馴初め話
「悠太はさ、琴音のどこが好きになったの?」
「………………」
カラーン、と悠太の持っていたスプーンが木製のテーブルに落ちる音が響く。落とした本人の表情はまるで仏像。無表情に近かった。
おい、と声をかければ一瞬で我に返ったらしく、慌ててスプーンをもう一回手に持った。
「……何故そんなことを聞くんだ」
「だって、二人が来るまで暇だしー、ちょっと気になったから」
「んな、こっぱずかしいことここで言えるか!」
「じゃ、じゃあ! 馴れ初めっ! 馴れ初めでも話しなさいよ!」
実際には、知ってるけどね。
琴音と悠太の記念日をあたしは知っているし、二人の後押しをした人も、どこで告白して、いつからお互いを好きだったのかも知ってる。
けれど、当事者の気持ちまではあたしも知らない。これは当人に聞けばきっと面白い話が聞けるんじゃないかな。
さあ、話してみてよ、その口から聞きたいな。
「馴れ初め……つってもそこは好きだからー、とかだろ」
「いつから好きだったの?」
「えっとな……たしか一目惚れだ。小さいやつが好きだったんだ」
「うっわーロリコーン」
「お前が聞いてきたんだろ! 黙って聞け!」
何この人いつの間にかノリノリじゃん。
最初は言い渋るけど結局はぺらぺらと饒舌になって喋るんだから、やっぱりバカップル。
悠太の話し方だと皆むかつくだろうから、あたしが要約して説明しよう。
琴音がいつ悠太のことを好きになったのかは知らないけど、悠太が琴音に一目惚れしたのは、中学生になってすぐのことらしい。
ここで細かい説明をすると、北上と琴音とあやと悠太は、皆一つ駅を挟んだ隣町に住んでいる、らしい。
北上とあやは幼稚園の頃からの幼馴染で、琴音とは小学校からの仲らしい。北上と琴音が幼馴染だ、と形容し難いのは小学校から一緒のせいだろう。
その三人と悠太は中学校からの仲だという。だから、あたしを除いたその三人は、北上とそこそこ仲が良い。
ならばこっちも古くからのお友達的に対抗だ、と言いたいけれどあたしには今仲の良い幼馴染とか同小中は一人もいない。
雅人は、小学校も中学校も違う。同じ市内に住んでるはずなんだけどねぇ。
そういえば、雅人の家とか何処にあるか全く知らない。まあ、これから必ず行く予定があるわけではないないし、別にいいけど。
少し脱線、修正、閑話休題。
さて、そんな恋に恋する男・悠太が琴音に告白したのは中学一年生の夏らしい。水着着て? 海に行って? 仲良くイチャイチャして?
うん、皆とそんな思い出とかほしいね。今年の夏に誘ってみようかな。
そこでの琴音の返事は即オッケーだったらしい。
なんでも、あやが前々から悠太に琴音のことについて相談を受けていて、その手伝いをがしていたからだそう。
ここでも遺憾なくあやはいい人だったようす。いつの時代もお人好しだなぁ。
告白したその言葉は覚えてないらしいけど、告白直後の琴音の顔はトマトのように真っ赤になっていたと言う。
髪が亜麻色だからまるで紅葉みたいだったな、と悠太が思い出し笑いをした。
そして、色々なハプニングを越え今に至る、と悠太が締め括る。