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混沌に浮かぶ泡  作者: 藤原時照


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エデン(4)

 由美のいるところに到着すると、少し怒っているような声が降って来た。

「遅い」

「ごめん」

 そう言って木に手をつくと、由美はすぐに片足を私の肩にのせた。

「もう」

 由美を降ろし、木に立てかけた六尺棒を取ろうとしたとき、それは木にめり込んでいた。どうやら、六尺棒はもとの木に戻ろうとしているようだ。

「ありがとう」

 私が木に礼を言うと、棒は木の中に吸い込まれて行った。

「何それ?どうなってるの?」

 美也子は六尺棒が木から生まれるのを見ていない。だから、その分驚きは大きいようだった。

「あの棒、その木から生えて来たのよ」

「うそー」

「ここはもう我々のいた世界とは違うみたいだね。私たち自身も」

「どういうことです?」

 由美は私の言う「私たち自身」の方を理解できないようだった。

「身体が全然汚れていないでしょ。ずっと裸足で歩いているのに、怪我をするどころか汚れもしない。裸なのに寒くもないし」

 私は足の裏の感触をずっと不思議に思っていた。石を踏むことがないだけでなく、砂粒すらつかない。どこに行っても足の裏は優しい感触を感じているのだ。

 私はしゃがんで地面に触れた。それは土のようではあるが、粒状になっているわけではなく、何かの皮膚のようにも感じられた。

「そういえば、裸で木登りしても、どこも擦り剥いてない。

 美也子はそう言って、内腿を手でさすった。

 ただ、さっき走って逃げるときにわかったように、私と由美の状態は違う。

――変化の度合いに違いがある?

「アセンション?」

 由美は首をかしげながらそう言った。

 彼女は私と同じ印象を持ったようだ。

「そうかもしれない」

「それ、何?」

 美也子は由美と真志の話についていけないことが癪に障るようだった。

「肉体を持ったまま上位の次元に行くこと、かな?」

「あんな気持ち悪いのがいるのに上位の次元?」

 由美と美也子は普通に会話をしている。周りを気にする様子もない。裸であることを気にする気配もない。私には、彼女たちがこの世界に適応しつつあるように思えた。

「そういえば、ほかの人たちはどうしたんだろう」

 私がそう言うと、由美と美也子は周りを見回した。

 世界が変化してしばらくの間は立ち竦んでいる人たちがいた。だが、いま、この近辺に人の気配はない。耳をすましても何も聞こえない。遠くからあの化け物の声が聞こえているくらいだ。

「この辺りには誰もいないみたい。いつの間に消えたのかな」

 美也子は不安そうに言った。

「避難所は?」

「消えちゃった。避難所の小学校はあそこにあったんだよ」

 由美の問いに、美也子は小学校のあった方角を指差した。

 美也子の指した方角には、桜の木が何本か生えているのが見えるが、人の姿はない。

「そこに小学校があったのなら、転落した子供たちから大量の化け物が生まれたはず。君はどうなったか見た?」

 真志が美也子にそう聞くと、美也子は首を振った。

「あたしはあっちから走って来たの。小学校の辺りは見てない。でも、悲鳴はずっと聞こえてた」

「じゃあ、自然公園の方に行ってみないか。あそこなら、建物がないから転落して化け物になった人はいないだろうし、同じように考えて避難した人がいるかもしれない」

「そうですね」

 自然公園というのはゴルフ場に隣接する大きな公園だ。いま三人がいる場所からも、その一部である大きな森が見えている。

 それにしても、この森は記憶にあるよりも大きい。隣のゴルフ場も森に飲み込まれてしまっている。それに、ゴルフ場があった方は森の様子が少し違う。住宅地とはちがう異変が起きているのかもしれない。

 一戸建てが立ち並んでいた地域は、草地になっただけで木々はあまり生えていなかった。もともとあった街路樹や公園の木々を除いて。だが、ゴルフ場はグリーンであったところまで木々に覆われている。

 わからないことばかりだ。

 私は歩きながら、いまの状況を分析していた。

「空が紫ですね」

 由美の言葉に私と美也子は空を見上げた。

「太陽も雲もないわね。なんか作り物っぽい」

 由美と美也子の言葉に私は何も言わなかった。だが、私はこの空に見覚えがある。夢の中でこれと同じ空を何度も見ているのだ。

――ここは誰かの夢の中なのか?

 私が以前に見た夢の中では、私が想像すると、宝石を散りばめたような星々が想像通りに現れた。夢の中の世界は思いに反応する。私がそれを思い出したとき、いま見ている空にも星々が現れた。

「きれいー」

「ほんとに」

 ひょっとすると、これは自分の夢ではないのか。

 私はその考えを否定しようとした。

 しかし、完全に否定することはできなかった。

「ちょっと休憩しよ?」

 森の際まで来たとき、美也子が口を開いた。

「由美さん、ここに来て」

 美也子は腰を下ろし、自分の隣の地面をぽんぽんと叩いた。

「どっちを選ぶ?」

 美也子は膝を立てて座ってている。何も隠そうとしていない。由美はその横で腰を下ろし、横座りになる。

――誘惑されている?

 そのとき、森の中に人の気配を感じた。


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