偽悪交際
「ただいま、カップル様限定で全商品20%offとなっております」
カップルじゃないです。付き合ってもないです。それ以前に友達じゃないです。
否定するだけの言葉だけがぽんぽんぽんと浮かび上がる。
あと、何ですかその制度。世の中の孤独死寸前の恋愛依存症な世捨て人をさらに貶めるのですか。
「いえ、カッ……」
「はい、カップルです。ラブラブです」
何だこの野郎。何言いやがんのよ!? そんな視線を悠太に向ける。
目がバチッと合った悠太は、すまなそうな表情をしてこっちに軽く頭を下げてきた。
反射条件のようにあたしもついつい頭を下げてしまう。
それを互いの肯定だとでもとられたのか、店員さんがかしこまりましたー、と言って去って行った。
何がかしこまったのかしら、ねぇ?
「ふふふ、ラブラブだったのー、あたし達?」
「嘘に決まってんだろ」
「んなこと分かってるわよ! なんなのよアンタ! 嘘吐くな!」
嘘吐き! ろくでなし! せ-たかのっぽ! りあじゅーが! 羨ましくなんかないからね!
一気にまくしたてる。言葉を挟む隙も与えないほどに、次々に言葉が出てくる。
あれ、あたしってこんなに、話して喋って怒って怒鳴る人だったっけ?
違うよね、これは悠太が悪いせいであたしには何の非もない。
この怒鳴ること事態に誰が悪いとかあるのか、と聞かれたら微妙だけれど。
「せーたかのっぽ……は、関係ないと思うが。あと、リア充はお前もだろう、一条」
「身長ちょーだいよ。5cmくれたって変わらないでしょ? あとね、あたしは今の恋愛と状況には満足してないから、リア充ではないの。
それに、それらしい事してないからリア充ではないかなー」
べつにね、彼氏がいて彼女がいて毎日いちゃこらして相手押し倒してキャーキャーウフフのふーってするだけが、リア充じゃないんだよ。
友達と毎日仲良く話したり? 勉強でいい成績が収めれて満足したり? それだけで十分リア充だよ。
彼氏彼女の有無はその定義に、重要な部分として加わるらしいけどね。
「じゃあ別れちまえ一条夫妻が」
「黙れいバカップル」
口汚く罵り合ってみても、悠太が幸せ一杯のバカップルである事に変わりはない。
というか、その幸せです、なオーラがあたしは少しだけ気に食わない。
まあ、幸せなら幸せでいい。だけど、相手にその気を悟らせるな、というだけだ。