表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌に浮かぶ泡  作者: 藤原時照


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/50

エデン(5)

「男が足りないなら、俺らが手伝ってやんぞ」

 三人組の柄の悪い男たちが現れた。それぞれ、五十代、四十代、三十代といったところか。声をかけたのは一番若い男だ。

 由美と美奈子は立ち上がって私の後ろに回った。

 四十代と見られる男が一番若い男の肩に手を置き、私の目を見ながら前に出た。

「兄ちゃん、俺はオトコでも良いんだ。だから、人数はこれでちょういいぞ」

「兄ちゃん?あんたより歳をとっていると思うが」

 私は軽口を叩いた。

「嘘つけ。オマエ、どう見ても三十行ってないだろ。まあそんなことどうでも良いけどよ」

 男は「楽しませてやるから」と言って私の手を掴んだ。

 私はその手を振り解くのと同時に、足刀で男の膝関節を蹴り折った。続いて、態勢を崩す男の顔面に正拳を叩きこむ。

 男は転がって若い男の脚元に横たわった。

「この野郎……」

 小さくそう言うと、地面に転がった男は白目を剝いて気を失った。

「アニキっ」

 若い男が倒れた男に手を伸ばすと、その手は倒れた男の身体の中に吸収された。

 化け物が誕生した。

 それはもう一人の男に襲いかかる。

 吸収されつつある男たちの悲鳴が静かな森に響いた。

「森の中へ」

 由美の声がし、私は視界の端に美也子と由美が走るのを見た。たぶん、間に何か障害物があれば、と考えたのだろう。

 私もそれに続く。

 だが、私は森の入り口で足を止めた。

 木に手を当て、頭の中で木刀を思い描く。

 このときの私は、木が望みを叶えてくれることを疑わなかった。そして、思った通り、木から木刀が生えた。

 木刀を選んだのは、力まかせに叩けば良いと思ったから。

 今回の化け物は、妙な形で吸収されてひどくバランスが悪くなっている。運動能力も攻撃力も低そうだ。

 私は木刀をとり、手近なところから化け物の手足を叩き折る。

 手足を一本ずつ折ったところで、化け物は奇声を上げながら逃げ出した。

 最初は混乱してデタラメに逃げているようだったが、途中で方向転換し、特定の行先があるような動きに変わった。

 そちらに化け物を呼び寄せる何かがあるのかもしれない。

 私は由美と美也子に手で合図をした。

 二人が傍らに来ると、私は小声で考えを伝えた。

「あいつがどこに行くか確認しよう」

 人や化け物がどこに行ったのか見ておきたい。

「でも、危ないよ」

 美也子は安全第一のようだ。由美は考えこんでいる。

「そうだね。わかった。じゃあ、二人はここにいて」

 私はそう言って、速足で化け物を追う。

 化け物は森と草原の境界を進んでいる。見通しは良い。距離をとっても尾行できる。

 私は化け物を追いながら、いまの出来事を考えた。

 私は加減をした。

 殺すようなことはしていない。

 だが、あの男は化け物になった。

 負傷しただけでも化け物になるのだろうか。

――わからない。

 しばらく進むと、私は後ろに気配を感じた。

「私もついて行きます」

 由美の声がした。美也子もいる。アヒルのような口をしているから、いやいやついてきたのだろう。

「どのくらい負傷すれば化け物になるんだろう」

 真志は小さく囁いた。

「えっ?」

 由美は真志の独り言を聞いていた。

「あのとき、私はあいつを殺さなかった。足を折って殴っただけ。それでもあいつは化け物になった」

「わからないことは考えてもしょうがないの」

 美也子は屈託がない。

「そうだね。でも……」

 そう言いつつも、本当のところ、私はそれほど責任を感じてはいない。相手が相手なのだから。

「しょうがないよ。いまは非常時なんだから」

 美也子がフォローを入れた。

「そうですよ」

 三人の間に沈黙が訪れた。

 三人は黙々と歩く。

 森の境界に来た。

 この先も森はつづく。

 だが、ここは境界だと感じる。

 植生がまるっきり違うのだ。

 まるで日本ではないような――

 化け物はその森の中に入って行った。

 その森に入ると、風景がいきなり荒れ地に切り替わる。

 まるで瞬間移動したように。

 さっきの森はただの幻だったのだろうか?

 そこは見渡す限りの荒れ地。

 少し先には神殿がある。

 神殿の手前には石で作られた黒い水を湛えたプールがあり、あちこちから集まる化け物たちはそのプールに向かっている。

 化け物たちはさまざまな方向からやって来る。

 そして、そのままプールに入っていく。

 来る方向によって、化け物を構成する人種が違う。

 この荒れ地は世界各地につながっているのかもしれない。

 化け物の様子を見ていると、神殿から誰かが出て来た。

 それは小太りの人物で、頭は人ではなく熊。

「あの熊男が犯人ってことだよね?」

 美也子は小声で囁いた。

 熊男。

 その姿は、私の記憶を呼び覚ます。

「まずい。戻ろう」

 私は二人にそう囁き、後退り始めた。走って逃げたいが、見つかってはまずい。だが、身を隠せる場所にたどり着くまで熊頭から目を逸らせない。

 由美と美也子にも私の緊張が伝わり、二人は黙ってうなずくと足を速めた。

 私は黒い水と熊頭の男を知っている。

 私はあいつに大事な人を奪われた。

 それが誰だったか憶えていない。

 憶えていないが、あいつへの憎しみが狂おしく溢れ出る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ