貫く刺激
「この人はあれですか。俺のことが好きとか言う人ですか」
そう言った途端、先程後ろ手に閉じていた扉にドン! とぶつかった。
唐突な出来事で何が起きているかは分からなかったが、腹部に鈍い衝撃を感じる。
痛い、と一言だけ発しゆっくり体を起こした。そして瀬七と鎮西のいる方向に目をやる。
「……魔術使うなんて、卑怯じゃないのか」
「高等魔術師ならそんなことお構いなしよ」
そう言って不敵に口元だけを歪めて笑いつつ、しかし、相変わらず剣呑な目つきで俺を睨みながら鎮西がそう呟く。
俺を扉に吹き飛ばしたのは、やはり鎮西のようだった。
んー、魔術使うとは意外だ。多分さっきのは衝撃波だと思う。あれ扱うのは難しいんだけどねぇ。さすが高等魔術師。
過去の栄光を思い出さずんばここに光あれ。
自分でも何言っているんだろう。分からない。俺はまだ、高等魔術師だった頃を思い出しているのやら。
……ん? 魔術? 師?
「あ」
その時、俺の脳に電流走る。
この方、校内で超有名な高等魔術師さんじゃないか。
あー、思い出した。学年代表挨拶とかでよく見るネ。
うん、うん。成績優秀だけど友人少ない俺の類人やっほい。
しかも同じクラスだった気がするような、しないような。
人間ってのはよくわかんないねー。俺も人間だけど。
いつも見かける顔より、目つき悪すぎの猫みたいだから気付かなかった。
「あはは、どんとまいんど宮本。君のこと好きなのは鎮西さんではないんだよ。
つーかこんな美人に好かれてるとか勘違いすんなバカヤロー」
「バカヤロー」
何やまびこごっこしてんですかお二人とも。
「それじゃあ誰が俺を……その、好きだというんスか。……瀬七、ニヤニヤするな」
俺が一瞬好きとか言うのを躊躇ったせいか、瀬七がニヤニヤしながらこっちを見てくる。やめてくれ。
胡坐を掻いたまま二人を見上げると、鎮西は言いにくそうに渋りながら話し始めた。
「そのアンタを好きなのは、私の友達よ」
「へえ、その友達は誰で?」
「北上百合奈」
「へぇ」
知らねぇ。
そう言うと今度はつかつかと鎮西が自ら歩み寄ってきて、顔面をグーで殴られた。
なんか口の中で血の味がします。あ、口の中切れた。
もの凄い笑顔で殴った鎮西は今、気持ち良さそうな笑顔で仁王立ちをしている。威圧感が半端ではない。
あー、でも例えば同じクラスだったら失礼な事したな。
失敗、失敗。
「ビンタがよかった?」
「聞くなら殴るな!!」