いきなり来る
老化と健康についてのエッセイです。
久々の更新です。よろしくお願いします
しゅうきち
――まにあった。
俺は、便器に仁王立ちになり、命拾いした気分でジャージャーと飛沫がはねる勢いで放尿をする。
六十歳を過ぎたあたりから、尿意がいきなり最大限に感じられるようになってきた。若い頃は、はじめ軽く尿意を意識し、それが段々と強くなり、やがて最高潮に達するという段階を踏んでいた。
それがここ数年前から、いきなりのっぴきならない状態になり、一刻の猶予もなくとりあえずトイレを探すのだ。
この変化が、老化現象なのかは知らない。ただ頭髪はもとより、体中に白髪が増えてきた。睡眠にしても以前は、一度寝ると朝まで寝ることが多かった。しかしこの頃は数時間おきに目が覚め、熟睡してスッキリ
とした朝を迎えなくなった。
年々歳を重ねるにつれ、身体が衰えていくには自然の流れだから仕方がないし、逆に身体の変化を楽しむ余裕が欲しい。それにしても下腹の太り具合には、気が重いのだが、食べる量を減らすのは寂しいし、身体を動かすのは面倒だ。いっそ下腹の余分な分だけ切除して貰う手術を受けたいのだが、そんな手術なんてないかな。
下腹の肉に限らず世の中、自分の思いが通じるなんて、ほとんどない。こんな現世だからこそ、とろっぴょ(北信濃の方言、いつでもの意味)酒や焼酎あおってなきゃ真面に生きていられない。
毎朝飲む薬は年々数を増し、今は下腹の肉を減らすサプリを含めると、八錠くらい飲むようになった。体調の悪い自覚はないが、それだけ身体の数値が悪くなってきているのだろう。
医者には酒を控えろとか、糖分の高い食品は食べるなとか、いろいろアドバイスされる。砂糖の入った飲料は飲まなくなった。しかし酒を飲まないとストレスがたまって死んでしまうと医者に言ってみたら、
「それなら飲まずに死んでみろ」と返された記憶がある。
酒を飲むくらいしか楽しみのない者にとり、生命の危険でもないと、禁酒は出来ないんじゃないか。
俺の親父は、七十歳の時に胃癌で胃をほぼ摘出したが、酒とタバコは止めなかった。それでも八十歳まで生きていたんだから、当人としては上々の出来ではなかったかと思う。
人はいつかは旅立つ。それまでの間いかに納得の出来る生き方を送れるかが重要だ。
俺は何があっても酒は止めないと言いたいが、癌とか糖尿病になれば、そりゃ禁酒するだろうが、それまでは飲み続けていたい。
俺は糖尿病の薬を飲んでいる。早く言えば糖尿病患者だ。で、年一回の市民検診において必ず眼底検査を受けるように指示される。受けると今のところセーフの結果なので助かっている。最近、視力は落ちていない。
しかしそのうちに、眼底検査の結果がアウトになると、失明の恐れが出るのだろうか。それは突然に来るのか。それとも段々と見えにくくなるのか。さっぱり分からないし、知識を得たいとは思わない。
前触れもなくというか、いきなり来る印象があるのは脳梗塞や心筋梗塞だ。腕がだるかったり足がふらつくのが脳梗塞の兆候らしい。俺は、今のところそれはない。予防があるのかないのか、それは知らない。
普通に暮らしていても、いきなり脳や心臓の血管が詰まって障害が出てしまうのだから、防ぎようがない気もする。
セラヴィ、ケセラセラ――。どんな人生になろうとも、それが自分の運命なんだと、大人しく受け入れよう、なんてのはちょっとつまらない。でも好きに酒は飲みたいし、心ゆくまで食べる食事は譲れないのだ。
辛気くさい話ばかり書いたので、年をとってきてプラスになったことを思い浮かべる。
そうだな、身体的にはないかな。だけどもう学校に行ったり運転免許証をとらなくて良い。俺には一人娘がいるが再来年大学を卒業見込みだ。俺も数年後には年金がもらえる。裕福ではないが、贅沢をしなければ、なんとか生活が成り立つような感じだ。上々の首尾と言って良いだろう。
歳をとってきて良くなったと思うのは、他人との付き合い方のコツかなと思う。例えば、自分ができあがる酒の量とか、他人と飲むときの間合いの取り方とか、若いときはそこら辺の塩梅が分からなかった。この頃は周りの雰囲気を感じながら、行動できる気がするんだが、客観的に見てどうなのだろう。
それから、物忘れが多くなったのは困りもんだが、とぼけるのが上手くなった気がする。そしてバレずに嘘をつけるようになったんじゃないかと思う。
悪質な嘘はいけないが、対面を保つための嘘や知らんぷりは良いんじゃないか。全てが馬鹿正直は疲れるだけだ。まあ、それくらいしか老化の利点は思いつかないが。
いろいろ老化についてぼやいてきて、昭和生まれの脳みそはオーバーヒート気味になってきた。ここらで焼酎でも飲んで休憩しよう。
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