16.それぞれの思惑
学園も夏休みを迎え、多くの生徒たちは帰省したので街からは学生の姿が減っていた。
人通りの多い広場を歩いていたレオンは、ふと見覚えのある声に足を止める。
「そっちじゃない! 荷馬車の横だ、もっと丁寧に積んで!」
威勢のいい声で仲間に指示を出しているのは、小柄な少年。
商人風の衣装に袖をまくり上げ、忙しく動き回っていた。
「……あれ、エリオ?」
声をかけると、少年がこちらを振り向く。ぱっと表情が明るくなった。
「レオンじゃないか! あの時の!」
――入学試験の日。物を取られた彼を、レオンが助けたことがあった。
あれから時間は経ったが、互いに顔を覚えていた。
「久しぶりだな。元気そうで安心した」
「おかげさまでね! いやぁ、あの時は本当に助かったよ。あの後、君が合格したって聞いて……やっぱりな、って思ったさ」
エリオは荷物を抱えたまま、にかっと笑う。
ただの商人見習いとは思えないほど、人を相手にするのに慣れている笑顔だった。
「ところで、手が足りなくて困ってるんだ。少し手伝ってくれないか?」
「いいよ」
レオンは荷物を受け取り、馬車の方へと運ぶ。
見た目以上に重い荷だが、訓練で鍛えた体にはちょうどいい負荷だ。
「助かる! いやぁ、力仕事はどうしても限界があるからなぁ」
「商売ってのは、体力もいるんだな」
「はは、体力も頭も愛想も全部さ!」
軽口を叩きながら、荷はあっという間に片付いた。
息を整えながら、エリオが何かを思いついたように手を打つ。
「なぁレオン。夏休み、時間あるだろ? 小遣い稼ぎにうちを手伝わないか?」
「手伝い?」
「そう! 荷物運びだけじゃなくて、ちょっとした護衛とか、交渉の場で立っててもらうだけでも心強い。冒険者登録前の君でも、うちの手伝いなら問題ないはずだ」
確かに、長い休みの予定は特に決めていなかった。
修行だけではなく、実際に人と関わる経験も必要かもしれない。
「……いいかもしれないな。やってみるよ」
「よし、決まり!」
エリオの笑みは、まるで新しい商談をまとめた商人そのものだった。
こうしてレオンの夏休みは、少しだけ賑やかなものになりそうだった。
ーー
王城の一室。豪奢な調度品に囲まれた広間に、兄弟2人の声が響いていた。
第一王子アルキメスの口調はいつも通り強く、傲慢さを隠そうともしない。
「力のない者など、いくら集まろうと無意味だ。王に必要なのは圧倒的な力、それだけだ」
対する第二王子シリウスは、冷静に視線を返す。
その眼差しには、揺るがぬ芯が宿っていた。
「学園では、新しい力が芽吹き始めています。小さな力でも、それはやがて国を支える柱になります」
その言葉を、アルキメスは鼻で笑い飛ばした。
「芽吹きだと? 俺がその芽を踏み潰せば、何も残らん」
鋭い声音が広間に落ちる。
シリウスは表情を崩さず、答えようと。
しかし第一王子はそれを言うことを許さない雰囲気だった
互いに視線を外さず、数瞬の沈黙が流れる。
やがてアルキメスが踵を返し、広間を後にした。
その背に向けて、シリウスは小さく息を吐いた。
(兄上が気づかずとも……芽は確かに育ち始めている)
「陛下、お疲れのようですね。先日の定期便でしょうか?」
「あぁ。実は聖王国で少し魔物が活性化しているようなのじゃ…帝国は相変わらず何もないと言っておるがどうもそうは思えない。我が国を含めて他も報告に上がってくるほどではないものの違和感がある」
「そうでしたか。今度の勇者には重役を担ってもらう必要がありそうですね」
「うむ。宰相のそちにも迷惑をかける」
――
同じ頃、学園の渡り廊下では、一人の少年が月明かりを浴びながら佇んでいた。
侯爵家の長男、リカルド。
不思議な微笑みを浮かべ、夜風に髪を揺らしている。
「芽吹き、か…。確かにその通りだね」
ひとりごとのように呟き、視線を夜空へと向けた。
その瞳は冴え冴えと輝き、何かを見透かしているかのようだった。
「さて…僕はどう動くべきかな。」
ーー
また同じ頃魔王城ーー
「各地の報告を」
はっ
「聖王国には魔王軍による進行が少しづつ始まったのではと思わせることに成功しています。帝国についも同様です。やはり他国への共有はされていないそうです。その他は辻褄を合わせるために違和感を覚える程度にとどめています」
「そうか。であればこのまま予定通り進めろ」
はっ




