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エピローグ 24ヶ月後: シンジ・カナメ①

 西暦2201年、5月25日。帰宅してから2年が経過した。

 一月前、ようやく全てが終わって地球に帰還できたから、記録としてここに記す。


 まず、どこから書こうかな。


 高校一年の冬に、初めてセキュリティが突破されて敵の侵入を許した。やって来たのはバディだった人…セイヤと、知らない二人だった。

 学校に仕掛けた爆発物を爆破されたくなければ地下の第三教室に来いと言われた。わざわざ私を呼び寄せると言うことは、目的は私の命じゃない。私はまだ生かされるのだと、利用価値があるのだと思った。だから、何か皆の不利になるようなことがあれば、自害すれば敵の目的を妨害できると思って、1人で行った。覚さんを呼べば、絶対そんなことはさせてもらえないから。


 付き合ったばかりでもうおしまいになるのは申し訳ないと思ったけど、その時の私はそれが最善だと思ってた。はやとも、よしくんも、覚さんまでも守るためにはそれしかないと思ってた。

 それに、私には毎日を楽しむ権利がないと思っていた。覚さんは私を被害者だと言ったけれど、他にどうしようもなかったとしても、私は紛れもなく誰かに対する加害者だった。自分の幸せが絶たれたとしても、それは運命だと受け入れるつもりでいた。

 

 やって来た三人に与えられたミッションはいくつかあったみたいだけど、情報収集のついでに覚さんと私を萎縮させることが目的だったらしい。生活圏に入り込んで、いつでも壊滅させられると脅す。そして私たちの動きを鈍くする。地球との全面戦争に突入する前に邪魔されないようにすること、時間稼ぎだね。


 目的は脅しだったから、痛め付ければ良いということで、内容は組織でよくあったルーチンだった。バディは他の二人をたしなめてできるだけ私が大怪我しないようにコントロールしようとしてくれたし、できるだけ早く何も感じなくなるようにと、他二人に気づかれないようにぼんやりする薬もなめさせてくれた。終わるのを待てばあちらの目的が達成されて解放される。そう思ってた。


 でも、薬は効かなかったし、組織でやっていたように感情を完全になくすことはできなかった。覚さんが呼び掛けてくれる声が、大好きだよと言ってくれる声が頭でこだまして消えてくれなかった。


 家族から向けられる親愛は知っていたけれど、家族でない人から向けられる優しさはあまり知らなかった。

 組織では一部を除いてほとんどが暴力的で欲望を隠そうともしなかった。バディは優しかったけれど、上に逆らうことはできないから、訓練として殴られたことも体を重ねたこともあった。


 だから、覚さんがぐいぐい来たときは正直困惑した。何が目的なのかと随分疑ったし、試そうとして失敗もした。でも、それはただの好意で愛情で。それを知ってしまったから、もう人を物のように扱う手や視線には耐えられない。人を傷つけあう世界には戻れないと初めて思い知った。


 取り返しのつかない判断をしてしまった、と思った時には既に遅くて、動画が覚さんに送信されてた。多分、すごく怒って悲しんでくれるんだろうなあと思ったらそれもまた泣けてきて、どういう顔をすれば良いか分からなくなってしまった。

 痛くて苦しくて、覚さんが伸ばしてくれた腕に向かって倒れ込んだ時には意識を失ってしまった。



 意識が戻った時、覚さんに「遠くに逃げること」を提案された。学校をやめて、身分を捨てて、誰にも知られないところで上手くやれば見つかりにくいだろうと。何の解決にもならない、はやとが危険にさらされるそんな案を持ち出した覚さんは相当混乱してたんだと思う。


 だから、はやとやよし君、覚さんとここで生きていきたいって伝えた。皆に与えられる愛情の中で生きて、私も愛情を返していきたい。そう言ったら、覚さんにはものすごい泣かれたな。病院の先生も看護師さんも心配するくらい泣いてた。

 あの時、初めてちゃんとはやとやよし君と家族になれた気がした。覚さんと本当の恋人になれたような気がした。


 ただ、学校に行くことはもうできなくなった。


 はやとと離れて軍の施設で暮らすことになったけど、覚さんとよし君は毎日会いに来たし、少ししてはやとも会いに来れるようになった。多分、ものすごい頑張って覚さんの課題をこなして、会いに来れるだけの知識と技術を身に付けたんだと思う。

 つくづく、人に恵まれて私は幸せだと思う。


 軍の保護下で暮らして、訓練や勉強をしつつ、次の冬に火星へ向かうことを告げられた。


 今回の目的はひとつ。再度火星のシステムを掌握して、大量破壊兵器を自壊させること。パスコードなんかは前火星にいた時に全て変えてしまったからどうするのかと思っていたけれど、火星のシステムは未だに私の生体情報をマスターキーのような形で保有しているらしくて…例の人の気配のするAIが秘密裏に保持していたらしい。


 それが終われば無罪放免、もう私は必要なくなる。

 

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