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混沌に浮かぶ泡  作者: 藤原時照


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 私は目覚めた。

 いや、目覚めたのか?

 ここは暗い。

 目が見えないのか?

 目を開こうとしたが開かない。

 ふと気づくと、自分が息をしていないことに気づいた。

 ここはどこだ?

 暖かい。

 自分は液体の中にいるようだ。

 ここはどこだ?

 急に身体の周りが収縮した。

 何度も収縮する。

 肉の壁?

 そして、落ちる。

 どんどん落ちる。

 地獄へ行くのか?

 私は急に肉の壁から解放された。

 明るい。

 だが見えない。

 そのあと、臍の辺りに痛みが走った。

 周りで人の声がする。

 しかし、耳をすましても、水の中にいるような感じで、何を言っているのかわからない。

 耳の中に液体が詰まっている。

 目は見えない。

 これは――

 私は新生児として生まれたのだ。

 またやりなおしなのか?

 だったら――


 今日は娘の卒業式。

 思えば、この小学校に来たのは、編入手続きのときと合わせて二度目。

 私はダメな父親だ。

 だが、娘はそんな私を見限らずにいてくれた。

 ありがたいことだ。

 中学に行っても変わらずにいて欲しいと思う。

 娘に見限られないように、今日は無理を言って仕事を休んだ。

 休んでよかった。

 娘の大事な瞬間に立ち会うことができたのだから。

 思い出に浸っていたら、いつの間にか式が終わっていた。

 娘は私たちを見つけると、小走りでこちらにやって来る。

 ああ、忘れていた。

 これが幸せというものか。


 すでにテーブルには***と***がいた。

「遅いわよ。何してたの?」

「ちょっと書類をね」

「おとうさん、また仕事ぉ」

「何でもいいから早く食べようよ」

 私が椅子に座ると、周りには誰もいなかった。

 テーブルには、肉じゃがと焼き魚が三人分置かれていた。

 私は彼らが誰か思い出せなかった。

 目から涙が溢れて止まらない。


 気づくと、私は病室のようなところにいて、目の前のベッドには老婆が横たわっていた。

「どうしました?」

 老婆が私に尋ねた。

 彼女の声はか細く、かすかにそう聞き取ることができた。

「わからない。私は――」

「きっと疲れちゃったんですね」

「はあ」

「長いことお疲れさまでした。ありがとう」

 彼女は小さな声でそう言って息を引き取った。

 後ろから鼻をすする音がした。振り向くと、娘に似た中年女性がいた。

「おとうさん……」

 彼女の声とともに、三十余年にわたる彼女たちと過ごした記憶が蘇った。


 私はソファで目を覚ました。

 顔が涙で濡れている。鼻も詰まっている。

 ああ、部屋の中がいやに静かだ。

 ついさきほどまで、そこには誰か大事な人たちがいたような気がする。

 誰かの名前が頭に浮かんだが、すぐに消えてしまった。

 朧気に憶えている、あの未来には、私にとって大事な人たちがいる。

 あの人たちと出会えば、その先には辛いことも待っているのがわかる。

 だが、それでも……、それでも私はあの人たちと出会いたい。


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