満面殺意
その場所から一刻も早く離れるため、走る走る走る。
犬走りを駆け抜け、階段を駆け上がり、二階に着いた時点でキュッと止まる。
同学年のやつに奇異な目を向けられたら終りだ、という俺の本能が作動した。
廊下を静かに歩いている間も顔は熱い。あー、と小さい声を上げ上を向いて歩く。
教室に入ると、クラスメイトの殆どが昼食をとっていた。自分に椅子にすとん、と座ると気が抜け、机に突っ伏す。
あー、終わった。あー、死んじまいたい。あー、瀬七に申し訳ない。
いろんなあー、が脳を駆け巡る。ぐるぐるぐるぐる。
肩を叩かれる、トントン、はいなんでしょう。
「なにしてんの、アンタ」
「げっ……」
目の前に鎮西がいた。
反射で思わず上げてしまった顔をもう一度ばっと伏せる。
しかしそれを鎮西が許すわけもなく、魔術でぐ、ぐ、ぐ、と顔を持ち上げられる。
ついでに頬をこれまた魔術で抓られる。
「い、いひゃい、いひゃい!」
「あら、面白い顔」
楽しそうに残酷な笑顔を浮かべ、指先をつい、と動かし鎮西が更に頬を強く抓る。
そうかそれか、指先で魔術を操るなんてことできたんですね鎮西さん!
鎮西が手をパーにした途端、俺の頬を強く抓っていた力がふっと抜けた。
肩の力が抜け、痛さのあまり抓られていた右頬を思わず摩る。
ヒリヒリとした地味な痛さは何秒待っても抜けず、俺の右頬をじわじわと苦しめる。
鎮西の顔を見上げると、昨日は見れなかった非常に満足そうな笑顔が見れた。
鎮西って、顔だけはいいんだよなぁ。頬を抓られてもなお、そう思う。性格は、あれだけど。非常に自己中心的な感じで。
「絞めるぞ」
「何処を!?」
鎮西がグッと左手を握る動作をした途端、悪寒がした。殺気がする。
絞められるのは多分、首。きっと首。絶対、首。
鎮西は、ここで息の根を止めてやろうか、とでも言い出しそうな世にも恐ろしい表情をしていた。
すいません、と謝ると鎮西を覆っていた殺気がなくなった。