物の気持ちを
僕の一族は物の気持ちがわかる道具がある
「ねぇお母さん、なんであの人頭にねこさんの耳付けてんの?」
「見ちゃいけません!」
「......」
今僕の頭にあるのは一族代々伝わるものだ。
頭に装着すれば物の声が聞こえる。
一個言いたいのはこれ猫耳なんて小洒落たものじゃない。たしかにカチューシャによく似て三角形の布がついているが
物の声聴く。それが僕の仕事だ
「かぁ〜くっせぇ屁だった。ったく毎度毎度俺に屁こきやがってあのジジイ」
「こんにちは」
「なんでぇこの坊主。話しかけあがって気持ち悪りぃ」
「僕にはあなたの声聞こえてますよ」
「こりゃびっくりだ。ちょっと俺の話を聞いてくれ」
そう言う彼、公園入ってすぐのとこのベンチである彼の上に僕は座った。
「軽いな。坊主、ちゃんと食ってるか?」
「きちんと食べてますよ、僕のおばあちゃんが作ってくれるんです」
「そりゃいい。その婆ちゃん大事にしろよ?」
「その婆ちゃんに物の気持ちを知って反省しないさいって言われて、僕、ドジでお皿割っちゃったんだですよ」
「おいおい、そりゃねぇぜ。 その皿今どうしてる?」
「多分もうゴミ袋の中かな」
「可哀想に、もう何のために生まれて来たのかわかんなくなってしまったな」
「本当に申し訳ない」
「まぁ謝ってしょうがないさ。どんなに謝ったって人には俺たちの声は聞こえないし、皿の一枚や二枚...そうだろ?」
その通り、人間は物を粗末にすることに何とも思わない。
「だからはその気持ちを伝える為に僕の家族は居るんだと思います」
「面白い奴だ、気に入った」
彼と話した後、僕は「また後で来ます」とだけ残し公園を歩いた。
「今日も風強いなぁ、寒いなぁ。いいなぁ下にいるやつは」
この公園で一番大きな木だ。樹齢もかなりのものだろう。
「こんにちは」
「どうも、ベンチから風の噂で聞いたよ」
「風の噂さ、読んで字のごとくその辺にいる風達がどうやら物達と話せるやつが来てるってな。物じゃない俺には関係ないと思ってたけど植物とも話せるんだな」
「そうみたいですね」
「ベンチみたいに俺の話も聞いてくれよ」
「そういえば風の噂でな、携帯が落っこちてるって....。お、いたいた、あの草むらら辺だ」
木から少し離れた草むらから泣き声が聞こえた。
草むらをかき分けるとそこにはボタンの大きい携帯があった。
「こんにちは」
「ん?だれだ?」
「おい、こいつの声聞こえんだろ?そいつの持ち主のとこに持ってやれよ」
「おいおい木さんよ、俺はやっと新しい世界にきたんだぜ?」
「なに言ってんだ、お前人間に使われてこそだろ?」
「ふん、なにが人間だ。たしかに俺は人間に使われるために生まれてきたさ?でもな、主人はいつも落っことしたり、孫におもちゃじゃないのに渡して口の中入れられるし、充電忘れるし、もう人間といるのは飽き飽きなんだよ」
「なるほど。携帯さんは人間が憎いと?」
「憎いって程じゃないけど距離置きたいね」
「おい!そろそろいいだろ?主人の名前いってこいつに返してもらえよ」
「いやだ!もうあの家にはいたくない!お前だって幼なじみだった隣の木が切り倒された時あんな人間は勝手だと言ってたじゃねぇか!」
「まぁまぁ携帯さんその辺にして、携帯さんさぁ、人間になろうと思ったことない?木さんも」
「人間に?ははっ!面白いこと言うねぇ!たしかにこんな体じゃ世界も見えたもんじゃねぇ!ぜひなってみたいものだね」
「お二人は擬人化という言葉ご存知ですか?まぁ簡単言っちゃえば物を人間に例える表現なんですけど、僕の一族にはそれを実際にできるんです」
「そりゃいい。じゃあお二人とも擬人化ということで」
「な、なぁ。ちょっとまってくれよ」
「なんですか?木さん」
「確かに人間なることには興味があるが」
「別に元にだって戻すこともできますよ」
「おいおいいいじゃねぇか木よぉ。元ににも戻れるみたいだしさぁ。な?お試しで人間になってみたっていいじゃねぇか。なぁ人間さんよ」
「その通りですよ」
「そ、それなら」
「ほんとになっちまった...」
「いやっほう!これで俺は自由の身だ!」
「坊主言う通りの言う通りだったなぁ」
僕以外にこの場所に"人間"が3人いる。1人目は草むらに落ちてしまった携帯。2人目は公園一の樹齢を誇る木。そして3人目は初めに出会ったベンチだ。
「すげぇ!これで俺は世界を見れるだな!ネット越しじゃなくて自分の目で!」
「いいねぇ、おい携帯の坊主その旅俺も連れてってくれ」
「もちろんだぜベンチのおっさん。おい木さんよ、どうだ人間になった気分は」
「そ、そうだな。気分は、いい」
「ここで一緒に人間になったのも何か縁。3人でこのすたれた公園からおさらばしねぇか?」
「そ、そうだな。いこう!」
「坊主!ありがとな!こんな素敵な体をくれてよぉ!一生感謝するぜ!」
「いえいえ、物の気持ちに答える。今は人間ですかね、それが僕の一族の仕事ですから」
「ありがとな!人間さんよ!」
「あ、ありがとうございます!」
「僕はもう少しここに居ますが、皆さんはもう行かれてしまうのですか?」
「ああ、俺たちは行くぜ。世界を見にいくよ。いこう木、ベンチのおっさん!」
そう言って3人は公園の出口に向かった。
「あぁ、そこのお三方よ、私の携帯電話しらんかねぇ」
「ゲッ」
「携帯、どうし」
「シッ、その名前で呼ぶな」
「ど、どうしたんでか?あ、もしかしてあの人が....」
「そうだよ。あれが俺の主人だ」
公園を出ようとした矢先、御一行の1人である携帯の持ち主と鉢合わせした。
「わ、悪いなぁじいさん。俺たちもう出るところで」
「そう言わんで、探さなくたって見たかどうかだけでいい、こんなのなんじゃが」
「.....」
おじいさんが携帯の取り扱い書をバックから取り出し3人に差し出した。携帯の元の姿だ。
「み、見てないですね。ごめんなさい。おじいさん」
「そうか....。息子が就職して始めての給料で買ってもらったものなんじゃが....」
「ごめんなじいさん」
「そうか...ありがとなぁ...。ありゃ、いつものベンチがない」
「ギク」
「べ、ベンチさん...。人間になる前はあそこに...?」
「ああ」
「無くなってしまったか...。前からあったしな...。ん?ここから夕暮れ太陽が見える。いつも木で見えなかったんじゃが」
「ギク」
「...おい木」
「はい....」
「あのでかい木お前だったのか」
「あの木なくなってしまったか....息子が小さかった頃はあの木の下でよく遊んでいたが...切り倒されてしまったか....」
「...」
3人は思い始めた。私がいなくなるだけでここまで思ってくれる人がいるなんて。そんな人がいるのに私はこの公園を出て行っていいのだろうか。
「......なぁじいさん」
「ん?」
「携帯そのうち、いや今日中に見つかるよ!この公園で」
「おい.....」
「俺たちも探すからさ!おい、お前ら!」
「け、携帯さん....」
「戻ろう。元の姿に」
「まだ1時間くらいしか経ってませんよ?本当に元の姿に戻っていいんですか?」
「元の姿に戻せるんだろ!?」
「落ち着いてください携帯さん。二人も同じ考えで」
「そ、そうです...」
「ああ坊主。俺たちを元に」
「わかりました。ただ、一度人間になった物をを戻すとなると、人間になる前のように自らの意思をもつ事が出来なくなってしまいます。この先、意思疎通できず1人ぼっちになってしまいます。それでも構いませんか?」
「おお、あったあった。あの三人の言う通りじゃった。疲れたのぉベンチベンチ...。ありゃ、さっきは無くなってたの」
ベンチ、木、携帯の3人は元の物の姿に戻った。もうなにも考えられないけれど彼らは幸せだった。人間に育てられ、人間に使われ、最後は人間に捨てられる。それが自分たち、物にとって幸せなのだと知ったからだ。
「今日も夕日と木がが重なって綺麗じゃのぉ」
おじいさんは軽快に屁をこいた。
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