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第十九球~家族公認~

「ゲームセット!」

 結局、逆転することが出来なかったWSは六対二というスコアで敗北した。優那が投げた試合では最も多く失点したのではないだろうか。やはり序盤の大量失点が響いたことと、尻上がりに調子を上げてきた相手チームのエースを攻略するに至らなかった。

 試合の後半、優那は序盤の失点を気にしない圧巻の投球で三振の山を築いた。試合に勝てなかったことに関しては不服そうだけれど。いや、正確には姉妹対決の方か。

「もっと早く手を打っておけばなぁ」

 今日の試合の敗因は俺にある。梨那さんの快足に惑わされ打者に注意を払えなくなり、配球が甘くなってしまった。優那は俺の出したサインに従って投げていただけだし、何球か逆球はあったもののそれは打たれておらず、寧ろ俺の要求したボールが打たれてしまっていたのだから。

「やっぱり野球って難しいよなあ」

 心の底からそう思った。自分の思ったようにいかないくせに最悪の事態はいつも自分の想像の上をいくのだから。

 グラウンド整備をしていると梨那さんがにこにこしながらとんぼを片手にこちらに歩いてきた。

「お疲れー。今日は楽しかったよ」

 そう言う梨那さんの笑顔はやはり優那のものとよく似ていた。やはり姉妹、雰囲気もそっくりだ。

「今日は完敗です。次やる時はその足、絶対に封じ込めてやりますよ」

「あははは!しっかり練習に励みたまえ。でも君がどれだけ練習しようと私は絶対に捕らえられないよ」

 梨那さんも挑戦的にそう応えた。そこから見える絶対的な自信。

「夏の大会には参加するんですか?」

「勿論。対戦するのを楽しみにしてるよ」

 彼女はそう言ってグラウンドをならすと思い出したように俺に訊ねた。

「ねえ、優那とはどうなの?」

「優那ですか?このチームに入って結構試合でバッテリー組みましたがやっぱり凄いですよ。今日だって俺がしっかりしていれば負けてなかっただろうし…」

「あー、そっちじゃなくて」

「……?」

「キスくらいはもうしたのかな?」

 直後、思考が停止した。

 何を言ってんだこのおねーさん。

 キス?優那と俺が?というか一体全体何の話をしてらっしゃるのでしょうかこの人は?

「あれ?まだしてない?」

「いやいやいやいやいやいや、ちょっと待ってくださいよ」

「おう、待ちます待ちますよ。優那との関係がどの程度進んでいるのか姉としては気になるからね。しっかりまとめて高らかに発表ーっ!」

「べ、べべべ別に俺と優那はそんな関係では…」

「ほらほら、誤魔化したりしないの」

 にやにやしながら問い詰めてくる梨那さん。なるほど、テレビで良く見かける《記者達に囲まれて質問攻めを受けるスキャンダル発覚の議員》の気持ちが分かったような気がする。

 いや、俺にスキャンダルはないけれども。

 しかもそんな時に笠原が近くを通りかかった。意地悪そうな笑みを浮かべた梨那さんは笠原を呼び止めて俺が今あまりしてほしくない質問をした。

「成宮と神川さんですか?よく二人でいますよ。練習終わったら一緒に帰ってるし。そう言えばこの前の飲み会の日は成宮の家に泊まったって聞きましたよ」

 笠原よ。お前俺に何か恨みでもあるのか。

 証言に嘘偽りはないが聞く人間の受け取り方によってはあらぬ勘違いを生み出してしまいそうなその内容を聞き、梨那さんは満足そうに頷く。そして少しいたずらっぽく笑って、

「あーあ、私この歳で叔母さんになるのかぁ」

 などととんでもない爆弾を発射した。

 それを聞いた笠原は絶句して俺の顔を見てくる。

 やめろ。そんな顔で俺を見るんじゃない。

 グラウンド整備もある程度終わっている。いつまでもここにいては梨那さんに弄られるだけだ。俺は梨那さんに挨拶をしてさっさと撤収することにした。

「それじゃあそろそろ上がりましょう。次やるときは負けねーっすから」

「何度でもかかっておいでよ。その度に返り討ちにしてあげるから」

 梨那さんはそう応える。そして最後にこう付け加えた。

「それと、優那のこと泣かしたらお姉ちゃん承知しないからそのつもりで」

 そう言い残して梨那さんは自分のチームへと戻っていった。笠原は俺の肩にぽんと手を置いて、

「家族公認の交際ってか?羨ましいねえ」

「何を勘違いしているんだ」

「大丈夫。お前と神川ならベストカップルだと思ってるぜ。応援してやる」

「何を言っているんだ」

「こうなったらこの後にでも神川とのデートプランを一緒に考えてやっても…」

「待て待て。おーい笠原くーん?聞こえてるかー?もしもーし?」

「実際のところどうなんだよ?お前をこのチームに誘ったり専属捕手に指名するあたり、神川はお前のことを意識してるんじゃねえの?」

「なあ笠原、向こうが俺を意識してるなんてのはただの妄想だろ。高校まで野球をやってきた俺と野球をやれば少しでもレベルアップ出来る、って思ってのことだと思うけど」

「じゃあさ、お前が高校まで野球をやってたのをどうして知ってるのさ?」

 笠原は心底不思議そうに言う。そうか、こいつは優那が高校野球で俺を知ったことを知らないのか。

「野球が好きでたまたま試合で見かけた試合に俺が出てたんだってさ。ほら、俺一応県大会の決勝まで進んでたから」

 ふーん、と笠原はやや納得しない様子だった。しかし俺も少しだけ彼女のことを考えていた。彼女との会話で時々昔俺と接点があったのではないかと思われる発言を聞くからだ。

「考えすぎだろうな」

 誰に言った訳でもなく、そう呟いて俺は笠原と後片付けに向かった。


















「アンダースローに挑戦しようと思うんだけど」

 試合の帰りに優那からそんなことを言われた。笠原の知るように、練習や試合の帰りは彼女と野球トークをしながら帰るというのが習慣になりつつある。

「突然どうした?」

「ほら、サイドスローって基本的に左右の変化でバッターを打ち取る投げ方でしょ?これに上下の幅も広げたいなーと思って」

 やはり野球のこととなると自分でよく考えているらしい。一緒に歩いている天野さんが首を傾げて言った。

「上から投げるのは?優那ちゃんなら成宮君の投げるような落ちるボールを投げられるんじゃないかな?」

「あははは、それはもう出来るからいいの」

 出来るのかよ。聞いてねえぞそんなこと。

「まあ、色々試すのはいいことだと思うけどそれで調子を落としたら話にならねえぞ?」

「大丈夫だよ。シーズン通しての安定感が私の長所なんだから」

 そんなことを笑いながら言う優那だったが、そもそもシーズン通して投げたことがあるのだろうか。草野球だからプロ野球のように一シーズン百四十四試合ある訳ではないし、毎試合先発完投というのはないだろう。

 そんなことを考えながら俺は彼女の顔を見る。そしてふと、梨那さんとのやり取りを思い出してしまう。

「そんな訳ねーよな」

 二人に聞こえないようにぼそりと呟き、大きく息を吐いて、俺は自宅まで足を進めた。

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