天の川の巡礼 ~星の童話~
※挿絵は生成AI画像です。
※イメージ画像です。
夜空を見上げている親子がいます。
「ごらん。天の川が見えるだろう」
「わー、キレイだね」
「あそこがね、銀河の真ん中なんだよ」
「何があるの?」
「星がすごくたくさんあるんだ。それと、『いて座A*』っていってね、すごく大きなブラックホールがあるのさ」
「ブラックホールって?」
「なんでも飲みこむ星だよ」
◆◆◆
──ここは、天の川。銀河の真ん中あたり。
たくさんの光る星、『恒星』たちがいます。
「さあ、今年もそろそろだな、S8」
青い恒星、『青色巨星』のS2が言いました。
「なにがです? S2さん」
こちらはS8。まだ青くはなってません。
「なに言ってる。年に1度の『いて座A*』参りだよ」
「もう、そんなころでしたかい?」
「とっとと行くぞ、ハチ」
「にいさんは気が早えぇなあ」
「さっさとしねえと。人生は短えんだよ」
「そうですね。あっしら、人生わずか5千万年ですからねぇ」
「5千万年なんざあっというまだよ。思い立ったが吉日ってやつだ、行くぞ」
────
「街道はにぎやかだな、ハチ」
「今じぶんは、いつもそうですね」
たくさんの星がきらきらしている軌道を、2人は歩きます。
「恒星の大きいの、小さいの、みんな、いて座A*参りだな」
「にいさん、おいら腹へりましたよ。メシにしませんか」
「そうだな。お、あの店にするか」
──
「ここの電離気体、うまいっすね。にいさん」
「ん~、ちょっとうす味だな」
「ちょっとここ、いいですかい?」
2人の前に、べつの星が現れました。
(なんだかこいつ、人相のわるいやつだな)
S8は、そう思いました。
「あっしはケチな主系列星ですがね。お前さん、腕が立つね?」
わるそうな星が言いました。
「それがどうかしなすったかい」
「おれたちと組まねえかい? 分け前ははずむぜ」
「やくざもんと仕事なんかしねえよ。行くぜ、ハチ」
「あまり図に乗りなさんな。ここいらの親分はな……」
「おれにぁ、関わりのないことだぜ。親分とやらに伝えな、三下」
──
「なんだか物騒ですね。にいさん」
「ああ、恒星があつまると、ああいうのがのさばるのさ」
「お前さんたち、ずいぶんのんびりしてるね」
かん高い声をかけたのは、S14でした。
「ああ、イシさん。相変わらず足が速いね」
「へへ。あっしはいて座A*から遠くにいるときは遅いぶん、近くにくると速いのさ」
「あんまり飛ばすとあぶないよ」
「な~に、あっしもB型の主系列星のはしくれだ。ちょっとぐれえの隕石は大丈夫ですよ」
そう言うと、S14は行ってしまいました。
「イシさんの声、ドップラー効果で聞こえにくいですね」
「ああ、足が速いからな」
S2とS8が旅をつづけていると、目の前に激流が現れました。
「こいつぁ、いて座A*の降着円盤からふきだした風だな」
「どうします、にいさん。これじゃみんな立ち往生ですよ」
「なーに、ハチ。おれにまかしときな」
S2が、恒星風をふき出しました。プラズマに裂け目ができて、みんな通ることができました。
──しばらく進むと、星がすこしまばらになりました。
「だいぶ来ましたねぇ、にいさん」
「あと10億里(40億キロメートル)くれえかな?」
「きゃあ!」
どこからか、声がしました。
「……聞こえたか、ハチ!」
「へい、女子の声でしたね」
「どっちだ? ……こっちだ!」
──見ると、赤い小さな恒星、赤色矮星が、わるい星におそわれています。
「だれか!」
「うるせぇ! てめぇの水素を、おとなしく渡しな!」
「だれか、お助けを。だれか!」
わるい星は、その重力で、赤色矮星から水素を吸い取っています。
「さっきの三下か。そこまでだ! その娘さんを放してやりな」
「……てめぇ!」
「これがお前さんのいう仕事かい? か弱い星から、なけなしの水素をうばうたぁ、みすごしちゃおけねえな」
「やかましいやい! かくごしな!」
「おっと、やろうっていうのかい」
2つの恒星の軌道が近づき、すれ違いました。
「うわぁ!」
わるい星は、S2の重力ではじかれ、軌道をそれて行きました。
「やったあ! にいさん」
「へっ。そんな遠くに飛ばしちゃいねえよ。ほかの星に迷惑かけられねえようにしただけさ」
「そうだ。娘さん、大丈夫ですかい?」
S8は、赤色矮星にかけよりました。
「どうもありがとうございました。あぶないところを」
赤色矮星の顔を見ると、それは娘ではなく、おばあさんでした。
「おおっと。おめえさんも、いて座A*参りかい?」
「はい……。わたしももう何億年もお参りしておりますじゃ」
「おばあちゃん!」
孫娘が現れ、おばあさんにかけよりました。
「ああ、お赤。大丈夫。このお方が助けてくれたんだよ」
「ありがとうございました。おばあちゃんを助けていただいて」
「へへ、婆さんだけかと思ったら、かわいい孫娘もいましたよ。2人は連星だったんですね」
「おい、ハチ。その娘はな。おめえより10億歳は年上だぞ」
「それにしても、にいさん。星の命ともいえる水素を盗もうとするなんて、ふてえ野郎でしたね」
「そうだな……。ハチ、もうすぐだぜ。だいぶ軌道速度が速くなってきたからな」
──2人が軌道を進んでいると、べつの星が現れました。
「お前たち、よくも子分をかわいがってくれたな」
「……おめえは、S1。おめえだったのか。うらで糸ひいてたのはよ」
「おれにはな、水素がいるんだよ。水素で恒星の寿命がのばせるこたぁ、お前も知ってるだろ?」
「ああ、知ってるさ。イチ……おめえも堕ちたもんだな」
「お前には、寿命の尽きかけたおれの気持ちはわからねえさ」
「わからねえな。……わかりたくもねえぜ」
「お前には消えてもらうぜ!」
2人の軌道が交差しました。S1は、はじかれて飛んでいきました。
「にいさん、やつぁどうなったんで?」
「行っちまったよ。銀河系を飛び出して、はぐれ者さ」
「あんなやつには丁度いいってもんですよ」
「これでおれの軌道もちょっと変わっちまったが、大したこたぁねえよ。それより、ハチ。見てみろ」
「あ、やっと着きましたね」
目の前に広がるのは、いて座A*の降着円盤でした。
光り輝くガスが、すごいスピードで回転しながら、ブラックホールに吸い込まれていきます。
「いつ見てもすげえなあ。絶景ってやつだ」
「みんな、願かけてますよ」
「じゃあ、おれたちもするか」
たくさんの星たちがお参りしています。赤色矮星のおばあさんと孫娘もいます。
──
「それにしても、毎年お参りしてるけど、いて座A*って姿も見えないし、なーんも言いませんよね。にいさん」
「そうだな。ブラックホールの中からは、なにも出てこられないからな。でもな、ハチ。俺たちの声はちゃーんと届いてるんだぜ」
いて座A*は、ただ静かにたたずんでいます。




