4.別れ
本日は2話連続投稿します。
その日、村は朝からざわめいていた。
広場に集まった大人も子供も、みな口々に同じことを囁いている。
「いよいよ勇者さまが王都へ行かれるんだ」
「この村から勇者が生まれるなんて、誇りだな」
まだ七歳。だが、その背に託された期待は大人たちのそれと変わらない。
村のみんなに貰った剣を腰に差したカノンは、少し緊張した面持ちで人々の前に立っていた。
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「……みんなのために、必ず強くなって帰ってくる!」
勇気を振り絞って声を張り上げると、歓声が広場を包む。
だが、歓声の陰でカノンはちらりと二人を探した。
レオンとラオン。幼い頃から共に剣を振り、走り回ってきた仲間だ。
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「カノン」
人気から少し外れた場所で、レオンが声をかけてくる。
「本当は、不安なんだよね?」
一瞬、目を見開いたカノンは小さくうなずいた。
「……うん。勇者だから強くならなきゃいけないのに、まだ全然自信がないんだ」
レオンは苦笑する。
「だったら俺も頑張るよ。勇者じゃなくても、幻獣召喚で絶対に強くなってみせる」
ラオンは木槍を肩に担ぎ、そっぽを向いたまま呟いた。
「俺だって負けない。勇者だからって、いつまでも一番だと思うなよ」
三人は互いに目を合わせ、黙って笑った。
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「じゃあ、最後に」
レオンが木剣を構える。
「三人の約束だ。次に会うとき、また勝負する。今度は本気でな」
カノンも木剣を重ねる。
「うん! もっと強くなって、絶対に負けない!」
ラオンも加わる。
「……俺もだ。誰よりも強くなって、次は勝つ」
カン、と乾いた音が響いた。幼い三人の誓いの音だった。
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やがて、王都へ向かう馬車が広場に入ってくる。
村人たちが拍手を送り、見送りの言葉を投げかける。
カノンは乗り込む直前に振り返り、大声で叫んだ。
「レオン、ラオン! 必ずまた会おう! その時は、もっと強くなってるから!」
レオンは全力で手を振り返す。
(勇者じゃなくても……俺は俺の戦い方で追いついてみせる)
ラオンは拳を強く握り、声を飲み込む。
(いつか、必ず超えてやる……!)
蹄の音が遠ざかり、カノンの姿は小さくなっていった。
残された二人の胸には、それぞれの決意が強く刻まれていた。