二人組様
「いらっしゃいませー」
中に入ると、店員さんがすぐに寄ってくる。
あたしが右手の指を二本立てると、理解してくれたのかこちらです、とすぐに空いている席に案内してくれた。
「ご注文が決まりましたら、お呼びください」
そう言って店員さんは去って行った。
アルバイトなのか見た目高校生くらいで、何か親近感が沸いた。
案内された席に座るとすぐ傍にあったメニューをなんとなく手に取る。
いつもの事だから癖が付いているのかもしれない。
頼むのはもちろん、チョコレートパフェだけれどね。
座っているのは日当たりのよい窓際の席で、ぽかぽかと日光が当たるけど店内の冷房がちょうどいいくらいに効いていて、寒くも暑くもなかった。
可もなく、不可もないけれど少し眩しいのがこの席の難点かもしれない。
窓にの外に広がる景色は、いつも見ている車の通り。手前には歩道があってたまに人が通っている。
けれどその前にはここのカフェの庭らしいところがあって、小さな木や花が植えられていて、見ていて気分が落ち着く。
店内に目を向ける。
人は疎らに散っているように少しずつ離れた席に座っていて、開店して30分も経っていないのもあるせいなのか混雑している、とか人がたくさんいる、というような印象はうけない。
お客さんの世代はあたしのような若い世代の女の子が殆どで、その女の子の中にたまに男がいるくらい。多分、彼氏とかそんなところだろう。
あれ、でもこれって、あたしと悠太も彼氏彼女の仲だー、とか周りから思われるんだよね?
んー、イヤすぎる、ってこともないけどイヤだなぁ。
そんな仲睦まじい関係でもないから、誤解しないでくれたまえー、交際中の諸君。
悠太に目を向けると、男が少ない、ということもあってか少し居心地が悪そうだった。また眉間に皺が寄っている。
手を伸ばせば届きそうな距離感だったから、少しだけ腰を浮かせて手を伸ばし悠太の眉間をちょい、と突付いてみた。
「皺寄り顔を、たっちんぐ」
「ぬぉ……なんじゃそりゃ」
不意を突かれた悠太は一瞬驚いたかと思うと、あたしに向かって怪訝そうな顔をする。
あたしの手をパッと払い、左手に持っていたメニューを奪う。
「あー! なにすんの! ……って、何か不機嫌なご様子で」
「わははー、返さんぞー。……おう、不機嫌だ」
意味不明なやり取りをする。
不機嫌だー、とか言った悠太の顔に、眉間の皺は見当たらなかったけれどその纏っているオーラが重いからきっと、不機嫌。
メニューを覗く悠太。あたしも首を精一杯伸ばして、反対側から見る。
んんー、反対から見ると意味不明な食べ物に見える。
何だこのでろでろした甘そうなのは。
「パフェだな、お前がご所望のちょこれいと」
「あら、これチョコなの。未確認のスライムかと思った」
ピギー、と昔々にどこかで聞いたゲームの中の効果音みたいな声を、口に出して言ってみる。
なかなか、似てないね。あたしの物真似はへたくそ、っていうことで。
先程の可愛い店員さんがこっちの席に近づいてきたから、すいませーん、と呼び止める。
パタパタと小走りで近づいてきた。
「お決まりでしょうか?」
「あー、ハイ。チョコレートパフェ一つ。あ、スプーンは二つ持ってきてください」
「かしこまりましたー。そちらの方は?」
「……ブラックコーヒー一つ」
そう言ってメニューの中の一つの商品を指差す。
もう一度覗き込んでみれば、その名の通りにカップの中にどす黒い色をしたコーヒーが入っている写真がある。
うん、少しどころじゃなくて見た目怪しそうな雰囲気が写真から伝わってくるんだけれど、どうなんだろう。
「かしこまりましたー。失礼ですがお客様、カップルさんでしょうか?」
「「は?」」
ハモった二人の返事。変なことを聞いてきた店員さん。
その顔は営業スマイル全開のニコニコ。メイクもばっちりのニッコニコ。