嬉々魔術
「まっさかー」
どこかぬけたような声で答える赤石を見やりつつ壁に掛かっている時計を、横目でチラッと見る。
もうすぐクラスメイトが登校して来る時間になっていた。
そろそろ居心地の悪い時間帯が来ると思うと吐き気がする。
お腹の辺りが重くなり、ぞわっと腕に鳥肌の立つ感覚がした。
「笑ってはいないんだけれどね……。それじゃあこうしよう。
僕が今日中に君の何の役にも立たなければ、友達になるのは諦めるよ。
その代わり!
一回でも役に立てば無理にでも友達になってもらうよ。君が何と言おうとね」
「……なんだそれ。そんな賭け事みたいなのを俺が受ける必要性とか、メリットが欠片もないじゃないか」
「たしかにそれはあまりないだろうけれどね、得る者は僕だよ。
友達友達。
そうすりゃ一人でもないし、周りから取り残されることもない」
先程、無理にでも友達になる、と言っていたから俺がその賭けを放棄しても、多分無理矢理引っ付いてくるんだろう。
昔から切り替えや踏ん切りが早いなど評されている俺は、諦めてその賭けを承諾した。
単に諦めが早いとか根性が無いとかそこら辺なのかもしれない。
承諾の言葉を赤石に伝えると、心底嬉しそうな顔をし机を蹴飛ばすような勢いで飛び降りて
ギリギリまで俺に近づいてくると、両手を掴んで勢いよく上下にぶんぶんと振った。
痛い痛い。
「ありがとう!」
「……本当に役に立つんだか」
「そこら辺はちゃんとやるよ」
そう言うと赤石は左手を軽く上に上げた。
かと思うと、その手には俺の愛用の青い筆箱が乗っていた。
「ほら、早速忘れ物のお届けでーす」
「……マジ、かよ」
早々と赤石が役に立ってしまった。
あっさりしすぎて、何の言葉も出ない。
あまりにも唐突で、やるせなさが俺を支配する。
俺の空いている右手にぽんっと筆箱が乗せられた。
「ほらー、もう。宮本くん友達いないんだから鉛筆なんて借りれないんでしょ?
気をつけなきゃ足許掬われる……とは違うけれど、困るんでしょうが」
「……ありがとーございました」
精一杯の皮肉を込めた言葉と、いつもと違う低い声でお礼を伝える。
その俺の少しの声の違いにも気がついていないであろう赤石は、ニコニコと笑っている。
してやられた、と思った。
赤石は魔術師だから、魔術を使って助けるのは目に見えていたが忘れ物を届ける、という形で役に立たれたのは意外だった。
裏をかかれるというのはこういうことなのか。
「とりあえず、今日からよろしく友達」
そう言って赤石が更に強く握った右手を俺は握り返した。
「よろしく、お願いします」