26.軍略クラブ
今日は軍略クラブの日だ
軍略クラブは実戦を想定した戦略・指揮の訓練を行うクラブだ。人気がすごく高いわけじゃないが、密度が高く少人数のため毎年落選者が出る
成績優秀者でも入れない者がいるほどで、選ばれるだけでも名誉と言える。
ふと視線を横にずらすと、同じ紙の中に“リカルド・マーロウ”の名前があった。
(リカルドもか……)
Aクラスでも群を抜いて優秀なあいつが入っているなら、活動の内容もかなり濃くなるだろう。
初回の軍略クラブの集まりは、いつもの教室ではなく学院の南棟にある戦術演習室で行われた。
壁一面の地図、模型の駒、古びた戦記の書。まるで軍本部のような空気が漂っている。
レオンは指定された席に腰を下ろし、ざっと周囲を見渡す。
見覚えのある顔は少ない。上級生が半分以上を占めており、2年生はわずか2人。
相変わらずの淡い笑みで、こちらに軽く顔を上げる。
(余裕のやつだな……)
「よし、全員そろったな」
低く通る声が響く。
入ってきたのは黒の軍服を思わせる上着を羽織った男だった。
名はルディウス=モーガン。
若く見えるが、かつて王国軍で実戦経験を積んだ人物らしい。
学院でも一目置かれる存在でありながら、
「生徒を甘やかさない」「結果を出せない者は容赦なく切る」と噂されている。
「軍略クラブへようこそ。お前たちは希望者の中でも“選ばれた”方だ。
だが勘違いするな。ここに立った時点では、まだ“候補”にすぎん。」
一瞬、教室の空気が張りつめた。
「このクラブは、単に戦略を学ぶ場じゃない。
実際に部隊を指揮し、他クラブや模擬戦演習で結果を残してもらう。
それができない者は――」
ルディウスは静かに机の上の駒を1つ弾き飛ばした。
「退部だ。」
誰も言葉を発しなかった。
だがレオンの胸の奥には、むしろ小さな火が灯る。
(面白い。やる価値、ありそうだ)
一方、リカルドはそんな空気の中でただ1人、薄く笑っていた。
まるでこの緊張そのものを楽しんでいるかのように。
ーー
説明が終わると、ルディウスは黒板に手早く線を引き始めた。
「さて――お前たちの“戦略的思考”を測る初回試験だ。」
机の上には、簡易的な地図と駒。
城砦、森、川、そして敵と味方の陣形を表す赤と青の印。これは魔道具でそれぞれ簡単な命令に従うことができ模擬戦を行うことができる
「状況は単純。味方が森を経由して敵陣に到達すること。ただし敵は倍の戦力を持っている。さて、どう動く?」
そう言って、ルディウスは数枚の紙を机に置いた。
「三人前に出て、作戦を提示してもらう。
考える時間は五分。直感で構わん。」
レオンの名が上がった。
他の二人は上級生で、どちらも緊張の色を浮かべている。
(倍の戦力か……正面突破は論外。森の地形が鍵だな)
レオンはすぐに地図の端を見た。
そこに小さな“渡河点”があった。通常なら見逃されるほどの細い川の裂け目。
五分後。
レオンは簡潔に話した。
「敵の注意を正面に引きつけ、少数を森に潜ませます。
その間、魔術師部隊を陽動に使って“左翼の撤退”を装う。
敵が追いかけて戦列を崩したところで渡河して本陣を叩く。」
説明を聞いていたルディウスが、無言で腕を組む。
周囲の生徒たちはざわついた。
「……ふむ。奇襲と誘引、両立は難しいが、理屈は通っている。」
そう言って彼は駒を動かし、数手先を再現する。
結果、レオンの読み通り、敵は混乱に陥り、本陣が孤立した。
「悪くない。初回としては上出来だ。」
ルディウスの口元に、かすかな笑み。
その評価を聞いて、レオンは静かに頷くだけだった。
「その他に考えがある者もいるだろう。せっかくだから試してみよう」
その後も模擬戦が行われ成功したり、課題が残ったりとさまざまな結果になった
一方、後ろの席のリカルドは、頬杖をついたまま軽く拍手した。
「ふふ、やるじゃないか。
でも、敵将が僕ならその森に“囮”を置いてたけどね。」
その言葉に、レオンは一瞬だけ目を細めた。
ほんのわずかに、互いの視線が交わる。
(……やっぱり、面白い奴だ)
クラブ初日の演習は、静かな火花と共に幕を下ろした。
ーー
剣と剣が打ち鳴らす金属音で満ちていた。
空気が焦げるほどの熱気の中で、カノンはただ一人、息を乱さずに剣を振り続けていた。
「次、10連! 来いッ!」
木剣を構えた上級生が2人、同時に飛び込む。
普通なら連撃をさばくだけで精一杯のはずだった。だが、カノンの剣は——そのすべてを見切っていた。
一撃、二撃、三撃……わずか3秒の間に、2人の剣筋を完全に読み切り、逆に切り返す。
上級生たちの木剣が空中で弾け、床を転がった。
「……っ、早すぎる……!」
「1年でここまで上がるとか、ありえねえ……」
クラブの面々が息をのむ。
けれどカノンは、表情一つ変えずに構えを解かなかった。
「まだ、遅い。こんなんじゃ……届かない」
その呟きは、誰に向けたものでもなかった。
去年、座学も理論も全部捨てて“実戦”に身を投じた彼女だけが知る、あの感覚——
「生きるか、死ぬか」の間でしか磨けない感性が、今の彼女を作っている。
「カノン、休憩したらどうだ?」
顧問のオルドが声をかける。
だが、カノンは小さく首を振った。
「剣は、止めたら鈍るんです。……もう一戦、お願いします」
その目には、焦りと執念が同居していた。
誰よりも速く、誰よりも強く
それは勇者としての使命でも、名誉でもない。
“あの日、救えなかった誰か”の記憶を振り払うように、ただ剣を振るう。
再び足を踏み出す。
踏み込みと同時に、風が唸りを上げる。
木剣が閃光のように走り、対戦相手の胴を軽く叩いた。
打撃音よりも速く、勝敗が決していた。
「……これが、勇者ってやつか」
誰かが、そう呟いた。
しかしカノンはただ、汗を拭って構え直す。
その背中は、もはや“学生”のものではなかった
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