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第九球~メンタル~

 初回の守備が終わりベンチに戻って優那さんに声をかける。

「ナイスピッチ」

「健翔君こそナイスプレーだよ。三遊間のあんな深い所の打球をアウトにするんだもん。助かったよ」

「ホント、凄かったぜ成宮」

 笠原も笑いながらそう言ってくれた。あ、そういえば俺、この試合は二番だったっけ。俺はグラブを置き、バットを取ってネクストバッターズサークルに入り、相手の投手の投球練習を見る。背番号十七の左投げ、軽く投げているようだが球速は結構出ている。

「なぁ笠原、この前言ってた凄い投手って…」

「あれだよ。菊川隼人きくがわはやとああ見えて俺たちとタメだぜ?」

 あれが噂のピッチャーか。地区内トップのチームの投手なんだから並みの投手ではないと思うけど……

 一番の大河先輩が打席に入った。大河哲斗たいがてつと先輩。右投げ左打ち、野球の経験は中学までだが選球眼が良く、足が速いためチーム内での出塁率はトップ。ミートも良く、速い球は簡単に当ててしまうので投手としては嫌な一番打者である。

「プレイ!」

 審判のコール。注目左腕、菊川はノーワインドアップからゆっくりと足を上げて―――、


 スパァン!


 渇いた音がグラウンドに響き渡った。球は左打ちの大河先輩のインコース。審判はストライクの判定をした。

 おいおい、何でこんな奴が草野球なんかやってんだ?そう思ってしまうようなえげつない球だった。続く二球目。

「くっ!?」

 縦の変化球、スライダーか?しかも速い。先輩のバットはボールにかすりもしない。ミートの上手い大河先輩が手も足も出ない。

 そして三球目。再びスパァン!という音と共に「ストライク!バッターアウト!」という審判のコールが聞こえた。アウトコースへのクロスファイア。あの球速であのコースに投げられたら初見じゃあそうそう打てない。

 呆気なく三振してしまった先輩を見て、こんなレベルの高い奴と勝負なんて久しぶり過ぎて打てる自信ねーよ、とは口が裂けても言えない。

「健翔君!一発でかいの頼むよ!」

「先制点ほしいぞー」

 優那さんや笠原の声がした。俺は振り返らずにそのまま打席に立つ。インコースは得意な方だ。インコースのクロスファイアにヤマを張って狙ってみよう。

 菊川がボールを投じる。初球――!

「ストライク!」

 外のボールからストライクに入るスライダー。俺はバットを出さずボールを見送った。来いよインコース。場外にぶっ飛ばしてやる。二球目、狙い球のインコース。高めのボール球――――!

 俺は自分の顔面に向かってくるようなボールを右肩から振り下ろすようにしてバットを出して叩いた。低い打球はサードの頭上を越えて――――!


「ファール!」


「嘘ぉ!?」

 思わず声を上げてしまった。バットの芯を食った感覚はあった。当たりは悪くなかった。しかしそれがファールになってしまった。レフト線一メートルほど外れていた。これでツーストライク。ここで遊び球を入れるか?高めのつり球がセオリーではあるけれど先輩に投じた縦のスライダーもあるかもしれない。何にせよ簡単に終わるわけにはいかない。

「――っ!?」


 スパァン!


 くそっ、当たらねえ。高めのつり球、それも明らかなボール球ではなく力んだ打者にはストライクに見えてしまう高さのストレートに俺のバットは虚しく空を切った。

 続く三番野々村先輩もストレートで三球三振に終わり、俺達の攻撃は三者連続三球三振という最悪のスタートを切った。

「奪三振は私の専売特許だよ。絶対に負けないから!珠子ちゃん、ちゃんとスコア取っておいてよ?」

 言うが早いか優那さんはグラブをひっ掴むとマウンドまでダッシュしていった。相変わらず元気なものである。いや、試合なんだから元気がない方がおかしいのか。よし、三振したことを引きずっても意味がない。切り換えて行くか。







 菊川隼人を本格派速球投手とするならば優那さんは技巧派変化球投手と定義付けるのが正しいだろう。彼女のウイニングショットはキレのあるスクリューボールであり、それを生かすのは角度のあるクロスファイアである。これらを上手く使ってリードを組み立てれば優那さんならコントロールミスさえしなければそうそう打ち込まれることはない。

「アウト!」

 二回、この試合最初のピンチとなった。四番打者に甘く入ったストレートを痛打されツーベースとなり、続く五番を空振り三振に取るも六番打者が送りバントで現在、二死ランナー三塁である。

「優那さん!厳しく攻めろよ!」

 相手は格上のチームだから先制点はやりたくない。ここを抑えれば流れはまだ分からない。

 打者は七番左打者、優那さんは腕を振る――!


 ガッ!


 鈍い音がした。スクリューボールを引っ掛けただけの当たりはセカンドの前を弱く転がる。笠原は前に出て――――、

「あっ!」

 思わず声を上げた。弱々しい当たりは笠原のグラブでハンブルし、こぼれ落ちた。笠原は慌ててボールを拾い、一塁に送球するが悪送球となり一塁はセーフ。これにより三塁走者がホームインし、レッドナインズに一点先制されてしまった。

「切り換えろ笠原!次だ次!」

 石川先輩をはじめとする先輩達が声をかけるが笠原の顔に余裕はなかった。マズいな。あれはバッティングの時も引きずるかもしれない。一人でもそんな雰囲気になったら勝ち目はねぇぞ。

 そんな時だった。

「ツーアウトですよっ!声を出してくださいっ!」

 意外な所から声が出た。スタメン選手のものではない。声を出した本人、天野珠子は顔を真っ赤にしていた。それを見た優那さんも声を上げる。

「っしゃ、エンジン全開でいくよ!」

 石川先輩や磯崎先輩も、

「打たせてこい!」

「まだたったの一点だ!追加点はやらねぇぞ!」

 結果的には八番打者を三振に切って取った。ベンチに戻りながら俺はグラブで笠原の背中を叩く。

「ほら、エラーしたんだったら人以上に声出せよ」

「あ、ああ。そうだな」

「試合はまだ始まったばかりだ。まだまだ挽回のチャンスはあるんだぜ?」

 それは俺にも言えることだけど。笠原は「わかってるよ。大丈夫だ」と言うとベンチに腰を下ろした。







 四回、俺の二度目の打席が回ってきた。ここまでウチのチームのヒットは磯崎先輩が打った一本のみ。菊川遊星はノビるストレートを軸にスライダーを決め球に使った投球を展開している。今度こそ一本打ってやる。俺はバットを指一、二本分短く持って打席に入った。

 来いよ。今度こそぶっ飛ばしてやる。

 菊川は足を上げて腕を振る―――!

 ガッ!という音がして審判のファールの判定が聞こえた。初球はファールチップ。アウトコースのストレートだった。

 続く二球目はスライダーが低めに外れてボールとなりワンストライクワンボール。三球目、

「きたぁぁぁぁぁあああああああああああッ!!!!」

 狙っていたインコースへのクロスファイア!腰を回転させてバットを出す!


 スパァン!


 ボールはバットにかすることすらせずにミットに収まった。はっ、狙ってたのに当たらないとか。何やってんだ俺。俺はバットを一番長く持った。それを見た菊川の顔に笑みが浮かんだ。





 ガッ!


 これで四球連続のファール。外と内のコーナーを突くボールを当てるのに精一杯だ。八球目、


 キィン!


「!」

 打球はフェンスを越えるが―――、

「ファール!」

「またかよ!」

 またファールかよ!しかも良い当たりだったのに!でもこれなら打てる。次こそは……

 菊川は楽しそうに笑ったままだった。この野郎、こっちは当てるのが精一杯だってのに余裕の表情しやがって。

 九球目、今度こそ。今度こそぶっ飛ばしてやる―――!

「――っ!?」

 俺のバットはボールに当たらなかった。と言うか届かなかった。ボールがストライクゾーンを通過する前に俺のバットは空を切った。アウトをコールする審判の声も聞こえなかった。

 何だ今の?チェンジアップ?そんな球を隠していたのか!?

『チェンジアップを投げないなんて言ってないぜ?』

 そんな声が頭の中に響いたような気がした。








 現在、試合は五回終わって三対零。三点ビハインドで六回の守備についた。ここまで優那さんは十個の三振を奪うも打たれたヒットは八本。初回を除いて毎回ランナーを背負った投球となっている。

「成宮、お前はこの回からキャッチャーな」

「はい?」

 守備につく前に石川先輩はそう言った。キャッチャーの船木先輩がファースト、ショートには大河先輩が入るらしい。そんな訳で俺はマウンドに立つ彼女の元へ向かう。

「今日の調子は?」

「うーん、悪くはない筈なんだけど何故かストレートが簡単に打ち返されちゃうんだよね」

 笑う彼女だが余裕があるようには見えない。俺はボールを受け取り握りを確認する。

「ここでスライダーを使うぞ。握りは覚えてるな?」

「え?でもスライダーは……」

「あまり曲がらないって言うんだろ?そこは俺に任せろ。残りの二イニング、三振六つ狙うぞ」

主人公視点で試合を書くのは難しいですね。グダグダ感が否めない……

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