二足歩行
「そんなことはどうでもいいわ。さっきの話の続き。
それでね、初めっから彼氏になれとか無理強いするつもりは毛頭もないわ」
「それなら俺にどうしろと」
頭上に回り続ける疑問符を浮かべながら鎮西に質問する。
彼氏にさせるつもりはない=関わらなくていい、ってことじゃないのか。
俺に何をさせるつもりかは知らんがとりあえず反抗心だけ見せとこう。
ヴ~……、と鎮西に軽く唸ってみると軽く無視された。
ついでに、更に冷たい目で見られる。
「だから、あんたには百合奈の友達になってもらおうと思ったの」
「お断りします」
ジュワッ
そう言った瞬間、何かが燃えたような気がした。
次は何だと思いながら全身を見てみると、俺の髪の襟足の部分が左側だけ襟足の生え際まで燃え尽きていた。
ご丁寧にも直線が入っているように綺麗な焼け目である。
取り敢えず、皆さんそれがどうしたとか思うので、俺の髪の毛講座開講。
俺の髪の毛は男にしては長い。いわゆるロン毛、とか言うやつ。
それが肩の辺りまで伸びてるもんだから長いもんだ。女子かっていう。
加えて金髪だから、見ようによってはヤンキーとか悪い人に見えるかも知れない。
そんなこと全くないっスよ。その髪の毛が左側の襟足だけ燃え尽きました。
だから俺の右側だけ隠せば横髪の長いショートカットの男。
左側だけ隠せば髪の長いロン毛男とかそんな髪状況になる。
まあつまり、とてもカッコ悪い状況になっているのだ。
以上!!
「うっわ、宮本カッコ悪ー」
「そんなこと言われんでもわかっとるわい!」
瀬七に蔑むように笑われ、怒鳴りつける。
次に鎮西に向かってギロッと睨み付けてみると、またそっぽを向いていた。
よく見ると肩がフルフルと震えている。瞬間、クスクスと笑い始めた。
「うっわ、ププッ……カッコ悪ー」
「ほんともう鎮西さん笑わないでください! というか原因またあなたああぁぁぁあ!!」
精一杯の怒りをぶつけても鎮西は尚、笑い続けていた。瀬七も然り。
しかも腹を抱えて大笑いしてるもんだから鎮西よりも性質が悪い。
まあ、当然殴るよね。というわけで全速力で瀬七に走って近づき、頭を一発殴る。
なんか最近瀬七殴ってばかりだなぁ、とか思いつつ更に足の脛を軽く蹴ってやった。
「っぬお! ぐげっ」
奇声を上げながら瀬七が蹲る。やり過ぎたか。
見上げてみると当然のことながら空が広がっている。
トンボの眼鏡がオレンジ眼鏡になるような夕焼け空が広がっていた。
明日は晴れだね、多分。
「これで懲りたか瀬七。鎮西、さっきの話の続きー」
「ップ……分かった、分かった」
え? 何で鎮西に怒らないかって?
そりゃ暴力とか怒声上げたら次はどこを燃やされるか分かったもんじゃないからね。無難に生きよう。今日は運が悪いんだ。
一頻り楽しそうに笑った後、鎮西はこっちまで歩いてきた。
「まだ友達になるのはお断りする?」
「そりゃまあ。ていうか友達になる理由を教えてくれ」
「そっか、そこから説明しないと納得しないわよね、この犬は」
犬じゃないっス。せめて二足歩行型の哺乳類でお願いします。
まあ、詰まるところの人間でお願い、という事だが。
そんな事を言っても無駄だと思い、取り敢えず話を聞くことにした。