孫との語らい-2
「そういえば、本当っぽい陰謀論ってアメリカ絡みのが多いよね」
「なになに?言ってみぃー」
「第二次大戦で日本が降伏を打診したのっていつか知ってる?」
「原爆投下のあとでしょ?」
「教科書ではそうなってるね。でも、ホントは違うんだよ。降伏打診は五月。原爆投下は八月でしょ?降伏打診のあとなんだよ」
「それマジな話?」
「GHQの諮問委員をしていたヘレン・ミアーズって人の書いた本に書いてある(※3)。ちなみに、その本はつい最近まで日本で出版禁止になってたんだ」
「えっ、アメリカに命令されてたってこと?」
「そう。政治家はアメリカのいいなり。CIAにカネをもらっていることも公開されたアメリカの公文書に書いてあるよ。右も左もね(※4)」
「なーるほどー。それで中国人が日本はアメリカの属国だとか言うんだね」
「まあ、そういうことだね」
「ほかには、ほかには?」
「アメリカ絡みだとホントにいろいろあるよ」
「そういう話、好き」
ミヤはそう言って、テーブルの上に放置されていたレーズンの袋に手を伸ばした。パンを作ったときの残りだ。
「じゃあ、日航機墜落事故の陰謀論は知ってる?」
「戦闘機に追われていたとかっていうやつ?」
「そう。あと、乗っていた人のこととか。トロンの技術者とか、半導体協定に反対する人とか、アメリカに都合の悪い人たちがまとめて乗ってたんだよ。何故か全員が同じ飛行機に乗り合わせて墜落。そのあと国の方針は百八十度転換」
「あー、日航機墜落事故ってそういうのなんだ。で、トロンって何?」
ミヤはそう言いながら、口にレーズンを放り込んだ。
「日本発のOS。アメリカの干渉でWindowsみたいな方向にはいけなかったんだけど、家電の中身には使い続けてたんだ。ちょっと前までは」
「ふーん」
ここで、私は国会図書館で管理している『進駐軍ノ違法行為』について話しかけ、思いなおした。憎悪を引き継がせるような話をすべきではない。日本はどこかの国とはちがうのだ。それに、多くは集団レイプの話で、子どもにする話ではない。
私は話題を変えた。
「アメリカ絡みじゃないところでも、日本の歴史って変なところが多いんだ」
「ふーん。って、あれ?最初、グノーシスの話してなかったっけ?」
こうして、話題はグノーシスに戻る。
「グノーシスにたどり着いたのには、不思議な経緯があったからなんだ。それに、調べている最中にも不思議な経験をした。グノーシスって何か変なんだよね」
「言ってみ、言ってみぃ」
「グノーシスに興味を持ったのは、ユングを読んでいた時。『一者』について書いてあって、それが私の夢と似ているって思ったんだ。でも、あとで読み返してみたら『一者』なんてどこにも書いてなかった」
「この前のなんちゃらエフェクト?」
「マンデラエフェクトね。これは自分一人のことだからマンデラエフェクトじゃないけど。それに、グノーシスの文献でも似たようなことがあった。神の姿について書いてあって、頭が熊だって読んだんだけど、あとで読み直したら、蛇とライオンの外貌って書いてあったんだよね。熊はどっから来たんだろうって悩んだよ」
「ちょっと待って。じいちゃん、人間は神の姿に似せて創られたんでしょ?神様は人間みたいな顔じゃないの?」
「うん、そこは矛盾してる。で、その話は置いといて、新しく買った本にそういう記述があった。自分の記憶とはちょっと違うんだけど。その文献によると、熊頭と猫頭が出てくるんだけど、熊の方がキリスト教のヤハウェなんだってさ。不義なる者って書いてある(※5)」
「不義の神なんだ。でも、聖書の神は悪魔より人間を殺してるっていうし、合ってると言えば合ってるのか」
「うん、でもさ、頭が熊っていう自分の記憶はどこから来たんだろうね。ボケたかな?」
「またー、じいちゃんはまだ若いよ。うん」
ミヤは腕を組んで頷いて見せた。
そう言いながら、ミヤはまたレーズンを口に放り込んだ。
「でも、グノーシスって面白そうだね」
「そうだね」
「光と闇の戦いか」
「闇に光が混じっちゃったから、それを取り戻すんだってさ。光成分を取り戻してこの世界からどんどん持ち出しているから、世の中が悪い方向に進んでるのかもね」
「よし。良い作品を期待してるよ、キミ」
ミヤはレーズンの袋をテーブルに置くと、ふんぞり返ってそう言った。
袋は空になっていた。
※3.『アメリカの鏡・日本』第二章5
※4."Foreign Relations of the United States, 1964–1968, Volume XXIX, Part 2, Japan"
※5.ヨハネのアポクリフォン§67~69