表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

30.魔の手

午後の訓練場は、授業で行ったAクラスBクラス対抗模擬戦の余韻でまだ熱を帯びていた。木々の間を抜ける風に混じって、笑い声やため息が届く。そんな中、またしても例の3人組が目立つ態度でうろついていた。先日のちょっかいは失敗に終わり、周囲からは半ば鼻で笑われている。


「おい、またあの連中か」

マルコが小声で呟く。目は、槍を担いだグレンに釘付けだ。グレンは相変わらず大声を張り、空気を乱していた。だが今日はどこか、いつもより目が血走っている。


最近エスカレートしてるからな…

特に新年度に入ってからはあからさまで他の生徒からも距離を置かれている。

なんで俺たちにそんなに突っかかるんだ


やがて、ガルシアが近づいてきた。普段の豪放さは影を潜め、短く低い声でグレンを叱責する。

「お前らこっちに来い!焦りすぎてる。それではいい結果にならない」

グレンは顔を赤らめながらも口答えしようとするが、ガルシアの視線は冷たかった。

「上の者からだ。身体を一段上げる秘薬を回すように、との指示が来た。これで力を出し切れ。だが、使い方は1つ。用量を守れ。1錠だ」


ガルシアは小さな黒い瓶を取り出し、そっとグレンに渡した。グレンは瓶を受け取り、指でふたを開けて中を覗いた。中に入っているのは赤みがかった小粒の錠剤が十数個だけ。ガルシアの言葉がまだ耳に残る。


「1錠で十分だ。最初は様子を見ろ」


これがあれば余裕だろと、斧使いのモークと魔術師のダリオは1錠づつ飲む

しかし、グレンの手は震えていた。何度も仲間の前で失敗したこと。馬鹿にされ続けた怒りが、胸の中で燃え上がっている。彼はふと、瓶の蓋を開けたまま掌に3錠、5錠と載せてしまった。

合同演習後で人は多くこのタイミングで決行してしまう3人の理性は失われていた



「…いくぞ」

誰にも止められぬ一瞬の決意。グレンはその場で一気に薬を飲み込んだ。


喉を通った瞬間、体の内側が鋭く熱を帯びる感覚が襲った。血の流れが速くなるのがわかる。筋肉がじわじわと膨らみ、視界が少しだけ鮮明になる。歓喜のようなものが彼を満たした。


「よし、今度こそ見せてやる!」


だが力は制御を超えていた。最初の突進は派手で、確かに周囲を驚かせた。

モークとダリオは一瞬目を合わせるが内から湧いてくる力に当てられて一緒に飛び出して行く


グレンの腕の振り、足の踏み込みはどこか粗野で、計算のない暴力だった。訓練用に配置された簡易魔導ゴーレムに向かって突っ込むと、通常の斬撃なら持ちこたえるはずの機構を、ねじ伏せるように叩き割っていく。


「止めろ! 完全に正気を失っている!引け!ガルシア先生がまだ近くにいるはずだ!探せ!」ユリウスの声が飛ぶ。リカルドは剣を抜き、レオンもすぐに前へ出た。だがグレンの動きは止まらない。彼の周囲では小さな衝撃波が起き、地面の砂が飛び散る。ゴーレムが数体、砕け散った。


「全員、距離を取れ!」ガルシアの命が下る。教師と先輩が前に出て、できる限りの制圧を試みる。魔術師が拘束の呪文を放ち、数人で押し留めにかかる。しかしグレンは人間の常識を超えた力で振りほどき、それに触れた者の装備が軋んだ。

またモークもこれまでの倍ほどの力を有しており何人もが一斉に飛びかかってやっと押さえつけることに成功している

ダリアについても同様で数人の魔術師とタンク役で、なんとか被害を最小限に抑えているところだ


衝突の最中、ひとつの悲鳴が上がる。グレンの暴力に巻き込まれて届かなかった仲間に当たり、不安定になった装具が切り裂かれたのだ。だが被害はすぐに分からない。誰もが動転していた——止めなければ、さらに取り返しのつかない事態になる。


「ここで倒すしかない!」ガルシアが短く言った。その声には、いつもの豪快さとは異なる冷たさが混ざっていた。

先輩たちが動いた。彼らは魔導合成の技術で組まれた訓練用の構造兵器を呼び寄せ、グレンの前方に展開する。


「やめろ、グレン!」リカルドが叫んで剣を振るう。だがその瞬間、グレンは不意に笑った。笑いは狂気のそれだった。激昂した彼は暴走し、眼の焦点が合っていない。誰かが飛んできた杭のように彼にぶつかり、衝撃で地がえぐれた。


衝突の一つで、訓練用の簡易ゴーレムが制御を失い、はじき飛ばされた。飛んできた破片が誰かに当たると、一瞬皆が凍りついた。幸いにも、破片は人の胴を直撃しなかった。だが、最も深刻なのは違った。グレンは最後に、直前に向かってきた魔導ゴーレムの制御コアを叩き割った。そのゴーレムは、想定外の力で破砕され、内部の魔素が弾け飛んだ。直撃を受けたゴーレムの体は爆散するように崩れ、その破片の一部が近くにいた生徒たちを直撃した。


叫び声が一斉に上がる。誰かが地に倒れ、苦しげに呻く。血はなくとも、衝撃で動けない者、打ち所が悪く怪我を負った者が出た。現場は瞬時に阿鼻叫喚となる。


「撤収だ! 各自、後退!」ガルシアの声が再び響く。教師と先輩が素早く現場を整え、負傷者の手当てに当たる。ユリウスは膝をついて倒れた者へ駆け寄り、絞り出すような声で指示を出す。


しかしグレンは止まらない再度槍を握り締め強く踏み込む


ガルシアは時間を稼げばいつかは生命が尽きるだろうと考えた。しかしそれまでにどのくらいの被害が出るか。いやこの混乱に乗じ第二王子派閥の奴らを…


するとこれまでのグレンと同じかそれ以上に速度で突っ込む人影が見えた。

勇者カノンだ


そのままグランにぶつかり同じかそれ以上の速さと力で圧倒する。

1分程度打ち合っているとダメージ自体はそこまでないはずだが薬の影響かグレンの速度と力が目に見えて落ちていく。


レオンはその間、息を荒げながらグレンを見つめていた。あの少年の瞳には、かつて見たことのない空虚さと恐れが混じっている。力に飲まれた顔。拳を握る手に、どうしようもない怒りと悲しみが押し寄せる。


ガルシアはそのタイミングを見計らって押さえにいく

しかし次の瞬間グレンの魔力が再度急激に高まってまずいと思った瞬間には爆発していた



「ガルシア先生、これは一体……」声を出したのはリカルドだ。彼の口調には冷たい疑念が混じる。ガルシアは答えず、ただ地面に倒れた者たちを睨みつけていた。


現場の騒ぎはすぐに学園中に広がった。教師棟には即座に連絡が入り、重役たちの顔も厳しくなる。生徒たちは震え、今日の出来事がただの「やらかし」では済まないことを直感していた。


夜になっても訓練場の跡は消えない。壊れたゴーレムの残骸、踏み荒らされた地面、そして救護所に運ばれた数名の生徒たち。だがもっと重いのはダリア、モークの行方であった。爆発の衝撃で気が逸れたタイミングで逃げてしまったのだ。確かなのは、かつてちょっかいを出していた小物の3人組が、今や学園にとって“問題”になったという事実だけだった。


レオンはしばらく跡地に立ち尽くした。胸の奥に、どうにもならない感情が渦巻く。力を短時間で引き出す薬。それを渡したのは誰か。渡した理由は何か。もしこれが上からの命令であったならこの学園の中に潜む力の使い方は、本当にそれでいいのか。


翌朝、噂はもう止まらなかった。だが、校内の空気はそれ以前とは明らかに違っていた。笑いは少なくなり、視線は慎重になった。ガルシアの掌握する秩序は揺らぎ、上の方からの影が深まっていく。


誰も、今日の1件をただの「若気の至り」とは呼べなかった。


ーー

とある放課後

木製の的が並ぶ広い射撃場。

冷たい石床の地下ラボには、弓と魔力計測器がずらりと並んでいた。

矢が放たれるたびに、空気の振動と魔力の微細な反応が計器に記録される。


マルコは矢を手に取り、軽く弦を引いた。

「狙うより、どう飛ぶかが面白いんだ」

弓術クラブの中では“正確無比”が求められる。

だが彼の目は的ではなく、矢の軌道と魔力干渉の反応に注がれている。

魔導クラブでの学びを活かしつつ取り組んでいる。

天真爛漫で、座学の成績もあまり良くないが魔道具については非凡な才能を見せていた。


地下ラボのテーブルに置かれた小型魔力装置に、矢を置く。

魔力を少し流すと、矢は微かに光りながら弧を描いた。

「なるほどね…風の影響より、魔力の干渉で軌道を微調整できる」


実験を繰り返すうち、マルコの指先から放たれた魔力が、矢を自動的に誘導することに気づく。

矢は人為的な補正なしで、微かに揺れながらも標的を正確に貫いた。


「…偶然、魔力共振による自動追尾なか?」

彼の瞳が光る。

ただの実験装置のはずが、これは戦場で奇跡のような補助になる可能性を秘めていた。


机の上の設計図を開き、彼は書き込みを重ねる。

「角度、魔力量、発射タイミング…すべて理屈で説明できる。正確さは技術じゃなく、理論から生まれるものだよね」


ラボの空気は静かで、ただ魔力計器の微かな光が瞬く。

矢が標的に命中するたび、マルコはにやりと笑う。

「弓は放つだけじゃ面白くないからね。理屈が分かれば、偶然は必然になる」


矢の軌道を記録するノートはすでに数ページに渡って魔力干渉のデータで埋まっている。

(この理屈、いつか戦場で使えるはず…)

小さく息を吐き、マルコは次の矢を弓に掛けた。

彼の目は、精度よりも理屈を追求する未来に輝いていた。

感想、評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ