6.それぞれの道
カノンが王都へ旅立ってから、三人の時間はそれぞれに流れていった。
レオンは村に残り、父や自警団に混ざって狩りや護衛を経験した。剣の稽古を欠かさず、幻獣召喚の可能性を探りながら少しずつ知識と技を積み重ねていく。
「勇者じゃない俺でも、やれることはある」
そんな想いを胸に、地道に努力を続けた。やがて彼の目標は、王都の最優秀学園に進学し、勇者を支える力を持つことへと定まっていく。村人たちには「努力家の少年」と映ったが、その努力がどれほどの成果を生んでいるかを知る者はいなかった。
カノンは王都で「勇者」として特別な教育を受けていた。王や聖堂の庇護のもと、騎士や魔導師に囲まれながら剣と魔法を学ぶ日々。だが、同年代の友と気さくに遊ぶ機会はほとんどなく、訓練場でひとり汗を流す姿が多かった。
「皆を守れる勇者になるんだ」
そう願うほどに、笑顔の裏で孤独が濃くなっていった。
ラオンは村の自警団の中心として頭角を現した。獣退治や街道の護衛で名を挙げ、やがて冒険者としての活動を始める。小規模な依頼を仲間と共にこなしながら、自分の強さを試すことに喜びを覚えていた。
「いつか二人に追いつき、追い越してやる」
そんな対抗心と自負心が、彼をさらに前へ押し出していく。
三人は別々の場所で、それぞれの力と覚悟を育んでいた。
だが互いの成長を知る機会はなく、次に顔を合わせる時――どれほど変わった姿を見せるのかは、まだ誰も知らない。