27.軍略クラブ2
ーー翌日ーー
学園裏戦術訓練場。
森と遺跡が入り混じるその一帯は、風の音ひとつにも重みがある。
古びた石柱の間に設けられた広場、そこに軍略クラブの生徒たちが並んでいた。
顧問・ルディウスが腕を組み、全員を見渡す。
「今日は実戦形式の模擬戦を行う。頭の中の戦略じゃなく、“動く戦場”を指揮してもらう。
戦術とは、現場で息をして初めて意味を持つものだ」
彼の背後で、複数の魔導ゴーレムが並んでいた。
それぞれに訓練用の魔石が埋め込まれ、一定範囲でのみ行動するよう制御されている。
戦場を模した空気が、張り詰めた。
「班は2つ。A班はレオン=ヘムロック。B班はリカルド=マーロウはじめはそれぞれ1年を中心に編成する。
各班に先輩を数名ずつ配置した。途中指導してやれ」
紙が配られ、それぞれの構成と地図が確認される。
レオンは内容をざっと見て、息を整えた。
(実質、新入生の指揮テストってとこか……それでもやるしかない)
対面にいるリカルドは、いつもの穏やかな笑みを浮かべながら、地形を指先でなぞっている。
(あいつは……読んでくるな)
⸻
開始の号令が響く。
「演習、始め!」
森に風が走り、全員が動き出した。
訓練とはいえ、砂と木の香り、低く響く魔導ゴーレムの足音が、戦場の重みを現実に引き寄せる。
レオンは地形図を一瞥し、即座に指示を飛ばした。
「中央はあえて薄く。右に伏兵を展開、左は攪乱役に。正面は囮だ。引き込む」
「囮?」
「はい。中央を割らせた瞬間、包み込みます」
作戦に迷いはなかった。だが、それが通じるかどうかは相手次第だ。
リカルド側はすでに動いていた。
彼は森の高台に立ち、俯瞰で全体を把握している。
「A班の布陣、中央が薄い……ふむ、見せかけか? いや、違うな」
隣の先輩が問いかける。
「どうする?」
「こちらはあえて、包囲を狙います。正面を削りながら、両翼を畳んでいきます。」
淡々とした声。だがその口元はわずかに笑んでいた。
(読んでるんだ。俺が仕掛けることを)
⸻
五分後、森の奥で初めて衝突が起きた。
リカルド班の偵察ゴーレムが前線を突破し、中央部の囮部隊に接触する。
レオンは待っていた。
「今だ!中央を下げて、右の伏兵を展開。包囲の形を取る!」
伏兵が一斉に動いた。
木々の間から訓練用の光弾が飛び交い、ゴーレム同士がぶつかる音が響く。
煙と魔力の光が交錯する中、敵の小隊が包囲網に絡め取られた。
「よし、包囲完了!」
だがリカルドの声が響く。
「逆だ。包囲されていると思わせたな?」
レオンが息を呑んだ。
敵の包囲陣。それが一斉に反転し、彼らの側面を抉るように動いた。
伏兵のさらに背後から、別部隊が現れる。
(……読まれてた!?)
リカルドは森の端で静かに指を鳴らした。
「誘いの形。お前の狙いが一手早いのは知ってる。だから“二手目”を準備しておいた」
ガルディスの観戦台から声が漏れる。
「いいぞ。あのリカルド、戦略の読みが一枚上だな……だが――」
中央で再び地響きが起こった。
煙の向こう、レオンの部隊が後退しながらも再配置している。
彼は短く息を吐いた。
「…読み通りすぎる。逆に使える」
後ろの予備部隊の6割に指示を出す。
「よし残りの6割で戦況を変える!」
声がかかると予備隊の6割が前に出る
「そのまま半分は真ん中の援護に行け!再度地理的有利を利用しつつ中心の軍を逃し挟み撃ちだ!」
「残りは右側から追撃の用意!左の錯乱部隊に合わせて横から突撃!」
レオンの鼓動は加速する
流石レオン対応が早い
「助けさせるな!こちらも予備部隊を出す!右から回り込んで片側の層を厚くして更なる数的有利を作る!」
ん!?右にも伏兵がいたのか!?(レオン左の錯乱部隊)いや…派手な動きだ。これは錯乱と見る。それなら錯乱部隊ごと刈り取ってやる!
余裕の笑みとは別に冷や汗が滲み出るリカルド
互いの指揮がほぼ同時に飛び交う。
錯乱、応戦、再配置――まるで将棋の終盤戦。
どちらが先に手を止めても、即座に敗北に繋がる緊張感。
しかし、空気を切り裂くように先輩たちの声が響いた。
「中々やる…が、少し手ほどきをしてやろう!」
A班・B班、それぞれの上級生が前線へと出る。
一瞬で隊列を整え、戦況をひっくり返す鮮やかな采配。
圧倒的な手際、無駄のない命令。
レオン班
錯乱部隊を助ける!左を助けるフリをして中央を厚くするぞ!予備隊1割を残して左方向から中央軍へ斜めに突っ込め!
リカルド班
どこまで行こうと中央の勝負そこを取られなければ。向こうは右で錯乱・囮にしながら左の伏兵に合わせてそっちに援軍を送っている!
全軍を出せ!錯乱部隊の方は今の部隊に任せる!向こうの援軍も大した数じゃない!敵軍左の兵をやれば向こうの攻めは7割減だ!中央軍は左へ全勢力で突っ込め!挟み撃ちだ!
はぐれた兵で隊を再編する外側の兵は一度集まれ!
隊を作らせるな!壁を作れ!
壁の関節を狙うぞ!………
「…これが、先輩の指揮か」
レオンは息をついた。リカルドも同じように、静かに見上げていた。
経験というものの重さが、目の前にあった。
ルディウスが片手を上げる。
「――そこまで!」
全ての動きが止まり、訓練場に静寂が戻る。
ゴーレムたちが沈黙し、風が森を抜けていった。
「結果は引き分けだ。だが……どちらも“読む力”は悪くない。
特に新入生二人、いい刺激を与え合っているようだな」
リカルドが微笑む。
「楽しかったよ。次は本気でやる」
「望むところだよ」
ーー
大剣術クラブの訓練場は、まるで鍛冶場のようだった。
汗と鉄の匂いが混ざり合い、地を踏み鳴らすたびに木の床が震える。
「もっと腰を落とせ、ガイル! 大剣は“振るう”もんじゃない、“通す”んだ!」
担任兼顧問のガルシアが怒鳴る。
「わかってるッスけど! 通すってなんすか!? 切れりゃいいじゃないッスか!」
豪快に吠えながら、ガイルは両手で大剣を振り抜く。
風が爆ぜ、木製の標的が一瞬で真っ二つになった。
だがその衝撃で自分の足もふらつく。
「ほら見ろ、それが“力の無駄遣い”だ!」
ガルシアが床を木刀で叩く。
「剛剣とは、力を乗せるんじゃなく、重みを導く剣だ。無理に振ればただの凶器だぞ!」
「うっ……言いたい放題ッスね先生……」
口では反発しつつも、ガイルは再び構えた。
背筋を真っ直ぐに、両腕をたゆませる。
呼吸が整うにつれ、さっきまで荒れていた気配が静まり、風の流れが変わった。
(重さを“導く”……?)
大剣が、空気を裂く音を立てる。
今度の一撃は、先ほどのような爆発ではない。
静かに、しかし確実に。
標的が“自ら裂けた”ように、まっすぐに断ち割られた。
「……!」
周囲のクラブ生が息を呑む。
「ほう、やればできるじゃねぇか」
ガルシアの口元にわずかな笑みが浮かぶ。
「その感覚を忘れるな。力で押すんじゃねえ、“重みで制す”んだ」
ガイルは剣を肩に担ぎ、にかっと笑う。
「へへっ、なんか今ちょっとわかった気がするッス!」
そう言って振り返る横顔には、ただの腕力バカではない光が宿っていた。
彼はまだ“本気の戦場”を知らない。
だが確かに、戦士としての“芽”が動き始めていた。
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