中の石を撃ち抜いた。がきんと甲高い音が響いた。はんぱない命中精度だ。

「もしかして」

 全く関係のない位置に飛んでいたのにも関わらず、石を人形は撃ち抜いた。

 足元の木の棒を拾い、塔に向かって投げつける。

 タン、と軽い音がして、棒は撃ち落とされた。

「……」

 地面に目を落とす。

 虫の死骸が大量に転がっている。

 それに白い地面、これはどうやら動物の骨のようだ。

「まさか」

「どうしたの? 探偵みたいなこと呟いて」

 ミヤが目を細めた。

「お前も門戸通過のスキルを使えるんだよな?」

「使えるけど、覚えたての僕にはこぶし大の転移が限界」

「十分だ。作戦を思い付いた」

「やってみよう」

「まだなんも言ってないだろ」

「マクラの作戦なら、なんであろうとかまわない」

 ゴーレム族はみんな素直なのだろう。


「それじゃあ、いくぞ、さん、にー、いち」

 作戦を伝え、準備に入る。

 あのオートマトンは境界線を越えた物質を自動的に攻撃するようにプログラミングされているらしい。

 四方八方から障害物が現れれば、それに対応せざるをえないだろう。

 つまり、集中的な攻撃がなくなるのだ。

「スタート!」

 叫ぶと同時にまっすぐに駆け出す。

 俺が踏み込むと同時にミヤが門戸通過のスキルを使い小石や木の葉をオートマトンの頭上に降らせる。

 壮観である。

 あらゆる箇所から銃口を出現させ、それに対応しはじめる。当然俺にも弾丸が飛んできたが、先ほどと違い攻撃が分散している分、容易に避けられた。

 無害な物質でも境界を越えたものは対応しなければならない。一度命令されたら臨機応変に対応できない。それが機械の弱点だ。

 もとより攻撃は単調だ。銃の向きにさえ気を付けていれば弾を避けるのは容易い。人形の攻撃を最小限の動きでかわしながら、近づくのに時間はかからなかった。

「オラァ!!」

 硝煙が舞うなか、一気に距離をつめ、俺は必殺の一撃を人形の首筋に食らわせる。

「!?」

 想定外。

「ばかな!」

 切断するつもりで放った一撃だが、まったく刃が通らなかった。それどころか弾かれてしまった。ビリビリと手が痺れてしまっている。

 聖剣ならいざ知らず武器屋で買った一番安い剣は切れ味が悪いらしい。くっそケチらなければよかった!

「しまっ……」

 油断はしていなかった。

 ただ、詰めが甘かっただけだ。

 人形の冷たい瞳と目が合うと同時に銃口が俺に向けられた。

 体勢が崩れている。加えて距離があまりにも近い。さすがに、避けらない。

 こんな終わりか。

 我ながら呆気なかった。

 なんて考えながら、覚悟を決めた。


「マリオネット、ストップ!」

 聞き覚えのある声が宵闇に響いた。

 人形の攻撃が中断される。

 宙から雨のように木葉の屑や小石の破片が降り、パラパラと地面に音をたてて落下する。

 ミヤの横に、当然のようにヨイナが立っていた。

「ふぅ、やれやれ間に合ったんよ」

 嘆息して一歩を踏み出す。

 射程距離内に足を踏み入れたのに関わらず、人形が攻撃を加えることはなかった。

「勝手に飛び出してまったく。オートマトンは神代からずっと搭を守ってきたホームセキュリティなんよ。本気を出したら目からビームも出せちゃう優れものなんよ。たかだか数年しか生きてない人間ごときが敵うわけないんよ」

「惜しいところまでいったんだがな」

「ヨイナがストップコードを入力せなんだマクラは今頃天国なんよ。まったく感謝してほしいところやね」

「ああ、ほんと助けられたよ。ありがとな」

「素直だと逆に気持ち悪」

 ヨイナはとぼとぼ歩きながらオートマトンの数メートル手前で立ち止まった。

「いい加減門を開けてほしいんよ」

 呟くみたいに言った。

「出来かねます」

 機械音声。

「しゃしゃべったぁ!?」

 オートマトンが口を動かさず声を発した。

「し、喋れるのか、こいつ」

「ワタシは自動学習が搭載されたオートマトンです。対話可能です」

「すげぇ」

 携帯ショップの窓口とかにいそう。

「そんなことはどうでもいいんよ。いいから塔を開けるんよ」

「出来かねます」

「だからヨイナは塔の持ち主なんの!」

「マスターはナルエです。ヨイナはマスター登録されておりません」

「そんなもの察してほしいんよ! バカ!」

「人工知能のシンギュラニシティはすぐそこです。機械はいつか人類を超越するでしょう」

「突然不穏なこと言うんじゃない! お、脅しはやめるんよ!」

 お前は仮にも天使だろ。

「なぁ、どうすれば塔へいれてくれんだ?」

 しかし人工知能が搭載されているならのなら話は早い。ミヤと似たように自我があるなら交渉しだいで道を譲ってくれる可能性はある。

「マスターの命令のみ有効です」

「ナルエってやつか? 話で聞く限り死んだらしいが」

「……」

 人形はなにも答えなかった。辺りの静寂に伴って物悲しさのみが滞留する。肌を刺すような夜風が痛かった。

「死んだ人物の命令を忠実に守るのか? 人工知能が搭載されているなら自由意思でどうするべきか考えろよ」

「……」

「ヨイナ、どうすればこの人形は納得するんだ?」

 シカトモードに移行したらしいので、ヨイナに意見を求める。

「どうしようもないんよ。もうずっとこの調子なんよ。ナルエが死んだと伝えても搭が解放されることはないし、できるのは不毛な会話だけでヨイナもほとほと困り果ててるんよ」

「なるほどな」

 剣を構える。ただの鉄の棒に等しい破壊力だが、無いよりはましだろう。

 埒があかず暴力で解決するのは、ままあることだ。

「防衛本能がついとるから、下手な攻撃はしない方がいいんよ」

「それならヒットアンドアウェイでいこう」

 一回じゃ切断は無理でも何回か繰り返すうちに金属強度は落ちるはずだ。

 忍耐力の勝負になるな。


「やめて」


 人形の声ではない。

 危険はないと判断したミヤがゆっくりとこっちに近づいてきていた。

「人形だって心がある。攻撃されれば痛みはなくても辛い」

「……かりそめだろ」

「心はあるよ。胸の奥深くに」

 物質族のミヤには説得力があるし、なにより気まずい。

 彼女が見ていなければ即刻圧倒的暴力に訴えかけるところだが、……どうしたもんか。

「僕らは塔に入りたい」

 ミヤが端的に自らの要求を告げた。

「道を譲って」

 無表情で告げられた言葉に、

「ご命令とあらば」

 無表情な返事が返る。

「はぁ!?」

 オートマトンの予想外の返答に俺とヨイナは同時に呟いていた。

「どういうことだよ。なんでミヤの命令はきくんだよ!」

「……」

 オートマトンは完全に停止していた。返事はない。ただの人形のように突っ立っているだけだ。

「さっきまでの強固な意思はどこいった」

「ゴーレムは確かにナルエにそっくりなんよ」

 ヨイナが嘆息ぎみに呟いた。

「ナルエが自身を模して作ったってのは初めて会ったときから想像はついたんよ。だけど、オートマトンの機能を停止させるほどとは……」

 改めてミヤを見てみる。

 相も変わらず惚けた顔だ。

 銀色の髪に白い肌、人間離れした容姿とは常々思っていたが、……しかし。

「……考えてるのは時間の無駄だな。さっさと塔に行こう」

 夜空に星が輝いている。空気はひんやりとしていた。過去の事を詮索しても結果は変わらない。それなら気にせず前に進む方が有意義だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ