無理展開
「つまりね、友達になってもらって百合奈の良い部分見せ付けて、あんたに百合奈を好きになってもらおうという魂胆よ」
「自分で魂胆とか言ったよこの人」
「事実だわ。そんなの偽っても仕方がない」
「そんな無理矢理なラブコメ的展開なんか聞いたことねぇよ」
大体こういうのは、鎮西が俺に何も知らせないまま友達になって、そこから北上と自然にくっつけさせる。とか、そんな展開なら理解できる。
もう一回言うが、どこでも聞いたことねぇよこんな展開。
「あんたが想像したような、じれったい何時成就できるか分からない行動よりもこっちの方が成果もちゃんと目に見えるし、地に足が付いた感じでいいじゃない」
「俺の考えが見透かされている、だと……!?」
ゆっくりと太極拳の構えをとって、カッと鎮西に言い放つ。
また冷たい絶対零度の視線を頂戴するかと思いきや、今度は、蔑むような視線を頂戴し、ハンッと鼻で笑われた。
取り敢えず姿勢を元に戻し、土下座しながらすいませんでした、と謝る。
「何で土下座するの。みっともないわ、宮本」
「おおっ、名前呼んだ」
「そこかよ、おい」
出会ってから初めて名前を呼ばれ、驚いて顔を上げると若干引いている鎮西の顔があった。
さっきから空気状態だった瀬七が何時の間にか俺の後ろにしゃがんでいて、短くなっていない右側の髪をちょろちょろと弄っている。
「まあ、そんなわけで明日からよろしくね二人とも。ご協力お願いするわ。拒否しても魔術で従わせるせることだってできるんだから。
そんな面倒なことされる前に自主的によろしくねー」
そう言って手を振りながら魔術で扉をガン! と開けて屋上から出て行く。
理不尽なことばっか言うやつだなー、とは思っていたがここまでとは思っていなかった。
人権とかガン無視だ。人権? 個人的人権の尊重? 尊い一人一人の権利? ハ? 何スか、それ。
そんな感じだ。
「……なあ瀬七、どうするよ」
まだ髪を弄っている瀬七に話しかける。
「そうだねぇ……」
手を止めて瀬七が立ち上がった。
「取り敢えず、髪を切ろうか」
そうだな、と言って俺も立ち上がる。
制服に付いている土埃を掃い、開けっ放しになっているドアに向かって歩き出した。