朝と夜が出会う時
私の名前は月日 朝陽(つきひ あさひ)。ごくごく普通の就活中、大学四年生。
サバサバしてるとか少しローテンションだとか言われるけど、自分ではごくごく普通だと思っている。
ゼミが終わって、企業の研究をして、帰る頃には空はオレンジに染まっていた。家の鍵を開ける。
「ただいまー」
靴を脱いでリビングへと向かう。扉を開けると、そこにはいつも通り弟の真宵(まよい)がソファーでくつろいでいた。
「おはよう」
「おはよう」
真宵の挨拶に私も返す。それだけ。これが私達の日常。
「朝陽、就活はどう?」
夕飯時、お母さんの問いかけに私は、んーと答える。
「良い感触のがある」
「良かったじゃない」
「うん」
その隣でお父さんと真宵が話している。
「真宵、昨日の配信スパチャたくさん貰ってたじゃないか」
「うん」
お父さんは反対側の頬に手の甲を当て、テーブルに乗り出す。
「ぶっちゃけいくら?」
「そーいうのやらしいから言わない」
「えー」
真宵も私に似て、というか真宵の方がローテンションだ。
お母さんが「確定申告はきっちりね」と口を挟む。
私達家族の食卓は賑やかだ。けれど、私と真宵の会話は無い。
二十時。そろそろ真宵の配信時間かな。わざわざ観たりはしない。
真宵は中学の時にいじめを受け、不登校からのそのまま中卒。私達は初めは心配していたが、いつの間にやら配信活動をしていて、普通にお金を稼いでいた。たくましい。私達は真宵を見守る姿勢をとることにした。
「(お風呂入ったら就活の勉強して寝よっかな)」
私はタンスから着替えを出した。
次の日の朝、眠け眼でダイニングに下りると、眠たそうな真宵がテーブルについていた。いつもの光景。
真宵は昼夜逆転生活をしているから、朝ごはんを食べたら寝るのだ。
真宵は私に気がつくとこう言った。
「おはよう」
私も真宵に返す。
「おはよう」
姉弟の会話はたったそれだけだ。
私達は一日二回、「おはよう」と言う。それ以外の会話は事務的なことだけ。
別に姉弟仲が悪い訳じゃない。姉弟ってそんなもんじゃない?
私はいつもの様に帰宅する。リビングには真宵の姿が。真宵はいつもの様に言う。
「おはよう」
私も返す。
「おはよう」
でも、今日は他に言うことがある。
「ねえ、真宵」
「何?」
「姉ちゃんさ、都会の会社に就職決まって春からそっち行くから。ちょい遠いから一人暮らしするわ」
「ふーん」
興味無さそう。まあ、姉弟って……。
と思っていると真宵がおもむろに立ち上がってこっちに来る。そして拳を上げて言った。
「ふぁいとー」
……。私はなんだかおかしくなって笑った。そして私も拳を上げる。
「おー」
そう言うと真宵がこちらに拳を突き出すので、私も突き出し、コツンと拳を合わせた。たったそれだけ。
新しい生活に慣れて、気温が上昇し始めた頃、私はふと思う。
「(真宵、元気にしてるかな)」
わざわざ配信を観たりはしない。
お盆の時にお土産を買って帰ろうか。真宵は甘いお菓子が好きだから、喜ぶかな。
別に会話なんてしないだろう。姉弟ってそんなもん。
でも、それでいい。




