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9.入学式

王立学園の大講堂は、緊張と期待の空気に包まれていた。

天井には魔導灯が並び、淡い光が新入生を照らしている。整然と並ぶ席に、貴族も平民も入り交じり、背筋を伸ばして式の開始を待っていた。


レオンもその中の一人として席に座っていた。胸の奥に微かな高揚感を抱えつつ、目に映る光景をじっと見つめる。

(……王国で一番の学び舎。俺も、とうとうここまで来たんだ)


壇上に立った王国高官が声を張り上げた。

「王立学園へようこそ。ここに集うのは、未来の王国を支える人材である。己を磨き、誇りと責任を胸に学ぶことを願う」


重々しい言葉が響き渡り、場の緊張がさらに増す。


「カノン=ハワード」


講堂がざわめいた。

歓声すら上がる中、カノンは真っ直ぐに歩み出て壇上へ向かう。まだ幼さの残る顔だが、その背には勇者としての風格が宿りつつある。


「これが勇者か……」

「王国の未来だな」


あちこちから囁きが漏れる。

レオンは胸が熱くなると同時に、遠い存在になった幼なじみを見て複雑な気持ちを抱いた。


(カノン……やっぱり特別だな。俺は勇者じゃないけど……絶対に置いていかれたりしない)


次に呼ばれたのは――


「シリウス=オールウェル」


今度は歓声ではなく、会場全体がざわめいた。

柔らかな笑みを浮かべた少年が壇上へ進む。凛とした気品を備えつつ、決して威圧的ではない。

しかし、その背後では第一王子派と見られる貴族の一部が冷たい視線を投げていた。


「凡庸な王子、か……」

「いや、試験での剣を見た者は違うと言うだろう」


評価は割れている。だが、壇上に立つその姿には不思議な存在感があった。

レオンは思わず息を呑んだ。

(やっぱり……あの王子、只者じゃない)


今年の代表2人がスピーチを行う

「本日、こうして王立学園の門をくぐることができたことを誇りに思います。ここでの学びを糧に、強く成長し…


1時間ほどで式は終わり、新入生はクラスごとに別れて教室へと移動した。

長い緊張の時間から解放され、ざわめきと笑い声が広がる。


レオンは与えられた席に腰を下ろし、周囲の顔ぶれを見渡す。

貴族も平民も入り交じり、さっそく名乗り合っている者たちも多い。


「お、隣いいか?」

豪快な声とともに、がっしりとした体格の少年が腰を下ろす。

明るい茶髪を短く刈り込み、笑顔を浮かべている。


「俺はガイル。剣のほうはそこそこ自信あるぜ。よろしくな!」

気さくな態度に、周囲の緊張が少し和らいだようだった。

レオンも自然と笑みを返す。

「俺はレオン。こちらこそよろしく」


ガイルは豪快に笑いながら、他の生徒たちにも声をかけていく。

(……明るいやつだな。すぐに人気者になりそうだ)


そんな中、後ろの席の窓際で、一人だけ静かに本を読んでいる少年がいた。

線が細く黒髪を後ろに軽く結び、机に肘をついてページをめくっている。


周囲の声に反応するでもなく、ただ自分の世界に入り込んでいるようだった。

やがて本を閉じ、ふとレオンと目が合う。


「……ああ、目が合っちゃった。俺はリカルド。よろしく」

口調は淡々としているが、敵意も皮肉も感じられない。

ただ少し、どこか掴みどころのない雰囲気を漂わせていた。


「レオンだ。よろしく」

返すと、リカルドはふわりと笑った。


「うん。覚えておくよ。きっと面白いことになりそうだし」


そう言ってまた本を開く。

周囲は「変わってるやつだな」と囁き合い、距離を置いた。

だがレオンの胸には、妙に強い印象が残った。


(リカルド……ちょっと変だけど、悪いやつじゃなさそうだな)


ーー

教室の前方では、カノンの周りに自然と人の輪ができていた。


「やっぱり勇者様は違うな」

「お会いできるなんて光栄です!」


そう言って笑顔で近づく者も多い。だが一方で、腕を組んで黙って見ている生徒や、挑むような視線を送る者もいた。


(……勇者だからこそ、尊敬だけじゃなく、いつか乗り越えるべき壁として見られてるんだな)


カノンはその空気を感じ取っているのか、少し緊張気味の笑みを浮かべながらも、一人ひとり丁寧に言葉を返していた。



一方、教室の反対側では第二王子シリウスの姿があった。

彼の周りには貴族の子弟を中心に人が集まっていたが、決して騒がしくはなく、落ち着いた雰囲気が漂っていた。


そのすぐ後方には、目立たぬように控える護衛の姿がある。

腰に細身の剣を下げた青年で、言葉は発さない。ただ、王子の背を守るように立っていた。


「王子、どうぞこちらへ」

「試験でのお手並み、拝見しておりました!」


そんな声がかかるたびに、シリウスは柔らかな笑みで返す。

「ありがとう。僕も、皆と一緒に学べることを楽しみにしているんだ」


その落ち着いた態度と、護衛の存在が、彼の立場をより際立たせていた。


ーー

ざわめきが広がる教室に、扉が開く音が響いた。

全員の視線がそちらに向かう。


入ってきたのは中年の男性教師だった。

背筋を伸ばした姿勢に無駄がなく、淡々とした雰囲気を纏っている。


「全員、席につけ」


その一言で教室の空気がぴんと張り詰める。

彼は黒板の前に立ち、静かに名乗った。


「私がこのクラスの担任を務める、オルド=ハイネマンだ。戦術と実技の指導を主に行う」


短い自己紹介のあと、彼は視線を鋭く走らせる。

一人ひとりを値踏みするように見回すその目に、生徒たちが自然と背筋を伸ばした。


「ここから5年間、諸君は学園で学ぶことになる。武術科の者は剣士・槍兵・騎士・などに分かれ、魔術科はさらに系統に従って細かく分かれる。また希望者は斥候などのサブ職業も学べる」

「クラスは成績順でAからCに分けられているが、これは固定ではない。定期試験や実戦演習の結果次第で、常に入れ替わる」


一瞬、教室に緊張が走る。

(つまり……落ちればすぐに下のクラスに行くってことか)と、レオンも内心で身を引き締める。


「また、この学園は王立であり、王国中から人材が集まっている。貴族も平民も区別なく、ただ実力で評価されることを忘れるな」


そう告げた教師の言葉に、誇らしげに胸を張る者、密かに不安げに俯く者と、反応はさまざまだった。


最後に、教師は黒板に大きく書き出す。


『努力なき者は去れ』


「これが、学園の方針だ」


その言葉が突き刺さるように響いた。

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