絶叫虫意
耳の奥で虫のざわめきが聞こえる。
葉桜の風に揺られる音がする。
車が道を走る耳障りで大きな音が聞こえる。
ガタンと揺れ、線路をただ走り続けるしかない電車の音。
人の話す声と足音、ドアの開閉する音が聞こえる。
けたたましい相棒の機械音は、聞こえない。
布越しの肌に優しく触れる、震え続ける冷たいそれ。
優雅なんてとてもいえない、朝か夢か。
「……っ、ピカソ!」
謎の寝言とともにガバッと顔を上げる。
同時に携帯電話が震えているのが分かり、急いでズボンのポケットから取り出した。
画面に映っているのは発信者の名前。
【赤石瀬七】
カーテンを閉めているせいでよく分からないが、もう朝になっているようで、朝日が差し込んでいる。
昨日ベッドに倒れこんだときからいつの間にか眠っていたらしい。
駄目だ、完全に姉と同じような生活サイクルになりかけているんじゃないか?
それだけは避けたいよな、何せ姉はニートだ。社会生活不適応者、とも言い換えることはできるが。就職活動しなくても、大丈夫なんだろうか……。
考えても無駄な姉の事は頭から追い出し、携帯電話をぱかっと開き発信ボタンを押す。
「ふぁ――い」
《おはよう宮本。よく眠れたかい?》
携帯電話に耳を当てると、いつもより少し音質が悪い瀬七の声が聞こえてきた。
朝っぱらだというのに瀬七の声は昼間のように明るい。
「それはーもう……ぐっすり……」
《おーい、寝るんじゃないよ。起きやがれ寝坊野郎が》
「いやだってこれ眠い……。……は? 何だって?」
瀬七の言葉に、耳を疑う。
《だから、寝坊野郎だって言ってんだよ、お馬鹿サン》
寝坊寝坊寝坊……その熟語が頭の中でぐるぐると回り続ける。
急に背中を冷たい手でサッと撫でられたように、背筋が寒くなる。ブルッと震えた。
携帯電話を耳から離し、傍にあった目覚まし時計をゆっくりと見る。黒を基調にした四角くシンプルな目覚まし時計。
その長針が指しているのは4と6に挟まれた5という数字。短針が指すのは、10と11の間だった。
=10時25分。ジャラジャラチーン。
そこで目が覚める。
「嘘だろおおおおぉおぉぉぉおお!?」
俺の叫びは家中に響いた。