2.始まりの村
ムギュムギュ――。
ポチタは村中どこにでもいるスライムに向かって、スキル《噛みつき》を披露していた。
スキルは感覚的に「今どれくらい使えるか」が分かるようになっている。今のレベルでは、1分に1度だけ指示できる感じだ。その他はただの噛みつきや引っかき攻撃。スキルのおかげで攻撃力が少し底上げされる、そんな感覚だった。
「……全然噛み切れてないな」
スライムが物理に強いのか、ポチタが弱いのか。
試しに父からもらった木剣を思い切り振り下ろす。
――ドスッ。
――ドスッ。
……。
十数回殴り続けて、ようやくスライムは弾け飛んだ。
「はぁ……一匹倒すのもひと苦労だな」
その瞬間、ポチタの体が淡く光る。
ポチタ
レベル:2
体力:5/5
力:10
魔力:0
知力:1
スキル:噛みつき 1
少しだけ強くなったようだ。
⸻
帰り道、家の外で素振りをしていた父が声をかけてきた。
「おいレオン、その犬っころはなんだ?」
「スキルを使ったんだ」
「……ほう、そいつが《幻獣召喚》ってやつか」
父は感心したように唸る。テイムや召喚系スキルはいくつも存在するが、どれも魔力に大きく左右される。強さは結局ステータス次第――そう父は経験から知っていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。もう少し大きくなったら本格的に特訓だな。……今から一緒に剣振るか?」
そこへ母が呼ぶ声がした。
「ご飯できたわよー。あら、レオンも一緒に剣を振ってたのね」
食卓に着くと、久々に暖かい匂いが広がった。
「美味しい!」
味は前世に比べて素朴だが、レオンにとっては十分。ポチタまで夢中で食べている。
「幻獣もご飯食べるのね」
「うん。戻すときは何も必要ないけど……可愛いから」
⸻
翌日。
「今日も騎士ごっこしようよ!」
カノンは会うといつも騎士ごっこをしたがる
カノンと木剣を交える。力はカノンの方が上だ。だが、レオンには前世由来の思考力と技術がある。子供の遊びでも、経験の差が少しずつ形になりつつあった。
最近は日課でスライムを5匹狩るようにしている
おかげでレベルが上がって、スライムが減った
村の人も最近スライムが減ったか?カノンが討伐し回ってるのか?っと話しているのを耳にする
レオン
レベル 2
体力 20/20
力 10
魔力 30/30
知力 25
ポチタ
レベル5
体力 10/10
力 25
魔力 0
知力 2
鑑定から1年経った今日は村の子供と大人達と一緒に村の外に出てピクニックの日だ
またここでスライムなどの狩を行い魔物討伐について学ぶ。
村の外は、広がる草原と小さな森。大人たちが弁当を広げ、子供たちははしゃぎながら草むらを駆け回る。
「おーい、こっちにスライムがいるぞー!」
「ほんとだ!」
子供たちは大人に守られながら、スライムを相手に模擬戦をする。木剣で叩く音と、笑い声が交じる。
レオンもポチタを呼び出し、いつも通り狩りの真似事をしていた。
「行け、ポチタ!」
「ワンッ!」
噛みつきでスライムをひるませると、レオンが木剣を振り下ろす。いつもの連携だ。
「やっぱり強いなぁ、レオン」
横で見ていたカノンが羨ましそうに言う。だが力比べをすれば、まだまだカノンが上だ。
「俺だって…」
――そのとき。
「……静かに」
大人のひとりが耳を澄ませた。
カサッ……カサカサッ。
草むらの奥から、妙な音が近づいてくる。
「魔物……? こんなところに?」
現れたのは、緑色の小鬼――ゴブリンだった。
「ゴ、ゴブリンだと!?」
大人の顔色が変わる。
「子供たちを下がらせろ!」
村人たちは慌てて子供を庇い、あらかじめ決めていた通り撤退組と戦闘組に分かれた。
子供たちの顔に緊張が走る。
「うわ、怖……!」
そのとき――。
「俺がやる!」
レオンに劣等感を抱いていたラオンが、突発的に飛び出した。木槍を構え、ゴブリンへと斬りかかる。
「ラオン、待て!」
大人たちの声も届かない。連携が一瞬止まり、陣形が乱れる。
ラオンの槍はあっさりと弾かれ、体勢を崩した。
その隙を、ゴブリンは見逃さない。
(まずい……!)
レオンは反射的に魔力を練った。
「来い、ポチタ2号!」
白光の中から現れたのは、ポチタに似た幻獣。だがステータスは三割ほど劣る。――それでも十分だ。
召喚と同時にゴブリンの足へ噛みつかせる。
「ガァッ!」
ゴブリンは予想外に標準が外れラオンの肩に棍棒がかすれる。
「うぉぉっ!」
その一瞬を逃さず、ハルトが駆け込み、剣を振り抜いた。
ザシュッ!
ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく両断され、地に崩れ落ちた。
「怪我はないか!」
父の怒鳴り声に、ラオンは尻餅をつき、愕然とした顔で頷くしかなかった。
騒ぎはすぐに収まったが、村人たちの表情は険しい。
「ゴブリンが……こんな近くに出るなんて。群れが迫っているのかもしれん」
レオンはまだ震える手で、幻獣を撫でる。
「……よくやったな、ポチタ2号」
その肩に、父ハルトの大きな手が置かれた。
胸の奥で、前世の記憶とレオン自身の鼓動が重なっていく。
(勇者じゃなくても……俺は、俺の戦い方で強くなってみせる)