表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8.レオンの休暇2

試験が終わり、張り詰めていた気持ちが一気に緩んだ。

宿舎に荷を置いたレオンは、居ても立ってもいられず王都の街へと足を踏み出す。


――王都。

石畳の通りには人の波が絶えず、屋台からは焼きたての肉や香辛料の匂いが漂ってくる。

(すげぇ……これが王都か。村とは比べものにならないな)


目に入ったのは大きな武具屋。店先にはずらりと剣や槍が並び、見物人も多い。

レオンは吸い寄せられるように店内へ。


「お、見ない顔だな。受験者か?」

恰幅のいい店主が声をかけてきた。


「ええ、まぁ。すぐには買えませんけど、見ておきたくて」

レオンは木剣を腰に下げたまま答える。


剣の並びを見て気づいた。前世で言うなら鉄、鋼、それに希少金属と思しき品々。

値札を見て小さく息を呑む。――高い。簡単に手が出る額ではない。

(でも、いい剣を持つことが実力に直結するのも確かだな)


店主がにやりと笑う。

「まぁ今はまだ見ておけ。強くなって、いつか買いに来い」

「はい」

レオンは軽く頭を下げて店を後にした。


次に立ち寄ったのは魔導具屋。

煌びやかなランプ、指輪、魔石を埋め込んだ杖――どれも不思議な力を帯びている。


(魔術科じゃないけど、魔力がある俺にとっては無縁じゃない……か)

ふと、水を浄化する魔導石の説明に目を止める。村にあればどれだけ助かるだろう、と考えてしまった。


――そんな風に胸を躍らせていた時。


「待てっ、泥棒!」


鋭い声が市場を切り裂いた。


視線を向けると、少年が小さな袋を抱えて人混みを掻き分けて逃げていく。その後ろから必死に追うのは、俺と同じくらいの年の少年だった。茶色の髪に薄汚れた上着だが、腰には商人らしい帳簿袋を下げている。


「誰か! あいつが俺の店の小袋を!」


(……あの金額じゃ騎士も動かないか)

市場の衛兵は遠巻きに様子を見ているだけ。小さな盗みには関わらないようだ。


俺は躊躇なく追いかけた。

「ポチ、行くぞ」


ペットを装い召喚しているポチに跡を追わせる。人混みを縫うように走る。

盗人が裏路地に入った瞬間、ポチが前に回り込み、牙を見せて威嚇した。

盗人が裏路地に入った瞬間、回り込むようにし牙を見せて威嚇した。


「ひっ……!」

少年は尻餅をつき、袋を手放した。


追いついた茶髪の少年がそれを拾い上げる。

「はぁ……はぁ……助かった! ありがとう!」


彼は俺の顔を見て、驚いたように目を丸くした。

「君、受験生だろ? ありがとうな!君もありがとう!」


「別に、大したことじゃないよ。君の荷物なんだろ?」

「ワンッ!」


少年は袋を大事そうに抱え直し、深く頭を下げた。

「うん。俺はエリオ。家は商人をやってて、店番中に盗まれちゃったんだ。もし君が止めてくれなかったら、親父に大目玉食らうところだった」


「そうか。俺はレオン」


エリオは真っ直ぐ俺を見て笑った。

「覚えとくよ、レオン。今度絶対、恩返しするから!」


その笑顔は田舎臭さのない、王都育ちらしい自信に満ちていた。

ただの一幕のはずなのに、なぜか俺は彼が今後も関わる気がしてならなかった。


(勇者の仲間じゃなくても……俺にだって、俺の縁がある)


人混みのざわめきの中で、俺はそう確信していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ