早く異世界にいかせてくれ!
「危ない!!」
誰かの声が聞こえる。
俺は、その声の主を見ようとした。
だがそれより前に、俺の体に向かって思いきりトラックが突っ込んできた。
ーーー
「お目覚めですか、田中大介さん」
俺の目の前には、金髪の美少女が白いドレスを着て立っていた。
いや、正確には、まるで女神のような……
「はい、女神です」
「うおお! びっくりした! 何で心の声がばれてんだよ!」
「まあ、だいたい皆さん考えることは同じなので」
皆さん同じって、つーかここはどこだ?
真っ白い部屋で、周りに何もない。
もしかしてこれは、俺が今まで小説でさんざん見てきた……
「はい、異世界転生です」
「うおお! だから心の声読むなよ! びっくりするだろ!」
「顔がオタクタイプのかたは、だいたいこのくらいで気付くので……」
顔がオタクタイプってなんだ!
いやまあ、言いたいことはなんとなく分かるが……
「では、そろそろ自己紹介をさせていただきます。私は、トーン王国の女神アリアというものです。あなたには、この世界を救っていただきたいのです」
やっぱりそうだったか、俺は異世界転生をするのだ。
高校生のうちに死んでしまったことが、悲しくないといえば噓になる。しかし、俺は勇者となり世界を救うのだ。
だが、一応なんで死んでしまったのか、死んだ理由を聞いておくか。
「女神様、俺が死んだ理由を教えてもらってもいいですか?」
すると、女神様が、おそらく俺の情報が書かれているであろう紙の資料を見ながら答えた。
「ええ、もちろん構いません。あなたはトラックに引かれて死んだ……」
女神様は言葉の途中で俯いたまま黙ってしまった。
なんだ? 女神様の様子がおかしい。
明らかにテンションが下がっている。
「女神様、どうかされましたか?」
「はあ……またか……」
そう言って女神様は大きなため息をついた。
「またとは、いったいどういうことですか?」
俺は疑問に思ったことを女神様に聞いてみた。
すると、女神様は、
「またトラック⁉ もううんざりなのよ!!」
そう言って、俺に向かってブチギレてきた。
「ちょっと待ってください! トラックがどうかしたんですか?」
「だからぁ! トラックで死ぬやつが多すぎて、もうこちとら飽きてるのよ!」
俺の調べでは、異世界転生系主人公のうち約8割がトラックにひかれて死亡している。
いや、だからといって……
「それは理不尽すぎるだろ! トラックで死んだことくらい許してくれよ!」
「私だってこんなこと言いたくないわよ! でもねえ、毎回同じような顔のやつが、毎回同じ死に方しかしないんだから、もう限界だわ!」
そう言って女神様は、手足をじたばたさせながら喚きだした。
「そりゃあ、私だって最初は勇者を生み出すこの仕事が楽しいと思っていたわ。でもいくら美味しいからって毎日焼肉は食べられないでしょう」
「女神様なら焼肉のことも愛してくれよ!」
「いや、私だって焼肉は好きよ」
「…………それならいいか」
というか女神も焼肉食べるんだな。
「私は、特にハラミが好きね」
「え⁉ 俺も一緒です! やっぱり焼肉はハラミですよね!」
「あなたもそうなの⁉ 私たち気が合うわね!」
何だか、今日一番女神様と心が通じ合っている気がするぞ。
それよりも……
「俺たち、何の話してたんですっけ?」
「焼肉の話でしょ?」
「違げぇよ!! 死に方がワンパターンだって話だよ!!」
危ない、いつの間にか焼肉の話にすり替わっていた。
「女神様は、どんな死に方だったら満足してくれたんですか?」
「そうねえ、例えば、こんな死に方なら……」
ーーー
私の名前はシェリー。16歳だ。
世界の命運を握っていると噂の、ラインという少年のボディーガードをしている。
(こんな私と同じくらいの年齢の少年を守れとは、ボスはいったい何を考えているんだか)
現在ラインは、学校の帰り道を、友人と談笑しながら歩いている。
その後ろを私が尾行しているという形だ。
(今日も、何も問題はなさそうだな)
そう思い警戒を緩めた瞬間に、視界の端に黒服の男を捉えた。
(まずい!!)
私が、ラインを守るため駆け寄ろうとする前に、黒服の男はラインの前に立ちふさがった。
「だれですか、あなたは⁉」
ラインは突然現れた男に驚き動揺している。
「俺は暗殺一家アイル家の者だ。魂の宝珠を持つお前を殺しにきた!」
「魂の宝珠なんて僕知りませんよ。えっ、うわああああ!!!」
黒服の男はラインの胸めがけてナイフを投げた。
ラインは恐怖で動けそうにない。
「危ない!!」
私は、ナイフから守るために、ラインの体を思いきり突き飛ばした。
「ぐっ、まさか俺がこんな小娘に不覚を取るとはな……」
そう言った黒服の足には、ラインを突き飛ばしたのと同時に、私が投げたナイフが深々と突き刺さっている。
「今日のところはこれで終わろう……お前と、もう戦わずに済むことを幸運に思うよ。」
その後、黒服の男の姿は闇に消えていった。
「大丈夫ですか!! 僕をかばったせいであなたは……」
ラインは私の傍に駆け寄ってきた。その姿からは動揺が伝わってくる。
当然だろう、私の胸には、黒服の男が投げたナイフが深々と突き刺さっているのだから。
もうすぐ、私の命も終わるだろう。
「気にするな、これが私の仕事だ」
「そんな……まだ諦めたらダメですよ!」
止血をしようとラインの体が私に近づく。
そのとき私は、ラインの首からぶら下がっている金色の丸いペンダントに気が付いた。
私はラインを見ながら微笑んだ。
「君なら大丈夫だ」
「えっ? どういうことですか?」
「君なら世界を救える」
(そうか……君の名前はラインというのか
昔、私の心を救ってくれた君なら、きっとどんなことがあっても……)
「待ってください! 僕にはまだ聞きたいことが……!」
ラインは私にそう呼びかける。
しかし、その言葉の続きを聞く前に、私の視界は急速に黒く染まっていった。
ーーー
「それで私はこう言うの、お目覚めですか、シェリーさん」
いや、
「それで済むわけねえだろおおおおお!」
俺は女神様に向かって思いきり叫んだ。
「急に大声出さないでよ。びっくりするじゃない」
「ラインはこれからどうなるんだよ! ラインとシェリーに昔なにがあったんだよ!」
「そんなの私が知るわけないでしょ。とにかく、私はこれくらいドラマチックに死んでほしいってことよ」
「異世界転生よりも、よっぽど面白そうなストーリーが進行してただろうが! シェリーは絶対死んだらいけないヒロインポジションだろ!」
女神様は、あっ! と驚いた顔をしてうなずいた。
「たしかにそうね。やっぱり、あなたみたいにトラックで死んでくれたほうが安心するわ。結局、安くてうまい牛丼が一番ということね」
「食べ物で例えるな! またややこしくなるだろ! まあこれで、トラックの良さも分かってくれただろうし、早く異世界にいかせてくれ!」
「ええ、あなたと話して気分もスッキリしたし、今すぐ異世界に連れていってあげるわ」
なんだかどっと疲れたが、ようやく異世界にいける!
「では田中大介さん……」
「ちょっと待ってくれ」
「なんですか? あなたの希望どおり、異世界に連れていこうとしたのに」
女神様の顔は不満そうだ。
「いや、最初はスルーしよう思ったんだけどよ、俺の名前は田中小介だ。大介じゃない。思ったより長い付き合いになったし、ちゃんとした名前を覚えて欲しいと思ってよ」
「何を言っているのですか、この資料にはあなたの名前は大介と書いていますよ!」
「だから小介だって」
「いまさら、そんなウソ無駄ですよ。ちゃんとここに書いてありますから。
田中大介、身長は180㎝、体重は90㎏、空手の大会で優勝……」
「だれだよ!!! どう考えても顔がオタクタイプの奴のプロフィールじゃねえだろ!」
「…………」
女神様の顔から大量の汗が流れ落ちている。
「もしかしたら、もしかしたらだけど……私、ミスったかも? ゴメンね!」
そう言って女神様は、俺に向けてウインクをしながら謝ってきた。
「ふざけんなよおおお!」
女神様に向かって思いきり叫びながら、俺の視界は、急速に白く染まっていった。
ーーー
「大丈夫ですか!! 田中君!」
だれかが俺の体を揺らしている。
地面が固い。
どうやら俺はアスファルトの上に倒れているようだ。
だがおかしい、俺の腕には何か柔らかいものが触れている。
具体的には、女性の胸が……
「うわあああ! ごめんなさい! わざとじゃないんです!」
しかし、女性は俺のなさけない声を無視して、
「良かった! 田中君無事だったんですね!」
どうやらこの女性が、トラックにひかれそうになっている俺を助けてくれたらしい。
しかし、一つ疑問が残る。
「あの、すみません、なんで俺の名前を知っているんですか?」
「なんでって、私たち同じクラスじゃない。」
女性は不思議そうに答えた。
同じクラス……あっ! この人は学校一の美少女、永井凛だ!
あまりのことに気が動転して気付いてなかった。
「永井さんありがとう。永井さんのおかげで、体も大丈夫そうだよ」
「それは良かったわ! あれ? 田中君、そんなペンダント付けてたっけ?」
永井さんは、俺の胸からぶら下がっている、金色の丸いペンダントを指差しながら尋ねた。
「ああ、これのことか。普段は服の中に入れてるからね。これがどうかした?」
事故の衝撃で、服の中から、ペンダントが出てきてしまったようだ。
このペンダントは、俺が五歳のときから大切にしている。
永井さんは、俺の返答に何か納得がいったような顔で、
「いや、なんでもないの。私、前から田中君と仲良くなりたいと思っていたの。よかったら連絡先交換しない?」
「えっ! 交換してくれるの?」
「もちろん! これからよろしくね、小介君!」
連絡先を交換した後、永井さんは笑顔で手を振りながら帰っていった。
まだ、永井さんと話せたことによる胸の高鳴りが消えない。
まさかあの永井さんと仲良くなれるとは……
もし名前の間違いに気がつかなかったら、俺は異世界に転生していたのだろうか。
冷静に考えて俺は異世界にいって何がしたかったのだろう?
つーか永井さん、あの女神様の百倍可愛かったな。
俺は今日起こったことについて、しばらく考えた後、一つの結論にたどり着いた。
それは……
やっぱり、異世界よりラブコメだな!!!