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天の川の巡礼 ~星の童話~

掲載日:2026/01/15

※挿絵は生成AI画像です。

※イメージ画像です。

 

 夜空を見上げている親子がいます。


「ごらん。天の川が見えるだろう」


「わー、キレイだね」



挿絵(By みてみん)



「あそこがね、銀河の真ん中なんだよ」


「何があるの?」


「星がすごくたくさんあるんだ。それと、『いてA*(エースター)』っていってね、すごく大きなブラックホールがあるのさ」


「ブラックホールって?」


「なんでも飲みこむ星だよ」



 ◆◆◆



 ──ここは、天の川。銀河の真ん中あたり。


 たくさんの光る星、『恒星こうせい』たちがいます。



「さあ、今年もそろそろだな、S8(ハチ)


 青い恒星、『青色巨星せいしょくきょせい』のS2が言いました。


「なにがです? S2(にい)さん」


 こちらはS8。まだ青くはなってません。


「なに言ってる。年に1度の『いて座A*』まいりだよ」


「もう、そんなころでしたかい?」


「とっとと行くぞ、ハチ」


「にいさんは気が早えぇなあ」


「さっさとしねえと。人生はみじけえんだよ」


「そうですね。あっしら、人生わずか5千万年ですからねぇ」


「5千万年なんざあっというまだよ。思い立ったが吉日きちじつってやつだ、行くぞ」


 ────


街道かいどうはにぎやかだな、ハチ」


「今じぶんは、いつもそうですね」


 たくさんの星がきらきらしている軌道みちを、2人は歩きます。



挿絵(By みてみん)



「恒星の大きいの、小さいの、みんな、いて座A*参りだな」


「にいさん、おいら腹へりましたよ。メシにしませんか」


「そうだな。お、あの店にするか」


 ──


「ここの電離気体プラズマ、うまいっすね。にいさん」


「ん~、ちょっとうす味だな」


「ちょっとここ、いいですかい?」


 2人の前に、べつの星が現れました。


(なんだかこいつ、人相にんそうのわるいやつだな)


 S8は、そう思いました。


「あっしはケチな主系列星しゅけいれつせいですがね。おめえさん、腕が立つね?」


 わるそうな星が言いました。


「それがどうかしなすったかい」


「おれたちと組まねえかい? 分け前ははずむぜ」


「やくざもんと仕事なんかしねえよ。行くぜ、ハチ」


「あまり図に乗りなさんな。ここいらの親分はな……」


「おれにぁ、関わりのないことだぜ。親分とやらに伝えな、三下さんした


 ──


「なんだか物騒ぶっそうですね。にいさん」


「ああ、恒星ほしがあつまると、ああいうのがのさばるのさ」


「お前さんたち、ずいぶんのんびりしてるね」


 かん高い声をかけたのは、S14(イシ)でした。


「ああ、イシさん。相変わらず足が速いね」


「へへ。あっしはいて座A*から遠くにいるときは遅いぶん、近くにくると速いのさ」


「あんまり飛ばすとあぶないよ」


「な~に、あっしもB型の主系列星のはしくれだ。ちょっとぐれえの隕石いんせき大丈夫でぇじょうぶですよ」


 そう言うと、S14は行ってしまいました。


「イシさんの声、ドップラー効果で聞こえにくいですね」


「ああ、足が速いからな」


 S2とS8が旅をつづけていると、目の前に激流げきりゅうが現れました。


「こいつぁ、いて座A*の降着円盤こうちゃくえんばんからふきだしたプラズマだな」


「どうします、にいさん。これじゃみんな立ち往生おうじょうですよ」


「なーに、ハチ。おれにまかしときな」


 S2が、恒星風こうせいふうをふき出しました。プラズマにけ目ができて、みんな通ることができました。


 ──しばらく進むと、星がすこしまばらになりました。


「だいぶ来ましたねぇ、にいさん」


「あと10億()(40億キロメートル)くれえかな?」



「きゃあ!」


 どこからか、声がしました。


「……聞こえたか、ハチ!」


「へい、女子おなごの声でしたね」


「どっちだ? ……こっちだ!」


 ──見ると、赤い小さな恒星、赤色矮星せきしょくわいせいが、わるい星におそわれています。


「だれか!」


「うるせぇ! てめぇの水素を、おとなしく渡しな!」


「だれか、お助けを。だれか!」


 わるい星は、その重力で、赤色矮星から水素を吸い取っています。


「さっきの三下か。そこまでだ! その娘さんを放してやりな」


「……てめぇ!」


「これがお前さんのいう仕事かい? か弱い星から、なけなしの水素をうばうたぁ、みすごしちゃおけねえな」


「やかましいやい! かくごしな!」


「おっと、やろうっていうのかい」


 2つの恒星の軌道が近づき、すれ違いました。



挿絵(By みてみん)



「うわぁ!」


 わるい星は、S2の重力ではじかれ、軌道をそれて行きました。


「やったあ! にいさん」


「へっ。そんな遠くに飛ばしちゃいねえよ。ほかのもん迷惑めいわくかけられねえようにしただけさ」


「そうだ。娘さん、大丈夫ですかい?」


 S8は、赤色矮星にかけよりました。


「どうもありがとうございました。あぶないところを」


 赤色矮星の顔を見ると、それは娘ではなく、おばあさんでした。


「おおっと。おめえさんも、いて座A*参りかい?」


「はい……。わたしももう何億年もお参りしておりますじゃ」


「おばあちゃん!」


 孫娘が現れ、おばあさんにかけよりました。


「ああ、おせき。大丈夫。このお方が助けてくれたんだよ」


「ありがとうございました。おばあちゃんを助けていただいて」



挿絵(By みてみん)



「へへ、ばあさんだけかと思ったら、かわいい孫娘もいましたよ。2人は連星だったんですね」


「おい、ハチ。そのはな。おめえより10億歳は年上だぞ」


「それにしても、にいさん。星の命ともいえる水素を盗もうとするなんて、ふてえ野郎でしたね」


「そうだな……。ハチ、もうすぐだぜ。だいぶ軌道速度が速くなってきたからな」


 ──2人が軌道みちを進んでいると、べつの星が現れました。


「お前たち、よくも子分をかわいがってくれたな」


「……おめえは、S1(イチ)。おめえだったのか。うらで糸ひいてたのはよ」


「おれにはな、水素がいるんだよ。水素で恒星ほし寿命じゅみょうがのばせるこたぁ、お前も知ってるだろ?」


「ああ、知ってるさ。イチ……おめえもちたもんだな」


「お前には、寿命のきかけたおれの気持ちはわからねえさ」


「わからねえな。……わかりたくもねえぜ」


「お前には消えてもらうぜ!」


 2人の軌道が交差しました。S1は、はじかれて飛んでいきました。



「にいさん、やつぁどうなったんで?」


「行っちまったよ。銀河系を飛び出して、はぐれ者さ」


「あんなやつには丁度ちょうどいいってもんですよ」


「これでおれの軌道もちょっと変わっちまったが、大したこたぁねえよ。それより、ハチ。見てみろ」


「あ、やっと着きましたね」



 目の前に広がるのは、いて座A*の降着円盤でした。

 光り輝くガスが、すごいスピードで回転しながら、ブラックホールに吸い込まれていきます。



挿絵(By みてみん)



「いつ見てもすげえなあ。絶景ぜっけいってやつだ」


「みんな、がんかけてますよ」


「じゃあ、おれたちもするか」


 たくさんの星たちがお参りしています。赤色矮星のおばあさんと孫娘もいます。


 ──


「それにしても、毎年お参りしてるけど、いて座A*って姿も見えないし、なーんも言いませんよね。にいさん」


「そうだな。ブラックホールの中からは、なにも出てこられないからな。でもな、ハチ。俺たちの声はちゃーんと届いてるんだぜ」


 

 いて座A*は、ただ静かにたたずんでいます。



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― 新着の感想 ―
すごく面白かったです! きっと『いて座A*』参りの道中では「持病の癪が……」ってうずくまる若い恒星も助けてるんでしょうね。
 銀河の時代劇風童話。  発想力が凄いです。
S2やS8って何のことかと思ったら恒星の名前なんですね。 難しい用語が並べられていますが、二人のテンポのいい会話劇に自然と読み進めることができました。 遠く離れた銀河で勧善懲悪物語が繰り広げられている…
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