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17.疑惑

夏休みが終わり、再び学園に活気が戻ってきた。

 久々の教室はどこか新鮮で、生徒たちも休み中の出来事を語り合っている。


「……なんだか、夏休み前より少し強くなった気がするな」

 レオンは小さく息を吐き、机に肘をついた。修行とバイト漬けの日々は、確かに無駄ではなかった。


 しかし、その平穏は長くは続かなかった。


 午前の演習授業。訓練場で各々技を磨いている。午後からはBクラスとの模擬戦だということで一層力が入る

すると突然校庭の一角で爆発のような音が響いた。

 生徒たちが驚き立ち上がると、土煙の中から黒い影が一体、姿を現す。


「な、なんだあれ……!」

「魔獣!? いや、違う……」


 影は暴れるでもなく、ただ学園の様子を測るようにゆらめいていた。

 教師たちがすぐさま生徒を下がらせる。緊張が訓練場を走り抜ける。


 その混乱の中、リカルドの姿がふっと消えた。

 彼は煙の向こうへ歩み出し、誰も気づかぬ角度から影へと接近していく。


「リ、リカルド……? なにを……」

 数人の生徒が呆然と呟く。まるで闇と通じているかのような行動。

 やがて煙が晴れると、そこには何事もなかったかのように影は消えていた。

 残されたのは、無傷の学園と、涼しげな笑みを浮かべるリカルドだけ。


「ふふ……。心配はいらないよ。騒がしいのは嫌いなんだ」


 その言葉に安堵する者もいたが、逆に彼の不気味さは増すばかりだった。

 敵か味方か――誰も判断できない。



Bクラスの面々もまた、久々の顔合わせに賑やかさを取り戻していた。


「おーい! 机押すなって!」

「だって狭いんだよ!」


 くだらない小競り合いをしている生徒たちの頭上に、どん、と大きな手の音が響いた。


「おいコラァ! 机ごとぶん投げられたいのか!」


 入ってきたのは、担任のガルシア先生。

 がっしりした体躯に、荒っぽい口調。元冒険者という経歴にふさわしい豪快な男だ。

 その迫力に、教室の空気は一瞬で静まり返る。


「……よし! 静かになったな!」

「いや先生、脅して黙らせただけじゃん……」


 小声で突っ込みが飛ぶが、本人はまるで気にしていない。

 ガルシアは満面の笑みで胸を張ると、唐突に宣言した。


「さて! 夏休みも終わったことだし、今日は午後からAクラスと模擬戦だァ!」


「「ええっ!?」」

 生徒たちの驚きの声が重なる。


「お前ら、休み中にちゃんと鍛えてたか? 俺は信じちゃいねぇ! だから体で証明しろってことだ!」

「証明って……また思いつきで言ってません?」

「当たり前だ! 思いつきは冒険者の必須スキルだろうが!」


 ガルシアの熱血ぶりに、生徒たちは顔を見合わせて苦笑する。

 だが、こういう無茶振りに慣れているのか、準備を始めるのも早かった。



 午後、訓練場。

 ざわめく空気の中、Bクラスは二手に分かれて模擬戦を開始した。

 剣士が突撃し、魔術師が援護魔法を放ち、弓使いが後衛から狙う。

 実戦経験に乏しいながらも、休暇中に鍛えた成果が随所に光る。


「前より息が合ってる!」

「当たり前だ、俺たちはBクラスだぞ!」


 仲間同士で叫び合いながら、互いに全力をぶつけ合う。

 観戦しているガルシアは、腕を組んで満足そうに頷いていた。


「いいぞォ! そうだ、それでこそ若ぇ力だ! 失敗したって構わん、思いっきりぶつけろ!」


 その声に背を押され、生徒たちはさらに奮い立つ。

 真剣でありながら、どこか楽しげな模擬戦。

 その姿は、彼らが確かに成長していることを示していた。



 日が傾く頃、模擬戦は終了した。

 地面に座り込み、肩で息をする生徒たちに、ガルシアが大声で言い放つ。


「お前ら、いい目をしてきやがったな! その調子でAクラスの連中にも負けねぇってところを見せてやれ!」


 その言葉に、Bクラスの面々の表情が引き締まる。

 普段は賑やかで緩い彼らだが、Aクラスに対してだけは、心の奥で強い闘志を燃やしていた。


(……負けてられないよな)


 誰かがそう心の中で呟く。

 小さな灯火のような闘志が、確かにBクラスの胸に芽生え始めていた。

――

夕刻。

 学園の教師棟、円卓を囲む部屋に数名の教師が集まっていた。

 窓の外はすでに薄暗く、蝋燭の灯りが影を揺らしている。


「……とんだ騒ぎになったな」

 低く口を開いたのは、魔術教師のカーヴァン。

 額に手を当て、深いため息をつく。


「原因不明の爆発など、学園史に残る不祥事ですよ。しかも被害がなかったのは、ただの幸運にすぎない」


「だが現場を調べても、痕跡は一つも残っていなかった」

 剣術担当のリーネが険しい表情を見せる。

 普段は快活な彼女も、この件ばかりは笑えなかった。


「魔力の残滓も、仕掛けられた形跡も……何もかもだ。まるで最初から存在しなかったかのように」


 静まり返った空気を切り裂くように、豪快な声が響いた。


「ハッハッハ! だが生徒たちが無事だったのは幸いだろう!」

 Bクラス担任、ガルシアだ。

 豪放に見えるその瞳も、笑いの奥に鋭さを宿していた。


「俺が心配してるのはむしろ、裏で何か別のことが起きてるんじゃねぇかってことだ」


 その瞬間、教師棟の扉が勢いよく開く。

 駆け込んできた事務員が息を切らしながら告げた。

「報告です! 保管庫から一部の記録が盗まれました!」


 ざわめきが広がる。


「なにっ……!」

「爆発騒ぎで注意が逸れている間に、か」


 カーヴァンの顔色が険しさを増す。

 リーネは椅子を蹴るように立ち上がった。


「保管庫には入学試験の記録や、特殊な技能の報告があったはずだ」


 ガルシアの声は低く、重かった。

 豪快さを脱ぎ捨てたその声音に、場の空気が一層引き締まる。


生徒を狙う影が、すでに動いている


「私たちがやることは生徒を守ることです」

イリシア校長はそう言い今一度皆の顔を見渡した


ーー


 夜。

 学園から少し離れた森の奥、月光が差し込む開けた場所で、2つの人影が対峙していた。


「……勇者は、まだ未熟だ」

「ならば狙い目だな。我らが手を下す価値はある」


 低い声が交わされる。

 その片方の男は大剣を携え、その刃が月光を受けて銀色に光っていた。

 表情は闇に隠れ、正体は窺えない。


「計画は進める。芽吹く力など、我らが求めるものではない」


 刃が月を裂くようにきらめき、やがて人影は音もなく夜に溶けていった。


 学園で芽生えた新しい力。

 それを守ろうとする者と、踏み潰そうとする者

 静かな対立の幕が、確かに上がり始めていた。

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