No.02 幻影彼氏
あけましておめでとうございます。
※新年一発目の投稿が変です。
ギャグ、というか全力でふざけて書いた文です。
殆ど会話だけで成り立ってますが、軽い描写は入ります。
本文には全く関係ありません。ですが土曜の夜、という設定です。
では、どうぞ。
思えばあれは、あたしの分身で、半身で、ドッペルゲンガーで、もう一人のあたしで、でも、そっくりじゃなくて、それでも、あたしなんだ。
おにぎりを買ってから帰った後、あたしは食べ終わっても尚ずっとテレビを見続けていた。
あたしはテレビっ子じゃないけど、この家には娯楽のための物が殆ど無いから、テレビを見るしかなった。
まあそれは、あたしが買ってないせいだけどね。
だいたい、家に帰ったらそんな感じだ。
どこの家だって変わらないと思うし、あたしが特別変なわけじゃないと思う。
今見ているのはドキュメンタリー番組? とかいうやつ。なんかドッペルゲンガー特集!! とかいう番組内容らしい。
ドッペルゲンガー。あたしもそれくらい知っている。
たしか、本人にそっくりな人間がもう一人現れて、勝手にその人の生活を乱すんだっけ。
友好関係とか、貯金とか、愛とか、夢とか。
全部壊して、壊しつくして、本人とドッペルゲンガーは、対峙しちゃうと本人が消えてドッペルゲンガーだけがその場に残るんだよね。
なんて理不尽なんだろうね、そしてなんて不利益なことをするんだろう。
ドッペルゲンガーは本人が消えると、その人として生活していかなくてはならない。
つまり、その乱れた生活の後始末、というか一番困るのはドッペルゲンガーだというのに。
それなら、最初から本人の前に現れて本人を消してしまって、自分に利益のあることをすればいいんじゃないの。
あたしは、そう思った。
けどまあ、ドッペルゲンガーにも色々あるんだろうね、事情ってのが。
そんな、ドッペルゲンガー特集。
しかも前日から大々的にCMに流れていたから、なんとなく見ただけだ。
特番まで組んで、しかもゴールデンの時間帯。
どれだけ力入れてるんだろうね。
じっと見続けていた時、突然画面が横にぶれた。
ジ…………ジジ……ジジジシ……゛ジジ…………ジ
瞬き一回。二回。三回目。
『やあ、こんばんは』
おひさしぶりね、マイダーリン。
「……ッッ……キャアアアァァアアァアァアアァァァ!!!!!???」
マイダーリンが来た!
『おー、うるっせー』
「な、な、ななな、なによアンタ!」
『うん? オレかい? 君のマイダーリンだよ、マイハニー』
そこで携帯電話を取り出し、ボタンの11、まで押したところで手を掴まれる。
「触んじゃないわよ! 通報すんのよ、この、キチガイ!」
『ちょっと待てよ! 何で通報すんだよ片割れさん!』
は?
その表情を浮かべると、あたしの携帯電話を握る力が一瞬緩んだのか、ばっと携帯電話を奪われた。
その反動であたしの体が数歩後ろに下がる。
「なにすんのバカ! 返せ!」
『通報しないって約束してくれ!』
「分かったから! 返してよ! ねぇ! お願い!」
あたしと同じくらいの背丈の彼の腕を掴んで、懇願する。
すると、律儀にも電源を切った後に返された。
ちくしょう、と真正面からしっかりと目を見て睨みつける。
ん? あれ? この顔どっかで? ああ、これあたし。
「キモい! 去れ、ドッペルゲンガー!」
『や、違うって! その前に消えてないじゃん片割れさん!』
は、とそのとき気づく。
たしかに、あたしの体はそのままあって、部屋の様子も変わってなくて、携帯電話も手元にある。
ただ……
「あんたみたいな非日常極まり無い存在がいるせいで現実味薄れるわ」
『つれないぁ、せっかく昼間も話しかけたのに』
「ああ、あんた脳内マイダーリン(笑)なの」
『(笑)になってますが、片割れさん!』
「うっさいわね。人のこと固ゆで卵みたいに呼ばないでよ」
『じゃあなんとお呼びすれば! オレもあなたも二人で一人の“一条萌”なんだよ!』
「萌でいいわよ。あんたのことは、マイダーリンって呼ぶ」
『こっぱずかしいね、マイダーリンとか』
「お黙り! 恥ずかしいのはあたしのほうだけど呼び慣れてるからいいの!」
恥ずかしさに耐えながらどっかとソファーに深く座る。
テレビの画面はもう地デジ化しているというのに、黒と白の砂嵐だった。
しかも、その中心部分に黒い穴がぽっかりとある。
「マイダーリン」
『なんでしょうか!』
「ここに座りなさい」
二人がけのソファー。その左隣にマイダーリンを座らせる。
ドン、という感覚のしないあたしのマイダーリン。
きっと彼に重さは無い。だって彼は、あたしの創造物だから。
『重さ、はオレには無い。けれど、触ることはできるんだ』
そう言ってあたしの左手をぎゅっと握る。
「離せ!」
『隣に座ってる時点で和解成功したのかと!』
「誰が和解するのよ! 通報しても無駄なのは分かったけど、殴れるんだから!」
マイダーリンが握ったまま離さないあたしの左手。
それを持ち上げてそのままマイダーリンを殴ろうとするけれど、全く動かない。
『男の子、ですからね。一応』
「チッ……。分かったわよ、殴らないわよ。」
『見た目は、萌にそっくりの少年だけどね』
「ああ、たしかにマイダーリン胸、無いわね」
マイダーリンはあたしにそっくりの容姿をしている。
違うのは、少し短くなった髪と、平らな胸。
右手をグーにしてマイダーリンの胸元に打ち込むと咳き込まれた。
『ゲホ……ウェッホ、ゲホ……酷いなぁ、萌は』
「何で笑うの、マイダーリン」
『はは、痛いけどね。でもこれは萌の胸に空いている穴に収まりきらないほどの痛みだと思えば、痛くないんだよ』
ニコッと、あたしの顔が目の前でニコッと笑う。
ニコ ニコ ニコ ニコ ニコ ニコ ニコ ニコ 。
ニコッ。