喧嘩仲裁
「お待たせしましたーチョコレートパフェとブラックコーヒーでございますー」
タイミングが良いのか悪いのか。
あたしと悠太の喧嘩もどきを仲裁するかのように、先程の店員さんが注文した物を持ってやって来た。
自分の事ながらずいぶんと大声で怒鳴り合っていたようで、周囲のバカップル客の視線がちらちらとこっちに向けられていた。見てくんじゃねーよー。
真っ白な手で机の上に置かれていくパフェとコーヒーカップ。
先ほどのメニューに載っていたブラックコーヒーの写真が気になっていて仕方がなかったから、本当にどす黒いのかどうか確かめるためにカップの中を覗き込んでみると、これはなるほど。
標準的な色でただ黒いだけのブラックコーヒーだった。ねっとりしている様なあのどす黒さが欠片も見当たらない非常に爽やかな黒。
どんな黒なのかという野暮な突っ込みは無しの方向で。
「騙された……」
「騙していませんよー。写真写りと質の悪いコーヒーがメニュー用写真に載っただけですっ」
それはそれで問題だと思うんだけれど、何だろう、店員さんの爽やかすぎる笑顔を見ているとそれすらどうでもいいかー、と思ってしまう。
悠太もカップの中を覗いたらしく、頭を垂れるように残念そうな声を出した。
まあ、そうだよね。奇抜な感じの商品があったら、好奇心旺盛な人間は注文しちゃうよね。落ち込むなよ、悠太。
手を伸ばし、悠太の肩にポンと手を置いてそのまま二、三回慰めるように軽く叩く。
ごゆっくりー、と伝票を置いて店員さんが去っていった。
悪質商法かしら、この店。いつもパフェとケーキしか食べないからよく知らなかった。
右利きのあたしは、右手に銀色の小さめのスプーンを一本手に取り左手にもう一本スプーンを持って、悠太に差し出す。
悠太はゆっくりと顔を上げそれを受け取って、小さくいただきます、と呟く。
そのままチョコレートのかかった、バニラアイスクリームの部分に突き刺す。
スプーン一杯に乗ったアイスクリーム。そのまま悠太の口の中に消えていった。
「いただきまーす」
あたしも右手に持ったスプーンで、悠太がスプーンを突き刺した反対の部分に同じようなアイスクリームの部分に突き刺す。
少しだけ硬いような、さくっとしたスプーン越しの触感がした。ああ、いつものことで嬉しい。
あたしはこの突き刺す瞬間が大好きだ。
そのままアイスクリームを少しだけすくい、スプーンを抜き出して開いた口の中に入れる。
ひんやりとした食感、バニラアイスの濃厚な味、チョコレートのでろっとした食感。
全てが絶妙にマッチしている、あたしの大好きな味。おいしい。
口の中のアイスが無くなったところで、悠太の表情を窺ってみと、おぉ、と心の中で驚きの声が上がった。
あたしの顔は美味しい物を食べてニコニコしているのは知っていたけれど、まさか、悠太も少しだけニコニコしているとは思わなかった。
仏頂面の面影も今はなく、ただの年相応の少年の表情をしていた。
ここで何か言ったらすぐに仏頂面に戻るんだろうなー。
そう思ったから、少しだけ悠太の顔を上目使いのように窺いつつ黙々とパフェを食べ続けた。美味しさの極みここに極まれりー。