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第十六球~野球姉妹~

「で、君が優那の言ってた成宮健翔君か。いやあ、まさか部屋に連れ込まれて押し倒されるとは思わなかったなぁ」

「ちょっと待て!何人聞きの悪い言い方をしてるんですか!そもそも部屋に入って来たのはアンタでしょうが!」

 どうやら優那の姉梨那さんは大学生になった妹の様子が気になり、ここ最近、彼女を尾行していたらしい。姉妹なら普通に会って話をすればいいのに、と俺が言うと、

「だってそれだとつまらないでしょ?いやぁ、いつ優那に私だって気付いてもらえるかどきどきしながら待ってたんだけどなぁ」

 何という人迷惑な話だろう。警察とか考えた俺が馬鹿みたいだ(もっとも、これで警察沙汰になっていれば馬鹿なのは俺ではなく梨那さ……おっと失礼)。まぁ、不審者とかストーカーといった犯罪に近い類ではなくて一安心である。と、俺がそう思った直後、

「で、優那。これがアンタの彼氏?」

「初対面でこれとか言ってんじゃねぇぞ!」

 思わず乱暴に叫んでしまった。それもこれもこの人が変なことを言うからだ。だから決して照れ隠しなんかじゃない。だから優那、そんなに顔を赤くして「ええと、それは……」とか言葉に詰まってんじゃねぇよ。

 ここで俺は話題を変えるため(話題があったのかどうかに関しては触れないでほしい)咳払いを一つして梨那さんに訊ねた。

「梨那さんは普段何をしてるんですか?」

「私?私は普段働いてるよ。これでも役場で働く公務員なの」

 公務員なのか。色々大変そうな仕事をしているんだな。

「ついでに野球もやってまーす。同じ地区のウィングスっていうチームでセカンド守ってる」

 アンタもか。それじゃあ野球姉妹ってことになるのかな。優那のお姉さんなんだ。きっとよっぽど上手いんだろう。そう思っていた俺の心をまるで読んだかのように優那が言った。

「お姉ちゃん、野球を始めたのが去年なんだけどね。女子野球選手として結構有名らしいの」

 去年始めたのに!?

 口には出さなかったが心の中でそう叫んだ。流石優那の姉だ。優那も凄いがお姉さんも負けていない。恐るべし神川姉妹。

「それなら是非一度プレーを見てみたいです」

 天野さんがそう言った。俺もそれには同感である。すると梨那さんは意味ありげに笑った。

「あははは!まぁ、近いうちにね」

 こうして、ストーカー問題を解決することができ、神川姉妹は二人揃って俺の部屋を後にした。何故か梨那さんが優那を俺の部屋に泊まるように言っていたが流石にそんな事態にはならなかった。優那も初めはどうしようかなどと悩んでいるようだったから俺もどきりとしたけれど冷静に考えることが出来たらしく、姉を連れて自分のアパートに帰っていった。天野さんも隣に戻り、俺は一人になった部屋のベッドに横たわる。その時、ふと梨那さんの言葉が脳裏を過った。

「あははは!まぁ、近いうちにね」

 この時の梨那さんの笑顔に一体どんな意味があったのかを俺達が知るのは翌日のことになる。










「練習試合が入ったぞ。今度の土曜昼一時からだ」

 練習が終わって石川先輩はそう言った。今日はひたすら投げ込みだったから肩が重い。まるで重りでも付いてるんじゃないかと思うほどだ。

「試合っすか。相手はどこです?」

 笠原が先輩に訊ねた。石川先輩は手帳を広げて相手のチームの名前を読み上げた。

「えーっと、ウィングスっていうチームだ。去年の七月の地区大会には出てなかったみたいだけどかなり強いチームらしい。所謂ダークホースってやつだな」

 えっ、ウィングス?俺は思わず聞き返そうかと思った。つい最近、それも昨日の晩に聞いたような……

 隣に立っていた優那もベンチでスコアブックの確認をしていた天野さんも同じような顔をした。そして、昨晩の梨那さんの笑顔を思い出して納得する。なるほど、そういう訳だったか。

「その試合の先発は……」

 石川先輩は俺と優那を交互に見た。そして「バッテリーな」と言って他の守備と打順を確認する。

 いつも通り、優那とバッテリーを組むのは俺にとって当たり前になりつつあった。これまで一度もキャッチャーの経験のなかった俺がスタメンマスクということに最近は違和感を感じなくなっていることに内心驚いている。

「あはは、まさかお姉ちゃんのいるチームと試合するとは思わなかったなー」

 優那は笑いながらそう言った。

「私、前に一度お姉ちゃんと勝負したんだけどね、三打席の勝負でヒット二打たれちゃったんだよ」

 おいマジかよ。

 優那からヒット二本ってそこらの打者じゃ出来ないことだぞ?神川梨那、恐るべし。

「でも今度は負けないよ!絶対に全打席全三振にしてやるんだから!」

 気合いの入った様子でそう言うと、彼女はベンチに置いていたグラブを持って、

「健翔君行くよ!今からお姉ちゃんを打ち取るための特訓だあ!!」

「行くよって、今から投げ込み!?今日一〇〇球以上投げただろ!?」

「まだまだぁ!」

「おいっ!?ちょっと待てよ!本当にやるのかよ!?」

 俺は半ば引きずられるような形でブルペンに連れていかれ一時間以上、彼女の投球に付き合わされることになった。終わった頃には日は暮れて辺りはすっかり暗くなっていた。










 そして試合当日、グラウンドに着くなり先に来てウォーミングアップをしていた梨那さんに宣戦布告された。

「おっ、来たね。今日は負けないよ」

「それはこっちの台詞です。全力で抑えに行くんでよろしくお願いします」

「楽しみだよ。優那が先発?」

「さぁ、どうでしょう?」

「あーっ、そうやって隠すの?いやらしいんだから」

 梨那さんはそう言って優那そっくりの笑みを浮かべた。その笑顔は自信に満ちていて、本当に優那にそっくりだった。いや、まぁ正確に言えば優那が似たのかな。

 神川姉妹の対決。野球好きなこの姉妹の戦いはある意味でレベルが高く、微笑ましく、そして熱いものとなることになる。

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