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でいばいyouth  作者: TOKIAME
03 「健康な生活と跳ねる髪の毛」
28/60

空腹絶倒


「お腹空いた」



 髪の毛を入れた袋の口を縛り終えた姉がそう言う。

 何時もなら母さんが帰ってくるまで我慢しろー、と言う所だが、今日は誰も帰ってくるはずもなく、俺と料理のできない姉のために俺が、作ることになる。

 今は15時くらいで今から作れば、ちょうどいいくらいの時間になるだろう。


 そうなれば早速、とキッチンに行き食パンを見つけこれでも食べてろー、と姉に5枚切りの食パンが、まだ3枚入っている袋を投げつける。

 片手で器用にキャッチした姉が嬉しそうに袋を開け、もぎゅもぎゅとそのまま食べている。

 焼けってのー、食パンくらい。朝いっつもなんとか焦がさないように焼いてんだから。

 そう思ったが朝は直感でメータをセットしてパンを焼いている姉が、夕方でも朝の直感でメーターがセットできるとは思えず

 トースターが食パン諸共(もろとも)黒焦げになっても困るから、何も言わないまま大きな冷蔵庫のドアを開ける。


 ドアを開ければ春には寒いとも涼しいとも、どっちとも取れない冷気が顔に当たる。

 中を見るとパックに包装されている2切れの鮭の切身を見つけた。

 よし、今日のメインディッシュにしよう、と思い左手でパックを取り出し、右手で扉の裏側にある卵を3つ取り出した。あ、落ちる落ちる。


 取り敢えずそれらをキッチンの台の上に置き、ブレザーを脱いでシャツを腕捲りする。シャツはまだいいがブレザーを汚したら明日困る。

 姉の食べ物の興味は、今は何にも向けられていないから何作っても文句は言われない。だから鮭をどう調理しようか悩む。

 もう簡単に塩焼きでもいいけど、ムニエルとかでもいいんだよなー……。

 鮭ってどうして、こんなに簡単な調理の幅が狭いんだろう。


 よし今日はムニエルだー、と何の気なしに直感で作ることにした。塩焼きも捨てがたいが、それはまた別の機会に。

 パックの包装を雑に開け、鮭に塩・胡椒を適当に振りかける。

 味付けがどうなろうが知ったこっちゃない。辛かったら飯食べろ、飯。

 その味が鮭に染みるまでに米を洗うことにした。時間の短縮は主婦の基本。俺は主婦じゃないが。


 シンクの下にある棚を開けでかいタッパーみたいな物に入っている米を取り出す。

 蓋を開け中に入っているカップに、擦り切れいっぱいまで米を掬って入れる。

 米釜に入れた後水をどばどば出しながら、わしゃわしゃと米を洗う。

 3回くらい洗ったら水を切り、炊飯器にセットしてスイッチ・オン。

 え? 洗い足りないって? 不味かったら海苔で巻いとけ。味付け海苔。



「俺は料理をしていいんだろうか……」


 ふとここで、自分の料理の仕方のいい加減さに気づいたわけである。

 まあ、姉も美味いもんが食いてぇとか俺も美味いもんがいいとか、そういうことを頭に入れて料理しているわけもないから、こんな適当な料理になるんだけれど。

 俺はともかく姉はそれなりに食べられる嫌いな物じゃなくて、腹に溜まればそれでオッケーみたいな人だから、俺の料理はちょうどいいと思う。


 考え事をしながら料理をする暇もなく、先ほどの鮭の水分をなんとかペーパーとかいう紙で拭き取る。

 こういう料理の器具みたいな名前は殆ど覚えてないが、用途は覚えているからそれでいい。

 普通ならここでバット? みたいなのを出して鮭に小麦粉をまぶすんだろうが俺の場合は、洗い物をできるだけ出したくないから

 パックの中に、直接小麦粉をぶち込んで鮭にまぶす。ここでも適当さ加減が窺える。


 フライパンを熱し、油を少しだけ入れる。少ししてからその中に鮭を入れ焼いていく。

 中学生の時にこの料理をやったことがあるが、正式な作り方など殆ど覚えていない。まあ、こんな感じかなーくらいの直感料理だ。

 冷蔵庫からバターを取り出して鮭にのせる。表面と裏面がいい具合に焼け、皿に適当にのせる。

 盛り付けみたいなのは洒落た料理だけでいいから、そんなに着飾ったような皿ののせかたはしない。


 フライパンの中に残っている油をティッシュで拭き取り、流しに入れ水に浸けた。

 コンロの下の棚からもう一つ小さいフライパンを出し、また油を入れて熱する。

 鮭だけじゃ物足りない姉のために、もう一品作る。まあ、作るといっても玉子焼きだけどね。普通の。

 そんなこんなで玉子焼きもでき、野菜室からキャベツやらトマトやらを出し水に浸したり洗ったり千切ったりして、玉子焼きと一緒に鮭ののっている皿にのせる。

 良い匂いがして吸寄せられたのか、姉がふらっとキッチンに現れた。


 食器棚から二人分の箸と茶碗を取り出し、机に並べる。

 その時ピー、ピー、という音がした。炊飯器の音で、ご飯が炊き上がったようだ。

 椅子に座っていた姉が立ち上がり、自分と俺の分のご飯をよそう。

 料理はできないけれど、こういう所で何も言わなくてもやってくれるから有り難い。

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