準備万端
「まあー、ずいぶんと平坦で平凡な終わり方で」
「話したのはこっちだが聞いてきたのはそっちだよな!」
はっはっは! と笑い悠太がついに口を噤んだ。
話しながら食べ続けていたアイスも無くなって、チョコレートのかかったカリカリのコーンフレークが顔を出す。
あたしはスプーンを握り直し、それに今度は勢いよくザクッとスプーンを突き刺す。
ザクザクザク、とコーンフレークを突き破り、下の層になっていたチョコレートアイスまで到達する。
その間約1秒。瞬間的な間接的快感に浸った。
粉々になったコーンフレークを少しだけ掬う。
口に入れれば今度はチョコレートのねっとりした舌触りがした。
そこで気づく。
うーん、あたしはチョコレートとコーンフレークのタッグは、好きじゃない。
今までは普通だったのに、何でだろう。今日は調子が悪いのかな。
そう思いながらもう一口食べると、やっぱり気持ち悪かった。
「ずいぶんと微妙な顔してるな」
「ねっとりしてて気持ち悪い。ここだけあげる」
そう言って、グラスの中に半分以上残っているコーンフレークの部分だけ指差し、グラスごとずい、と悠太の方に寄せる。
悠太が目の前に置かれたグラスとあたしに交互に目をやる。
最終的にあたしの方を見てからグラスの中のどろどろとしたチョコレートとコーンフレークの部分を掬い口元まで持っていった。
一口食べた悠太の顔を見ると、表情が明るくなっていた。
何、悠太この部分好きだったの? と間髪入れずにそう聞いてみた。
「俺は甘党だ」
へぇ、知らなかった。
そう言った途端この店の扉が開く音がし、あたし達の時と同様鈴のチリンチリン、という音がした。琴音とあやかなー、と思い半身だけ振り返り、少し向こうにある扉を見る。
店員さんのいらっしゃいませー、というマニュアル通りの言葉が聞こえ、二言三言話した後にこちらに振り返った。
店員さんが横を向いた瞬間、亜麻色の背の低い女の子と黒い背の高い女の子が見えた。
来た、と思い姿勢を戻して悠太に話しかける。
「来たよー二人とも」
「うぉ、マジか……。いいか、一条。俺とお前は、たまたまここで会って、これも何かの縁だと、互いに了承の上で一緒の席に座っていることにしてくれ」
「嘘吐きは泥棒のなんとか!」
「はじまり!」
そんな長い台詞っていうか設定、覚えられるわけないじゃん。
そう思った瞬間、はたと私がスプーンを持っていたらまずいことに気づく。
パフェが一つにスプーン二つ。これってどう見ても一緒に食べてたってことになる。
たとえ一緒にいたことは共用してくれるとしても、これまでは許してくれないよね。琴音だもの。
そこであたしの持っていたスプーンを、悠太の空いていた左手に強引に押し付ける。
「なにすんだ」
「いーから持ってて。もう一人で全部食べてていいから、一緒に食べてたこと悟られないようにして」
「全部俺に払わせるきか」
「もー、いいからー」
あたしのスプーンの押し付け合いが始まる。
けれど幾分もしない内に店員さんが、二人を引き連れてこの席に近づいてくる足音がする。
ヤバイ、と本当にそう思った。
慌てて悠太にスプーンを押し付けた瞬間、悠太の前にあったコーヒーの残っているであろうカップを、こっちに引き寄せる。
これでオッケー。さあ、いつでも来い!