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混沌に浮かぶ泡  作者: 藤原時照


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49/50

忘れる。いつものように。

 気づくと、守屋は結城家でコーヒーを飲んでいた。

 となりには京子が座っている。

 なぜか熊の姿が頭に浮かんだ。

――熊?なんで?

「じゃあ、明日からでも良いですか?」

 守屋は結城由美氏が設立する会社の技術主任を任されることになった。

「ええ。大丈夫です」

「よかったわ。女だけだと舐められちゃうのよね。うちは娘とふたりだけだから……」

「ご主人はどうされたんですか?」

「んなー」

 飼い猫のトラが守屋の膝に飛び乗った。

「ちょっと、トラちゃん、だめ」

 結城美也子氏が守屋の膝から猫を回収する。

「父はですね、――」

 話はつづく。

 ここにいる四人は、結城真志という男がいたことは憶えている。

 だが――

 熊神との最後の戦いでは、『あちら』とのつながりが太くなりすぎた。

 細いパイプのようだったつながりは、真志の大きさを超える太さになった。

 太くなったパイプは彼を飲み込む。

 彼の姿は『あちら』方向の彼方に消えてしまった。

 彼が消えると同時に皆の記憶も薄れはじめる。

 戦いの記憶はすでに消え去っていた。

 彼のことも次第に思い出せなくなっていく。

 それでも――

 美也子だけはすべてを憶えている。

 あの卵の中には、蛇の尻尾がついたライオンの子どもが入っていた。

 

『そこで彼女が思案しつつ見てみると、その外貌は別の形になっていた。蛇とライオンの外貌を呈していたからである。彼の目は火のような光を放っていた。彼女はそれを自分のそばから投げ捨てた。(中略)彼女は彼に光の雲を巻き付けて、その雲の真ん中に玉座を置いた。それは、ゾーエーあるいは万物の母と呼び習わされる聖霊の外には誰も彼を見ることができないようにするためであった。そして、彼女は彼をヤルダバオートと名付けた。』

               ヨハネのアポクリフォン§27~28

  

 ヤルダバオート。

 かの神は再びこの世界にもどろうとしていたのだ。

 自分の息子あるいは娘であるヤウェを通じて。

 それを父が阻んだ。

 あのとき、父は神を二柱倒したのだ。

 父は大役を果たし、そして消えてしまった。

――今度は私の番。絶対に見つけるから。待ってて。

「んなー」

 トラが美也子の足に纏わりつく。

「うん、トラちゃんもいっしょだよ」

 眷属たちには真志の気配を感じることができる。

 真志はそこにいる。


『だから、あなたは勇気を持ちなさい。決して恐れてはならない。なぜなら、私があなたと共に留まっている。敵が誰もあなたに打ち勝つことができないように。平和があなたにあるように。強くありなさい。』

                         ペトロの黙示録


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