14.学園祭
翌朝、学園はいつになく活気にあふれていた。
廊下では机や布を運ぶ生徒たちが行き交い、教室の中では賑やかな声が飛び交っている。
「そこ、もう少し右に寄せて!」
クラス全体の動きを自然に仕切っていたのは、第二王子シリウスだった。落ち着いた声に従えば、不思議と混乱が整理されていく。
レオンたちのクラスは、学園祭で露天を出すことになっていた。
焼き菓子や軽食を販売する予定で、机を並べて屋台風にし、カノンが選んだ明るい布を掛ける。
「いいじゃんいいじゃん、もうお祭りっぽい!」
カノンは目を輝かせながら、布を整える。
マルコは胸を張って「料理なら俺に任せろ!」と張り切り、ガイルは早くも「もう俺、準備だけで疲れた……」と机に突っ伏していた。
(こうしてみんなで準備してると、本当に楽しいな……)
レオンは工具を手伝いながら、仲間たちと笑い合う空気を胸に刻み込んでいた。
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やがて学園祭が始まり、校舎の外は活気に満ちた。
通りには下級生の露天が並び、香ばしい匂いや甘い香りが漂う。2・3年生は演劇や演奏も披露しており、生徒も来客も足を止めては笑顔を見せていた。
「いらっしゃいませ!」
カノンが声を張り上げると、子供連れの来客が笑顔で足を止め、焼き菓子を手に取っていく。
「カノンの声がでかいから、客が集まるんだな!」とマルコが笑い、レオンも自然に笑みをこぼした。
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午後になると、学園の広大な演習場で「上級生の武術大会」が始まった。
舞台の周囲には大きな観覧席が設けられ、そこに国王と第一王子の姿があった。
国王は穏やかな笑みで舞台を見守り、第一王子は卒業生として堂々と腕を組み、真剣な眼差しを向けている。
(やっぱり王族って、ただ座ってるだけで場の空気が変わるな……)
レオンは人混みの中からその姿を仰ぎ見て、妙な緊張を覚えた。
号令が響き、武術大会が幕を開ける。
上級生たちが次々と舞台に立ち、剣や槍を振るい、魔法を放つ。観客席からは大きな歓声が上がった。
特に注目を集めたのは、武門の名家に連なる2人の上級生の対決だった。
1人は巨体を活かして両手剣を振り回し、もう1人は俊敏さを武器に槍を繰り出す。
重い剣撃と鋭い突きが火花を散らし、観客は息を呑んで見守った。
「すごい……」
隣でカノンが目を輝かせる。
レオンも拳を握りしめながら、その迫力を見逃すまいと目を凝らした。
(……これが、本当に強い人たちの戦いか)
やがて勝敗が決し、観客席は大きな拍手に包まれた。
国王は満足げに頷き、「……見事だ」と小さく口にした。
その一言は、観覧席に座る貴族や騎士たちの耳にも届き、場に重みを与える。
舞台を見つめながら、レオンは胸の奥で小さく熱を覚えた。
(俺も、いつか……)
学園祭の笑顔と熱気、その中に垣間見える“未来への挑戦”。
その1日が、生徒たちにとって忘れられないものになるのは間違いなかった。
ーー
学園祭の熱気も、武術大会の歓声も今は遠い。
夜の王城は静かで、月明かりだけが広間を照らしていた。
「……なかなか見応えのある大会だった」
杯を置いた国王の口調は落ち着いている。
剣を振るい合う若者たちの姿が、まだ脳裏に鮮やかに残っていた。
対する第一王子アルキメスは、鼻で笑った。
「所詮は学生の遊びです。真の戦場で通じるわけがない」
「だが――あの者たちは確かに鍛えられていた。剣筋も、連携も」
国王の声にこもる熱は、ただの催しとして切り捨てるには惜しいと感じていた証だった。
しかし、アルキメスは杯を傾けながら肩をすくめる。
「力が足りません。あれでは敵をねじ伏せられない。王を支えるには、まだまだ未熟」
その言葉に、国王はふと目を細めた。
「……力だけがすべてではあるまい」
「父上は甘い」
アルキメスは吐き捨てるように言った。
「剣を握れぬ者に、何ができます? あの愚弟のようにな」
一瞬、静寂が広間を満たした。
国王は杯をゆっくりと置き、月を仰ぐ。
「人の心を束ねるのもまた力だ。……お前にはまだ分からぬかもしれぬが」
アルキメスは不快げに口を歪めた。
「理想で国は治まりません」
父子の言葉は交わっても、決して重なりはしない。




