第十球~完全燃焼~
先頭打者は八番、打席は左。さっきスクリューボールを引っ掛けていたがこいつにスクリューは使いにくい。左打者の内に食い込むように沈むボールは左打者から三振を取るのに向いていない。けれど使い道は多様だ。
「!」
ストライクゾーンから体に向かってくるスクリューボール。コースはボールだが、避けなければ確実に当たるというボールでもない。けれど身体に近いコースというボールは高さ次第では打者にはストライクボールに見えるのである。
思った通りバッターはボール球に手を出した。あのコースは打ってもファールにしかならない。これでワンストライク。内の球の意識を植え付けられたかな。もう一球行っとくか。
次はインコース高めのストレート。流石にこれは見る。ワンストライクワンボール。これで外のボールが使いやすくなった。三球目はアウトコースへのクロスファイア。バッターは手が出ずにストライク。これで追い込んだが……次で勝負といくか。俺はスライダーのサインを出した。優那さんは「あまり曲がらないから」と言って、少し不安そうな表情をしていたけれど少ししか曲がらないボールでも使い道はある。
優那さんの手からボールが放たれる。アウトコースぎりぎりのボール。バッターはバットを振るが……
「ストライク!バッターアウト!」
ボールは打者の手元で真横にスライドして俺のミットの中に入った。よし、ここでこれだけ曲げれれば充分だ。
俺はタイムをかけてマウンドに向かう。
「まず一つな」
「スライダーどうだった?」
「ちゃんと曲がってたよ。ナイスボール」
俺の言葉に優那さんは嬉しそうに笑った。けれど問題はここからだ。
「優那さん、スクリューについて聞きたいんだけど―――」
さて、次は九番打者、打席は右。前の打席では一つ三振している。確かスクリューを三振してたんだっけ。
まず外のスライダー。ストライクゾーンに入るか入らないかのボール。審判の判定は、
「ストライク!」
よし、これで一つ。次に外に逃げるスクリューボールを使って空振りを取ると、最後は顔の高さにインコースのクロスファイアで三振を奪う。どうやら自棄になっていたらしく明らかなボールの高さを振ってくれた。これでツーアウトだが問題はここからだ。迎えるバッターは一番。ここまでヒット二本に加え、初回もヒット性の当たりだった。こいつを三振に取るのは容易なことではない。ミートが巧い上にパワーもあるときてる。とんでもねぇ奴だよまったく。
初球はインコースへのクロスファイア、ただしボールを要求する。優那さんのコントロールはかなり良いので要求通りの球がきた。バッターはそれを見逃す。
「……!」
ここで使うぞ。こいつ次第でこの打者を三振に取れるか取れないかが違ってくる。優那さんは俺のサインに頷いて―――、
「ストライク!」
アウトコースいっぱいにスクリューが決まる。浅村はそれを見逃してワンストライク。
よし!ナイスボール!俺はすぐにボールを返して思考を働かせる。ここまでこのバッターに打たれているのはどれもクロスファイアである。変化球をファールで粘ってストレートを投げてきたところを叩くというバッティングをしている。今のスクリューは決して厳しい球ではないけれど見逃したということはこの打席もストレート待ちなのだろう。
三球目はインコースのスライダーを要求。コースは甘くても良い。あまり曲がらないスライダーをバットが捉えるもファール。ここでバッターを追い込む。
ここで決めるぞ。自信持って投げろ!
「……!」
優那さんはふうっ、と息を吐いた。実践で試すのは初めてらしいが優那さんなら絶対に投げられる。彼女の手からボールが放たれる。インコースに速いボール。打者の体に当たるようなボールは――――!
パァン!
「ストライク!バッターアウト!」
審判のコールがされると同時に優那さんはマウンド上でガッツポーズをした。俺は大きく息を吐く。ふぅ、まさか三者連続三振が本当に取れるとは。
最後のボール、右打者の体からストライクゾーンに曲がり落ちるスクリュー。そのボールは今まで彼女が投げてきたスクリューよりも球速があった。避けたバッターも面食らったような顔をしている。そりゃあ自分に向かってきたボール(そこそこ速い)が気付けばゾーンを通過してるんだからな。
さてと、優那さんが地区の強豪相手にここまで頑張ってるんだ。そろそろ俺達も点を取らないとな。女の子一人頑張らせておいて完封負けってのは情けないし。それにウチのチームが打ったヒットはまだたったの一本のみ。この回の攻撃は八番の優那さんから始まる。
「ストライク!バッターアウト!」
優那さんは三振に終わり、九番の笠原に期待がかかる。頼むぜ笠原。お前は誰よりも練習してただろ。笠原はボールに食いつくようにバットを振り、何とか辛うじてファールにしている。そして、
「フォアボール!」
「っしゃあ!」
四球を選んで笠原が出塁する。あれだけのピッチャーからファールで粘って四球が取れたというのはそれだけでファインプレーだよ。一塁上に立つ笠原に向かって俺は拳を突き上げた。
「やっとランナーが出たんだ。ここで一点ほしいよ健翔君」
ベンチの外でキャッチボールをしながら優那さんはそう言った。あと一イニングあるがランナーが出たこの回に勝負するしかない。
打順は先頭に戻り、一番の大河先輩が打席に入る。ここまで三振一つと内野フライ一つ。ゲッツーだけは避けたい場面で先輩はセーフティーバントを試みた。先輩はアウトになったがランナーの笠原は二塁に進んだ。
ここで俺の第三打席。注目投手菊川との三度目の対戦。俺はここまで二三振。けれどこの打席だけは絶対に打つ。バットを長く持つ。この際どう持とうが変わりはしない。ランナーの笠原をホームに返す。
「―――!」
スパァン!
「ストライク!」
真ん中高めのストレート。俺は空振ってワンストライク。
さぁ来い。絶対打つ。菊川が投じる第二球目―――!
球が遅い。チェンジアップだ。二球目で使ってきやがった。 届け!俺はバットを出す。右手が離れ、左手だけで振り出したバットはボールを捉えた。俺はそのままリストの力を使ってバットを振り抜く!
打球はレフトに上がった。レフトが下がる。どうだ、捕られるか!?
「抜けやがれ!!」
打球は―――――越えた!二塁ランナーの笠原は三塁を蹴る!
「っしゃあぁぁぁぁあああああああああああ!!」
俺は二塁まで走って塁上でガッツポーズをする。これで三対一。まだ二点差なのにベンチの中は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。さて、この回反撃といきますか。
「よし、残りアウト三つだ。全部三振狙っていくけど体力保ちそうか?」
「うん、大丈夫。余裕だよ」
あの後、磯崎先輩のヒットで一点差に詰め寄るも反撃はそこで途切れた。ラストイニング、マウンドに立つ優那さんに疲労の色は見えない。
「四番だけは警戒するぞ。その前の二人はさっきのスクリューとスライダーを見せてストレートで勝負な」
言葉通り、優那さんは俺の配球に従って連続三振を奪った。ここで迎えるのがこのチームの四番。ここまでヒット一本だがスイングが他の選手と比べて段違いだ。当たればフェンスオーバーなんてことも有り得る。ストレートを見せ球に変化球でカウントを稼ぐ。カウントツーストライクツーボール。
最後の決め球に何を使う?やっぱりここはストレートで……
と、ここで優那さんが初めて俺の出したサインに首を振った。じゃあスクリューか。彼女にとっての代名詞であるこのボールによっぽどの自信を持っているんだな。よし、来い。思いっきり腕を振って投げろ!
優那さんは楽しそうに笑ってウイニングショットを投じた。
「ストライク!バッターアウト!」




