気狂挨拶
「赤石は?」
「購買に行ってる」
鎮西は殺気が消えた後、許可無しに隣の席の女子の椅子に座る。ここが私の席よ、とでも言うように当然のように座った。
俺の知り合いは、俺の物は俺の物、お前の物も俺の物精神でも身につけてるんだろうか。
気にしては駄目だと思い、鎮西と談笑をすることにした。
「百合奈をあんたに紹介しようと思ったけど、あの子今友達と話してるから後にするわ」
「そうか……それ、今回の話の本題だよな」
「そうね。私無駄なことは話さないもの」
ふう、と息を吐いて鎮西が言う。
どうやら、鎮西の言葉を勝手に分析すると北上の友達=鎮西の友達、というわけではないらしい。だって、そうだろう?
北上の友達と鎮西の仲がよかったら、俺の方には来ないだろう。
「あんたとの会話、続かないわ」
「すんませんねぇ、会話が苦手なもので」
「本当ね、コミュニケーション能力の欠片もないんじゃないの?」
「いや、一応会話成立してるから、欠片ならあると思う」
言い返してみると、鎮西が目を丸くした。その後にふっ、と笑う。今度は今まで見たことのない顔、苦笑だ。
なんで笑うのかが分からない。そう鎮西に言ってみると、あんた、真面目ね。と返された。自分でも一応真面目風だからそうだな、と返すともう一度苦笑される。
鎮西のことは、よく分からない。
分からない、と言っても誰よりもこの人が理解し難い、とかではなくなぜ笑うのかが分からない、ということだ。
笑う、ってことは面白かったのだろうか。
じゃあ何が? 俺、面白いこと何かしたっけ言ったっけ?
俺自身が思いつかないなら面白くないのかな。それとも鎮西が笑い上戸なのか。
笑い上戸、ではないだろうな。
記憶の中にある一番古い鎮西の表情は、いつだって仏頂面なのだから。
それよりも、鎮西の表情を覚えている俺の頭はおかしいのかな。
家族と瀬七以外の情報が脳に深く刻み込まれたのは、あの時以来鎮西が初めてだったりするんだよ。それだけ俺にとって印象深い人。
鎮西さんは、変な人。
「和南香」
いつの間にか、黒髪の女子が鎮西の前にいた。
そう、この人の名前和南香だっけ? 人の名前なんて覚えてられないなぁ。
あれ? この人は誰だっけ?
「どうしたの、百合奈」
黒色の女子の顔を見て鎮西が不思議そうな顔をする。ああ、知り合いなんだ。その人。俺が知らなくて当然。
「一緒にお昼を食べませんか?」
「いいよ」
すっと立ち上がった鎮西。
俺のほうに向きを変えてきた。
……ん?なんだい?
不思議そうな顔をして俺を見ないで“委員長”
ああ、この人委員長。
「初めまして……ではないですかね。和南香と仲がよかったんですか? 宮本くん」
初めまして、懐かしい呼び方をするんだね委員長さん。
さあ、彼女になんと答えようか。
なんと言ったら喜ぶのかい? “北上さん”