電話番号
「ごちそーさま」
茶碗半分程度しか入っていないご飯を食べ、使った箸と茶碗を洗って乾かす。
風呂場に行き小さめの白い洗濯機に、ネットに入れたシャツを放り込む。
中には昨日姉が脱いだらしい、ネットに入った服やハンドタオルの類が少しだけ入っていた。
そこに俺の服が一着追加されても、洗濯機をまわすには少し惜しい量。
汚いのは気になるが、節約と思って涙を呑もう。まわすのは今日の夜だ。
主婦的感覚が身に染み付いたことを、今は憂えた。
携帯で時間を見ると今は10時50分。
家から学校までの距離は800m程。余裕を持って10分程度で歩いて行ける場所だ。
3限目の終了時刻が11時45分。だからあと40分すれば家を出ればいい計算。
それまでは何をしようかと悩むが、何も思いつかない。おねーさんと楽しく話に花を咲かせようと、居間に向かう。
「姿勢が悪い」
姉に向かってそう言い放つ。
実際、姉はあのぐてーっとした状態のまま、少しも姿勢が変わっていなかった。
詳しく言えば、ソファーに座ってはいるが尻の部分はソファーからはみ出していて、伸ばされた足はソファーとテレビの間にある小さなテーブルの上に偉そうに置かれている。
見ていて気分が悪い。注意しても全く聞く耳がない姉。
親父や母さんが注意すればその場限りだが直すくせに、俺が注意すれば全く直す気配を見せないし、もしくは直そうとはするがすぐに戻っている。
今では注意されたことを忘れだめ人間みたいになっている姉。注意しても俺の言うことを聞かないのは、俺が弟のせいなのか。
それでは理不尽だが、弟だから偉そうに言えるわけもない。これはこれで、普通の姉弟のようじゃないか。
諦めの早い俺、我慢しよう。
「姿勢が悪いのは私の常であって注意されることではないと思うけれど最近背骨がゴリゴリするのはこのせいだと思う。タツキはどう思う?」
「お前のせいだ」
長ったらしい台詞を吐いた姉の足を掴んで机から下ろす。
パッと手を離せば、重力に従って足は床に落ちる。尻も足も床にゴン、と打ちつけられて姉が悶絶した。
恨めしそうな目で見てくる姉を一瞥すると、目を逸らされた。のそのそと今度はちゃんと動き、ソファーに座り直す。
「怨むぞータツキー」
「おーおー怨んでみろ。せいぜい妬むのが関の山だろ」
「なんだとコラ」
唾を飛ばしながら汚い言葉で罵り合う。
何を言ったかはご想像にお任せする。ここで書けない程度の醜い言葉だが。
5分も罵り合う内に言葉のストックが切れ始める。
今度は小難しい言葉で罵ろうとするが、罵詈雑言、しか思いつかない。
なんということだ。これは日頃どれだけ勉強してないかが示唆されてるじゃないか。
どっちからともなく言葉が止み、俺は立ったままテレビに映っている番組を見る。
姉の方を見れば、普段めったに見れない真顔が拝見できた。
どちらも何も言わないまま、時は少しづつ、着実に過ぎていく。
聞こえるのはブラウン管越しの、フリーダイヤルだ。
0120-***-***。
0120-***-***。