表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌に浮かぶ泡  作者: 藤原時照


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/50

見えるもの

 駅に着いてもドアは開かない。

 乗客はぎゅう詰めのまま待たされていた。

 ドアが開いたのは駅員が到着してから。

 救護作業が終わって乗客の乗り降りが済むと、またぎゅう詰めの状態になる。

 京子が降りる駅に着いたのは30分遅れ。

 おかげで京子はかなり消耗していた。

 この状態で仕事ができるとは思えない。

 京子は、メールのチェックと部下の進捗確認をしたら、すぐに早退しようと決心した。

 職場に着くと京子はすぐにトイレに向かった。化粧がどうなっているか確認する必要がある。電車では影のおかげで脂汗をかいたから。

 鏡に映った姿は案の定ひどいものだった。これなら変な言い訳をしなくても帰らせてもらえるだろう。そう思って京子は化粧を直すのをやめた。

「おはようございます。武藤課長、どうしたんですか?顔色悪いですよ」

 隣の課の吉川だ。彼女は、目が離れていることを除けば美人で通る。だが、男好きで知られている。おまけに人事部長と不倫をしているという噂まであった。だから、まじめな男は近づかない。

 京子はそちらを振り向いて驚いた。

 吉川の身体には蛇の形の影が巻き付いていた。それも、一匹ではない。影ゆえにわかりにくいが、少なくとも三匹はいる。

 この蛇たちに襲われてはたまらない。

 京子は、気がつかない振りをしなくては、と自然体を装う。

「ちょっと昨日から体調が悪くて。たぶん、今日はメールをいくつか出した後、早退させてもらうと思うわ」

「大変ですね。私も最近身体が重くて。私も帰りたーい」

 京子は急いでその場をあとにした。吉川に何か返事をしたような気がするが、自分が何を言ったか覚えていなかった。それほど蛇の影が恐ろしかったのだ。

 京子は自分の席に戻ると、本格的に体調が悪くなっていることに気づいた。ひょっとしたら、すでにあの蛇の影から何かをされていたのかもしれない。

 部長に早退する旨を話すと、あっさりと帰してくれた。彼は心配そうに京子の体調を気遣ってくれた。それほどひどい顔をしていたのだろう。

 京子はさっさと帰り支度をし、トイレで化粧を直す。

 会社の建物から出ると、京子はすぐにスマホを取り出した。

 守屋は意外なことにスマホを持っていた。昨夜、緊急のときは呼べと連絡先も教えてもらっていた。ちなみに、緊急でなければかけるなとも言われている。

「守屋さん、助けて」

 京子は、通勤電車のこと、吉川に巻き付いていた蛇の影のことを話した。

「おう。その辺に公園か何かあるか?陽の気を感じるところで待て。陰の気を感じるところへは行くな。着いたらこっちから電話する」

 京子には陰だの陽だのを判断する余裕はない。今にも倒れそうだった。だから、駅前広場に着くと、日当たりのよいベンチにへたり込むように座った。いつもならベンチの汚れを気にするが、今日はそんな余裕もなかった。

――もう動けない。

 前を通る人が怪訝な顔をしていた。通行人に気遣われ、声をかけられたら面倒だ。そう思って立ち上がろうとした時、京子は近づいてくる守屋を見つけた。いつものように念で見つけてくれたのかもしれない。

 守屋は京子の前に立つと、平手で軽く京子の頭を叩いた。そのとき、守屋の手から京子の中に何かが放たれた。

 一瞬、視界に白い光が満ちる。

 脊椎に沿って何かが走り下りていく。

「行くぞ」

 京子は立ち上がった。

 身体はいくらか軽くなっていた。

 守屋は京子の腰にさりげなく手を添える。しかし、それは見かけだけで、今度も守屋の手から何かが流れ込んでくる。守屋は周囲の人からわからぬように京子の治療をしているのだ。

 電車に乗る時点では、かなり身体が楽になっていた。だが、京子はそのまま守屋にもたれかかっている。

「ありがと」

「なんの」

 朝とは違い、電車は空いていた。京子と守屋の近くには人が全くいない。まるで人払いをしているようだ。

「初日でこれでは、やっていけんのではないか?」

「何とかできる?」

「修行か封印か。いや、普段は封印しておいて、休みの日に修行すればよいか」

「じゃあ、そうする」

 京子は、守屋が何を言っているのかわからなかったが、何でもいいから任せようと思っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ