金蘭
「本当に吸わないの?」
真夜中の山中は、僕たちが夜の狩りを行う場所だ
僕は捕まえた少年を両手と膝の三点で地面に押し付けながら振り向き、バディの君に確認した
君は両手で抱えた血液パックをストローで啜りながら、『吸わない』の視線を返す
取り押さえた人間の少年は白くて細い手脚で、君に似た姿が美味しそうだったし、補足して説明すると、押し潰されながらも信じられない勢いで僕の顔を殴りまくっていた
正直に言って腹は立つが、子供を手に掛けるのは主義に反する
僕は少年の躰に自分のそれを重ねて躰重をかけると、彼の両手首を厳重に握り締めた
「君って美味しそうだね」
少年の耳に吐息を吹き掛ける
突然近くで物音がしたので向き直ると、君が眼と口を開いた顔で血液パックを取り落としていた
「えっ…」
「何でもない」
君はパックを拾い上げる
中身は少し溢れてしまっていたが、君は土も払わずにそれを口に運び、突然吸い始めては少しむせていた
驚いた拍子に少年の反撃が始まり、僕は眼だろうと鼻だろうと顔中を滅茶苦茶に殴られた
「こ、こら!」
少年を組み敷いて、もう一度取り押さえる
「悪い子だ」
彼の瞳を覗き込みながら、唇に指で触れる
暴れようとする華奢で我儘な手は、僕が肘で押さえ付けたままだ
「お仕置きをしようかな………」
少年の頬を嘗める
またしてもパックの落ちる音
僕は、もう一度君を視た
「何でもない!!」
言いながら君が予期せず頭を蹴飛ばしてきたため、僕は避けきれず直撃を受けた
期を同じくして、少年も拳を僕の顔に突き刺してくる
何が起きているのか解らないまま、僕は二対一の攻撃を受けてごろごろと転がると、躰を丸めて頭を抱えてそれに耐えた
「二人してなんなの…………」
攻撃が止んだ気配を感じて、身を起こす
君が少年の髪を掴んで立ち上がらせ、その頬を平手で打つ場面が最初に眼に入った
少年が顔を押さえて崩折れる
僕は彼が倒れ伏す直前にそれを受け止めて抱きかかえると、君に言った
「…………もしかして、この子に嫉妬してるの?」
君が心底腹を立てた様子で、僕の眉間を殴る
姿勢を崩した瞬間に、僕の腕から逃れた少年が僕を蹴飛ばした