3 確率100%
「スッゲェ…当たりやがった…」
「でしょー。サクラの言った通り♪」
テレビを見ながら、一瞬パンにかぶりつくのさえ忘れた克己。隣では、サクラが〝当然〟とばかりにパンを食べ始める。
画面には〝緊急記者会見──離婚の真相──〟というテロップと共に、ある女優が映し出されていた。サクラが〝この人、もうすぐ離婚するね〟とドラマを見ながらボソリと呟いたのは、三ヶ月ほど前。夫婦仲が悪いという噂はなく、どちらかといえば夫婦円満説が流れていたため、克己は〝そんなことあるわけねーだろ?〟と鼻で笑っていたのだ。もちろん、秀行も直哉も心の中ではそう思っていた。
それがどうだ…?
三ヶ月経って、サクラの言う通り離婚したではないか。
「何で分かったんだよ?」
「だって、テレビに出てきたもん」
「はぁ…?」
女優ならテレビに出てきても問題ない。──というより出るのが当たり前で、それだけで離婚するだのなんだの言われても理解できないのが当然なのだが…。
「だからぁ、最近よくテレビに出てくるようになったんだって。結婚してから、あまり出なくなってたでしょ?」
そう言われ記憶をたどってみれば…確かにそんな気もした。
ドラマよりバラエティを主に見る克己にはあまりよく分からないが、それでも結婚以来、名前は聞かなくなったかな…という結論には至ったのだ。
「それがなんで離婚するって事に繋がるんだ?」
「なんで…って言われてもさ…。サクラの統計ではそうなんだもん」
「統計って…」
「きっと、アレじゃないかなぁ~」
「アレって?」
「離婚前の準備」
「ワケ分かんねぇ…」
「だってさ、離婚するってことは自分で生計立ていくってことだよ? それまで男の人がお金持ってきたけど、離婚したら持ってきてくれないじゃん。子供がいたらお金もかかるし、特に親権が絡んでくるから、離婚前にちゃんと働かなきゃならないからね」
──なるほど。
サクラの統計とはいえ案外根拠があったりして、克己のみならず黙って聞いてた秀行たちも納得してしまった。
「それよりさぁ、克にぃの統計はないの?」
「俺の統計?」
「うん。こういう時は確実にこうなる…っていうようなこと」
「そんな事、考えた事もねーなぁ」
「ふ~ん。じゃぁ、秀にぃは?」
「フム…。そうだな…」
何かあったか…? と考えてみれば、ひとつだけ思い当たるものがある。
「車を運転しながら窓開けて、右手にタバコを持ってたら──」
「持ってたら…?」
「ポイ捨てする確率100%」
「それって確率は高いかもしんねーけど、100パーじゃねーんじゃねーの…?」
「そうか…?」
「──んじゃ、これはどうだ?」
秀行の統計が否定され、次いでそのあとを繋いだのは直哉。
「秀行がそのポイ捨てしたヤツを見つけたら、ただじゃぁ済まないってのは?」
歩いているならともかく、車からのポイ捨てにそこまでするかと思いながらも、
「あー。それはまず間違いねーな、うん」
「うん、間違いないねぇ~」
──と冗談交じりに即答する二人。するとその傍らで、
「当然だ」
──と真剣な口調で呟く秀行に、三人が三人とも〝マジかよ?〟と心の中で呟いたとは、秀行本人だけが知らないことだろう。