25.生物研究クラブ2
アーレンが白衣の裾を整えて立ち上がる。
「これは王女殿下。ようこそお越しくださいました。今日はまたどういったご用件で?」
ミカエラは軽く微笑んで言った。
「私もここのクラブに入っていますの。それとね王国から正式な依頼を持ってきました。──召喚士の研究についてです」
アーレンの目が一気に輝く。
「ほう、それはまた興味深いお話だ」
「近頃の情勢を鑑みて“召喚士”の需要が急速に高まっています。ですが、現状では1人あたりが安定して扱える召喚数は限られている状況です。
もし、より多くの幻獣を同時に召喚・維持できる手法が確立できれば、国防にも大きく寄与する。──父上は、あなたにその研究を進めてほしいと」
「とはいっても私もこのクラブで勉強と研究を行ってきた身。父上にそれは難しいのではと言っておきました。」
アーレンは嬉しそうに腕を組んだ。
「ふむ、王家からそんな依頼が来るとはね。確かに興味深い。…ただし、ミカエル王女が言う通り“量”を求めるのは非常に難しく危険でもある。召喚士の精神や魔力負担が臨界を超えると、召喚体ごと暴走することもあるからね」
「その危険も承知の上です。安全な方法を模索してほしいのです」
少し間が空き、アーレンはちらりとレオンに目をやった。
「……その件、ちょうど参考になる者がいる」
ミカエラが視線を向ける。
「あなたは……?」
レオンは少し迷ったが、ゆっくりと一礼した。
「2年のレオン=ヘムロックと申します。召喚系の術を扱っています」
ルナが彼の横で小さく鳴いた。
王女の瞳がわずかに揺れる。
「……可愛い」
「ええ。意思疎通もできますし。ルナは賢いですよ」
「彼の召喚は“生誕型”と呼べる特異なものです。借り物ではなく、自らの魔力から命を生み出す。数を増やす方法を探るには、これ以上の実例はないでしょう」
ミカエラは静かに頷いた。
「なるほど……面白いわね。では、あなたの協力も得られるかしら?」
レオンは少し考えてから答えた。
「僕自身まだ能力の全てを把握できてない状況ですので…それに僕の場合は召喚のシステムが全く異なるのでいわゆる召喚士と言われる職の研究としては力に沿えないと思います」
アーレンは言った
「ふむ。それもそうかもしれない。ただ同じ召喚士として協力をしてくれるとありがたい」
「それはぜひ!そのためにこのクラブに入ったので」
ルナが光を揺らす。
その小さな輝きの奥で、これから動き出す“新しい研究”の予感が静かに生まれていた。
ーー
王立学園・中庭の一角にある騎士学クラブ専用の訓練場。
石畳が朝露を弾き、整列する生徒たちの鎧が微かに光を反射していた。
ユリウスはその中央、剣を静かに構えている。
「護衛としての構えは、常に“守るための起点”にある。」
教官のエバースが歩きながら声を張る。
「敵を倒すより先に、“誰を、どこで守るか”を考えろ。それが王の盾である者の最初の義務だ。」
ユリウスは小さく頷いた。
彼の剣筋には、派手さがない。
ただ、的確で無駄がない。
(守る、か……けど、それだけじゃ届かない。)
対面する模擬戦の相手が踏み込み、鋭い突きを繰り出した。
ユリウスは一歩退き次の瞬間、剣を反転させて相手の軌道を封じる。
受けではなく、守りながら制す一撃。
「そこだ!」教官の声が響く。
「その“返し”を常に意識しろ! 守りは止まるな、流れろ!」
ユリウスは息を整え、構えを崩さぬまま視線を巡らせた。
周囲の訓練生たちの動きがすべて視界に入っている。
どこに誰がいて、誰が危ないか彼の目は常に“全体”を見ていた。
「護衛とは、戦場を読むこと。王の傍に立つというのは、ただ剣を振るうだけの役じゃない」
背後から聞こえたのは、戦術顧問モーリーの声だった。
戦術の授業を兼ねて、彼が視察に来ていたのだ。
「戦術の基礎を忘れるな。お前が一歩動くたびに、誰かの死が変わる。それが護衛の“戦場感”だ」
ユリウスは小さく息を吐いた。
「……分かっています、モーリー先生。護るために、勝たねばならない。けど僕は、“護るための勝ち方”を探したいんです。」
モーリーは一瞬だけ口元を緩めた。
「ならいい。護衛として、その考えを最後まで捨てるな。」
訓練場の風が止む。
ユリウスの銀髪が光を弾き、瞳には決意の色が宿っていた。
(力のためじゃなく、信頼のために剣を取る。)
それが、第二王子シリウスの盾と言う信条だった。
感想、評価お願いします!




