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第十八球~大器晩成~

 現在三回終了して六対一で五点のビハインド。初回、同点のタイムリーを打たれた後、続く打者に連打されてあっという間に勝ち越され、気が付いたらこの回四失点、さらに二回には梨那さんにセーフティーバントを決められ、そこから再び失点。こちらの攻撃はランナーを出すもののチャンスで一本が出ずに初回の一点のみである。

 優那はすっかり意気消沈してしまっていた。彼女がこだわる三振を取ることが出来ず、ベンチで俯いていた。

 何とかして彼女を楽にしてやらねぇと。四回表、この回の攻撃は俺からだ。俺はベンチで俯く彼女の頭をぽんと叩いた。

「顔を上げろよ。俺のホームラン見逃すぞ?」

「……健翔君、ごめん…」

「打たれて点を取られたのは仕方がない。要は試合に負けなけりゃいいんだよ。お前を負け投手にさせねぇよ」

 バットを握り締める。落ち着け、力むな俺。打席に入る。大きく息を吐いてバットを構えた。ウチのチームだってヒットは出ているんだ。打てない投手じゃねぇ。

 投手の手からボールが放たれる。外に外れてワンボール。俺は一度打席から出る。大丈夫だ、ボールは見えてる。打てないボールじゃないんだ。しっかりバットを振り抜け。

 自分に言い聞かせて続く二球目、緩いカーブが甘いコースに入って―――――!


「っらあ!!」


 強く叩く。それがしっかり出来ていたと思う。打球はレフトの頭上を遥かに越えてフェンスの向こうへと消えた。

『しゃああああっ!!』

 ベンチから聞こえるチームメイトの声。俺はゆっくりとダイヤモンドを一周する。

「マジで?あんなところまでよく飛ぶね」

 セカンドベース付近で梨那さんが言った。俺は彼女の顔を見てはっきりと言う。

「まだまだこれからですよ」

「そうこないとね」

 そうだ。まだ一点だけ、このソロホームランだけではまだ状況はあまり変わらない。点を取られず、追い付き追い越さなければならないのだから。ホームベースを踏み、ベンチに戻り、皆とハイタッチを交わす。そして先程より少し表情が明るくなった彼女に一言。

「顔上げといて良かったろ?」

 そう言って精一杯笑ってみせた。










 俺のホームランで一点返したWSだったが負けていることには変わりはない。この回、梨那さんとの勝負は厳しく攻めた結果、四球となりランナー一塁となった。梨那さんはここまで三打数二安打一四球という結果。恐らく走ってくるだろう。塁に出れば彗星のごとく駆け抜ける彼女をアウトにする自信がない。しかも盗塁を刺すためにアウトコースに外しても余裕でセーフ。彼女がランナーなら完全にフリーパス状態だ。


 ……ん?


 何だ?何かが――――、


「ランナー走った!」


 船木先輩の声で我に返った。俺はボールを掴んで投げる構えを取る。しかし、投げない。投げてもセーフになると分かったからだ。けれど何だろう。何かが引っ掛かる。二塁上で笑顔の梨那さんが見えた。そうだ、一回の攻撃も同じような―――――、

 待て。まさかと思うが……いや、でもそうとしか考えられない。そうでなければ優那がここまで打ち込まれることもここまで失点することもなかったのだ。

「何でもっと早く……」

 こうなってしまったら仕方がない。出来れば練習試合では使いたくなかったがこれ以上点をやる訳にはいかない。俺はタイムをかけてマウンドに歩み寄った。

「どうしたの健翔君。まさか交代……?」

「違うよ。あのちょこちょこしたランナーをアウトにするための策を考えたんだ」

 内野手にも集まってもらい作戦の概要を説明する。作戦と言えば聞こえは良いがなんのことはない、ただの内野の連携プレーの確認だ。

 俺はポジションに戻り腰を下ろす。さて、上手く決まればいいが。右打者のインコースギリギリにクロスファイア。要求通りの球が渇いた音を立ててミットに収まる。ランナーに動きはない。ここで勝負だ。俺はアウトコースに寄る。

 優那はサインを確認ようとして――――ボールを二塁に投じた。梨那さんが驚く顔が見えた。牽制とは思っていなかったらしい。それはそうだ。優那は梨那さんの姿を確認せずにサインを見ようとして突然牽制をしたのだから。梨那さんは慌てて戻るが塁上にはしてやったりと笠原がボールを掴んでいた。

「アウト!」

 審判のコールに笠原がガッツポーズをした。アウトになった梨那さんは呆然としている。

 俺たちが彼女をアウトにするために取った策。それは『グーパー牽制』。投手の優那はランナーを確認せず、俺がサインを出すのを待つ。俺はセカンドがベースに入ると同時に握った右手を開く。その瞬間、セットポジションにすら入っていない優那がセカンドに牽制をする。ランナーにしてみれば意表を突かれたものになるだろう。自分を見ていなかった投手が突然牽制をしてくるのだから。そして梨那さんが飛び出すという確信が俺にはあった。だからこそアウトにすることが出来たのだ。

 そしてこの回、二者連続で三振を奪い優那はマウンドで吼えた。

「っしゃあ!」










「配球?」

 ベンチで優那に説明をする。何故打たれていたのか、何故、ここまで失点したのかを。

「梨那さんの足の速さは本物だ。二塁に到達するのは容易なことだろうさ。問題はその後だ」

 これまで失点はランナーを置いた場面がほとんどだ。それは俺に原因がある。

「ランナーに走られまいと俺の配球が外中心の組み立てになっていたんだ。そして梨那さんが二塁にいる時は最初からアウトコースの球を狙われていた」

 俺がアウトコースに構え、優那がモーションに入ると二塁ランナーの梨那さんがスタートを切っていた。そして上手い具合に右方向へ打ち返されてきた。バッターにはスタートを切る梨那さんが見えている。

「それじゃあお姉ちゃんは自分が走ることでバッターにアウトコースにボールが来ることを教えていたってこと?」

「そういうこと。走ればアウトコースに、走らなければ内にって具合にな。やってくれるぜ」

 だからさっきの牽制には引っ掛かった。俺がアウトコースに寄ったことでスタートを切ろうと気持ちが先走ったのだ。

「よく気付いたね」

 感心したように優那は言ったが気付くのが遅すぎた。だけど試合はまだ終わっていない。

「まだまだこれからだよ」

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