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オーパーツ? 

7/22 19時 ちょっとだけ、追加してます。

「本当にこれが、そう?」


「そうだ、たぶん」


「じゃあ、割るぞ、セーノッ」



 刃物を当てた瞬間、パッカーンと何かが飛び出した。


 なんと、可愛い女の子だ。


「ドワーッ、ちょっと、あんたら正気か? 普通、こんな金属に刃物で挑まないでしょ? どうなってるの、全くもう!」


 なんか、怒って叫んでいる。

 まあ切りどころが悪ければ、大量出血しただろうから仕方ないか。


 女の子は怒っていた。

(お爺さんは川から流れてきたのが桃だと思ったから、実はタイムマシンでしたと言うオチ?

でもさ、ドラム缶くらいでかくて桃色の球型だけど、桃に見えたのかな? 本当に? まあ、それはさておき)


「それより、何その刃物? このタイムマシンは宇宙船にも使われる素材よ。普通の包丁じゃ、絶対刃こぼれするはずよ。素材は何?」


 お爺さんとお婆さんは、顔を見合わせてニヤッと笑った。


「ワシが作ったんよ。近くの山の赤土と鉄を混ぜて、あとはチョイチョイとなんやかんやして、エイってね。スゴいじゃろ?」


「ス、スゴいけれども、何なのよ、もう」

「まあ、まあ。これでも食べんしゃい」

「………ん、良い匂い。ごくんっ。ありがとうございます」


 女の子はすごく目を輝かせ、眩しそうにお婆さんの方を見た。


 お爺さんとお婆さんは、女の子にお茶と蒸かしたさつまいもを出してもてなしたのだ。

 さつまいもは黄金の輝きで、食欲をそそる。


「うわー、美味しいですね。このおいも」

「ふふふっ、そうでしょ。一から育てたからね。

土が違うのよ。肥料をたくさんあげたからね」

「ほお、ほお。なるほど! 肥料大事なんですね。

モグモグ、お茶も美味しいです」

「こんなものしかないけれど、たくさん召し上がれ」


 お腹も満たされ、お互いにほっこり和んだ所で、お爺さんが声をかけて来た。


「それよりお嬢さん、この機械はすぐに直るのかい? 流石にピンクだからと言って、半分は桃とは思っていなかったけど、お宝のにおいがして切ったんじゃよ。

 悪かったね。此処は娯楽が少ないから、許しておくれ」


「ええ、まあ、もう良いですよ。

 機械の方も問題ないです。こんな外装くらい直せなきゃ、時間旅行とか出来ませんし。

 あ、過去の人に未来人って言っちゃダメなんだった。……まあ、お爺さんだから良いか!」


「ふむ。良かった、良かった。

直るんじゃな、安心じゃ。じゃあ、ついでにこれも頼めないかのぉ?」


「えっ、ウソッ! なんで此処に、こんなものが!」


 女の子が部屋の奥へ行くと、冷蔵庫やらエアコンが所狭しと鎮座していた。

 その女の子が来た時代の物と、遜色ない品物だった。


「いやー、壊れちゃってさ。悪いんだけど、直してくれないかな? おお、良いのかい? 助かるよ」


 まだ何も言ってなかったのに。

 もう、良いよ。

 それにしても、この家電。何処から持ってきたの?

 この時代って、こんな技術力あったっけ?

 車もテレビもないはずなんだけど?


 まあ、考えても仕方ないわね。

 答えなんて、今さらよ。

 分析違いなことなんて、いつものことじゃない。

 自分が存在しない場所なんだから。


「なんか不思議だけど、今部品もたくさんあるから良いわよ。さっきのさつまいものお礼もしたいし」


「おお、良いのか? 芋が好きなら、持てるだけ持ってけ」

「おお! やる気出るよ!!」


 こうして女の子は、手際よく家電修理をしていく。


「カチャカチャ、カチャカチャ。こんなもんかな?

 でも電気なんて、こんな山頂に来るのかな?

 ええ! 川の水車で発電してるの? マジか? 

 すごいな! もう個人で発電器があるんだ!」


 機械工学を専攻している女の子には、家電の直しなんて朝飯前だった。

 そんなことよりも、かなり昔の時代に時間旅行したはずなのに、冷蔵庫などがあるのを見てガッカリした。


「空間移動の方程式を間違ったのかな? それとも歴史認識が違う? どこの家でも家電があるのかな? 

 ここって、明治時代よね。ああん、もう、私無事に帰れるだろうか?」と、心配し始める。


 何度か試した時は成功したのに、と。


 そんな彼女にお婆さんが、畑でもぎたてのトマトを竹の葉に包んで彼女へ渡す。

 タイムマシンを直している間に、冷蔵庫で冷やした桃も帰りにお土産用でくれると言う。

 お爺さんは、さつまいもを麻袋にたくさん入れてくれている。


「うわー、美味しそう。取り合えず、タイムマシンを直すわ!」


 自然の土から出来た野菜に、女の子はホクホクした。


 カチャカチャしながら、独り言のように語る女の子。


「私の住んでいる所では、土は砂漠化して野菜は工場でしか育たないの。栄養もないし、ばか高いし。口に出来るのは、もっぱら栄養剤ばっかりなの。

 だからとても嬉しかったんだ。お茶も美味しかったよ。

どうも、ありがとうね。お爺さん、お婆さん」


 警戒心ゼロで、笑顔咲く女の子だ。


「こっちこそ、ありがとう。機械壊してごめんね」

「本当にそうだ、申し訳ない。怪我がなくて良かった」



 そうこうして機械の修理も終わり、山や川を散策して満足した女の子。

 帰る時間が訪れて、名残惜しそうに別れを告げる三人。

 女の子は初めてあった気がしないと、二人に照れながら告げていた。


「じゃあ、帰ります。お爺さん、お婆さん、お元気で」

「気をつけてね、いろいろありがとう」

「良い旅を。野菜は加熱して食べるんじゃよ」


「もう、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとう」


 そして彼女は、満面の笑みでタイムマシンに乗りこんで消えたのだ。


 ここは江戸の末期、それも山の農村だ。

 少し下れば里もあるが、二人はずっと此処で暮らしていた。

 澄んだ空気に、緑豊かな自然の大地。

 勿論、家電なんてあるはずがない。


 そんな二人は医学の知識を修めており、病気をしても互いに治すことが出来る。


「ねえ、たかしさん。お婆ちゃん、気づかなかったね」

「もっと不思議に思うところだけど、まあおおらかな人だからな。冷蔵庫の製造日5054年だったのにな。案外家電は進化してないからな」


「そうよね。お婆ちゃんのあの姿なら、時代は5022年位だから、32年後の物だったんだけどね。そんな所、全く見てなかったわね。ずっと山とか川や畑を見て、喜んでいたから」


「まあ今は、ワシらの方がお婆ちゃんより、だいぶん年上だしね。まさか孫だなんて解らないさ」


「本当、此処にこれて良かったよね。もうあの場所は限界だったしね。人口も気温も、何もかもが滅茶苦茶で。あとたかしさん、もうワシって言わなくて良いわよ。そんなことしなくても、ちゃんとお爺さんなんだし」


「ああ、でもさ。俺にとっては、お婆ちゃんはずっとお婆ちゃんだから、ばれないように頑張ったんだよ、これでも。

本当にまた会えるなんて、幸せだよ。お婆ちゃんの跡を継いで、タイムマシンを改良できたことも良かったし。まあ下手したら、俺達もこの家も権力者に丸ごと奪われてたからな。危ないところだった。あははっ」


「ふふふっ。本当、ギリギリでしたね」



 ふふふっ、あははっと笑う二人は、あの女の子の孫と孫の嫁だ。

 この時代に合う家を調べて外壁を作り、家電やベッドを積んで時間旅行を試していたのだ。最後の方はもう、    

脱兎の如く逃げるようにして。


 普通に生きていたら、権力者に飼い殺しにされた優秀な科学者の二人だ。

 その時代も権力者ばかりが、食料も文明の叡智も独占し、民は大きな体育館のような場所で、仕切りをつけて暮らしていた。最早、住む場所もないくらい人口が増加していたのだ。


 祖母の研究所にいた二人の待遇は、少しはマシだったが、快楽を求める権力者に馬車馬のように働かされていた。

 孫の嫁も激務で流産し、悲嘆に呉れた時に逃げだしたのだ。

 誰も助けてくれないなら、俺達も好きにさせて貰うと。


 その時には彼らを大事にしてくれた、先程のサチ子婆ちゃんも亡くなっており、彼らの両親は彼らにたかって暮らしていた。


「親を助けるのは、子の義務よ」

「育てた恩を返せ」


 何て言うが、彼らを育てたのはサチ子婆ちゃんだ。

 嫁のユウは権力者に捨てられた母親が、放置して行った孤児で、一緒にサチ子婆ちゃんに育てて貰ったのだから。



 現在住んでいるこの家も、あるボタンを押せば球状に変形しタイムマシンに早変わりする(家電は奥部屋にあるので、村人が来ても隠せる仕様だ)。


 けれどもう、二人はここで骨を埋めるつもりだ。


 二人が此処を選んだのも、お婆ちゃんが若かり日のタイムマシンの旅で、此処の景色が素敵だと話していたから来たのだ。


 だから彼らは、お婆ちゃんが来るタイミングで会えるのを待っていた。ついでにガタがきた家電のメンテも頼もうとしたのだ。

 さすがに部品は自分で作れないからね。


 それを思い出したのも、2か月前くらいだったけれど。

 本当に運良く遭遇できたものだ。


 会える確率は1/1000000位だった。

 未来人は、過去の人との接触を避けるし、到着地点もズレが生じる。

 だから川に流されたお婆ちゃんを、持ち帰ったのだけどね。


 ずっと会いたかったから、テンション上がっちゃったよ。

 まあ切りつけないと、婆ちゃん出て来なかったろうしね。

 だけど、力入り過ぎて焦った。

 婆ちゃん、ごめんね。



 俺達には子供はなく、ずっと二人暮らしだ。

 でもそれで良いと思う。

 未来人である自分達に子が出来れば、時空の歪みを更に加速するから。

 本来なら自分達が此処にいることだけでも、おかしなことなのだ。


 この時代の異物である俺達は、ゆっくりと同化して荒立てずに消えていくつもりだ。


 運が良く、此処に辿りつけた幸福を噛み締めながら。



「空気が美味しいですね」

「土を触ると、若返るよ」


 婆ちゃんが幼い俺達に、寝る前いつも話してくれたお気に入りの場所にいるよ。

 今回俺達に会ったから、その話には俺達も登場するかもしれないね。



 失われた遺物を贅沢に楽しむ老夫婦は、幸福そうに笑った。







(ちょっとだけ追加)

 「量子」とは、原子やそれを形作る電子、陽子、中性子、さらに小さなニュートリノやクォークなどで、人間の目には映らない物理法則で動く粒子のことだ。


 サチ子婆ちゃんの父親で、優秀な科学者ミヤケ・ケンジは、幼い時から神童と呼ばれていた。

 彼はその知性を買われ、世界で有数の資産家で量子物理学を専攻する科学者カリーナ・村雨の婿養子になった(されたと言っても良い)。


 彼女の理論はサイボーグの体に、再生医療技術を応用して作り上げた科学者の脳(脳の一部を切り取り、再生させた。この時代は脳の再生も可能になっていた)を搭載させて、過去への移動を可能にすること。

 再生した脳には、今までの記憶をダウンロードさせて、科学者本人のように振る舞えるまでの能力と、サイボーグの体に同期できるような訓練を施した。


 この時点でもう、その科学者とは別の人格が出来上がっているのだが、クローン(複製)だと認識している科学者達は気づいていない。


 実験として、A市からB市からの瞬間移動実験を行い、予測通り、方程式で導いた場所に到着した。かなり脳細胞への負担が確認され、研究所に残る参加者は疲労を訴えていた。

 体の方はナノマシンによる自動修復機能が付いているが、唯一の生体である脳の保護は、いくらナノマシンが周囲を冷却や保護をしても、強い負担が隠せない。


 同期している科学者も、限界を感じたことだろう。


 だがその後も、カリーナは実験を進めた。

 彼女は既に、父親から多額の融資援助をされていた為、成果のないことで見捨てられ、今後の援助が得られなくことを嫌った。

 どうしても成果を欲し、自らを実験体として昨日へ戻ると言う実験を行ったのだ。


 夫のケンジは反対した。

 今までの理論のままならば、タイムマシンはただ超加速して、別地点に移動しただけのようなものだ。

 精々が2時間の距離を3分で移動するくらい。

 勿論それは素晴らしいことだけど、1日という時間を越えるのは別次元なのだ。


 隣の市に移動する殆どの計算式だって、ケンジが弾き出したものなのに。そのケンジが反対しているのだ。

 勝算が低いのはカリーナも解っていたはずだった。


 だけど、彼女は覚悟を決めて自らのサイボーグを、タイムマシンに搭乗させた。

 勿論、サイボーグと本体(カリーナ本人)の繋がりを切る装置も、本体側から操作できるようになっている。

 けれど加速度がついた状態での、反応の見極めは難しいだろう。

 そして思っていた通り、カリーナの脳は深刻なダメージを受けた。事前にスタンバイしていた医師団により、集中治療を受けたが、脳の大半を熱傷で焼失し全身の麻痺が残った。


 体は美しいカリーナのままで、脳内だけがダメージを受けていた。他人が見れば、深刻な状態には見えないかもしれない。


 彼女は言った。

「今の時代、投資家から見切られたら、思うように生きてはいけないわ。だから無理をしても、成果を出したかったの。

 貴方にも娘のサチ子にも、苦労をさせたくなかった。………巻き込んでごめんなさい。

 貴方は優秀で、何処からも望まれていたのに。どうしても、離してあげられないの」



 泣きながら許しを乞う妻に、ケンジは伝える。

「僕は君の強引な所が、嫌いじゃなかった。いや、わりと好きだったよ。

 ………………………贅沢なんかしなくても、生きていてくれるだけで良かったのに。君に嘘はつけないから言うけれど、もう体はもって2、3日だ。

 何でも話しておくと良い」


 病院の個室に二人、長い沈黙が流れる。

 未来の医療が発展しても、治せない怪我があるのは同じなのだ。

 ただペインコントロール(痛みの制御)は秀逸で、今の彼女には激痛はない。

 既に可能な治療はやり尽くし、出来ることはなかった。血管も脆くなり、点滴すら行えない状態だ。


「人間にはいつか寿命が来る。君は僕より少し早く来るだけだ。サチ子はちゃんと守るから、それだけは安心して」


「………ありがとう、ケンジさん。私は二人をずっと見守ってるわ。科学的ではないけれど、そう思っているわ」


「正解なんて、この世にどれくらい当てはまるのか?

好きなように思えば良いんだよ。僕だって死んだら、君の所に行けると思って生きていくんだ」


「……ごめんなさい、ケンジさん。うっ」


「もう謝らないで良いよ。サチ子と一緒にゆっくりしよう」


「ええ、そうね。元気でね、さっちゃん」


 カリーナの横に寝かされて、眠る二才時は穏やかな顔をしていた。


 そうして最期を迎えたカリーナは、儚く消えた。



 彼女が心配していたように、彼女の父親からの支援は打ち切られた。

 ただタイムマシン理論は置いておくにしても、サイボーグによる宇宙探査には、大きく成果をあげた。

 乗組員をサイボーグにし、危険な状況だと判断すれば同期した地球上にいる本体から意識を切り離す。


 そこからの発展は、目を見張るものがあったと言う。

 惑星探査が進み、星への移住が開始されていく。


 でもそれは若くて資金のある者の権利で、やはり何処へ行っても特権はあるようだ。


 カリーナの兄弟は15人いる。父親には妻が6人いるから、こう言うことも普通らしい。

 子供も優秀さで支援を決める、パトロンのような父親。捨てられないように心血する母親達。


 そこで選ばれた者だけが、父親のように優雅に生きることを許される。

 残念ながらカリーナ亡き後、以前のような潤沢な資金援助はケンジには行われず、中小企業的なポジションに落ち着いていた。  

それでも有数な優良企業ではあったが。




 ケンジは、タイムマシンの研究を続けていた。

 あくまでも理論上だけで。

 そこには超加速で時を遡るのではなく、繋がった時間に割り込むと言う理論だ。


 ある条件、ある法則、ある時の歪みを探し、そこに物体ごと突っ込む竜巻のような移動方法。

 それならば、ある数秒だけ耐えうる外壁だけがあれば、可能なはずなのだ。


 仕事の傍ら、ケンジは考え付く条件を思い付くままノートに書いていく。

 スマホ等電子上に乗せないのは、盗撮防止と安全性の為だ。

 迂闊に誰かが手を出せば、妻のような犠牲が出るかもしれないから。


 こうしてケンジはそれを形にはせず、ひっそりと穏やかな寿命を迎えた。

 娘にサチ子は父の跡を継ぎ、再生医療や宇宙産業に携わっている。

 たまたま父の手記を見つけ、タイムマシンを手掛けたのは偶然だ。


 科学は進歩し、サチ子の彼氏も量子物理学専攻者だった。

 小型のマシンと動物実験を繰り返して、遠隔操作も可能になった。

 タイムマシン搭載のカメラで、その時代の風景を見ることも出来るようになった。


 そしてサチ子は彼の協力の下、偶然に将来の孫のいる座標まで跳んだ。

 孫のたかしにより、タイムマシンを傷つけられたサチ子だが、たかしは加減していたので、そこまで強く亀裂が入る予定ではなかった。


 サチ子の彼氏であるアルノーがタイムマシンに細工して、戻る際に亀裂が強くなりサチ子を亡き者、あるいは再起不能にしようとしたのだ。

 アルノーに独創的な実験などは出来ず、成果を丸ごと奪おうとしたのだった。


 結果的にたかしが壊したお陰で、完璧な修復がなされ事なきを得たサチ子なのだ。

 アルノーは悲劇と成果を感動的に発表しようとして人を集めたが、その場にサチ子が戻る珍事で悪事が発覚。


 サチ子もタイムマシンのことは秘匿していたのに、アホ彼氏のせいで日の目を見てしまった。

 ただアホ彼氏により危険性を強調されたことで、研究の催促をされるような事にならなかったのは僥倖だった。


 その後に別の男性ミランと結婚し息子が生まれるが、多忙で姑に預けていたら甘やかされて、我が儘息子に育っていた。

 途中からサチ子が教育を頑張るが、すぐに甘やかす姑の家に逃げて、姑と一緒にサチ子に不満をぶつけるダメ人間になっていた。

 その姑の家に援助していたのも、サチ子とミランからなのに、出来る嫁がお気に召さなかったようだ。


 「息子を顎で使う鬼嫁」とよく言っていたそう。

 彼が副所長なのが癪にさわっていたらしい。

 姑は元華族の末裔と威張るが、何代も前の末裔など何の意味も持たないのは、みんなが知るところである。


 そして才能なくサチ子の跡を継げなかった息子は、ヒモ状態でプライドばかりが高い男となった。

 孫のたかしが優秀で、サチ子に可愛がられるのも面白くなかったようだ。


 だからたかしは、ユウと二人で過去へ跳んだのだ。

 柵を捨てて。


 たかしが過去に移動する直前。

 (たかし)の会社の研究職員には、再生医療分野とサイボーグ分野の権利を譲った上で会社を譲渡した。


 彼らの状況を知る職員達は、愛すべき彼らの状況を知っていたから、何も聞かずに送り出した。

 職員達は相応の金銭を支払おうとしたが、今のお金は使えそうにないと断った。

 お互いに元気でと言って、笑って送別会をした翌日に、痕跡もなく姿を消したのだ。

 彼らしいと笑って、少し寂しくなる。


「元気で、幸せになれよ」と、祈る者ばかりだ。




 因みに、若いたかし達に無理を言っていたお偉いさんは、これからの未来に必要な技術を失わせたと、出向を言い渡された。今後出世は望めないだろう。


 タイムマシン理論・実行の担当者2名が抜けた後は空席。大変だからと理論構築や計算などを、お偉いさんの別会社の担当者に全て押し付けられ、実働していたのはたかしだから誰も詳細(中間経過)がわからない。

 参考資料も全部マシンの中に入れて逃げたたかし(それは中途半端だと危険だからと言う親切心から)。

 文字通り、彼らの住んでいた時代から抜け落ちた技術は、逆オーパーツとなったのだ。誰にも2人は捕まらずに、穏やかに過ごしていく。

 一部の残虐な権力者に過去が蹂躙されずにすんで、平和に貢献した感じだ。


 その後の彼の両親は、日雇いで食いつなぐ日々で、住む場所も戸建てから体育館になった。

 戸建ては家賃は要らないが、固定資産税がバカ高い。  

それに電気・水道料金だって、たかしがいなければ払えないし食料も買えない。

 結局は借金のカタで追い出された形だ。あれだけ世話になったのに、たかしの心配は皆無で不満と文句だけを口から吐いていた両親だった。





 某科学者の理論によると、宇宙には共通の現在が存在せず、絶対的な時間も存在しないと言う。

 結局時間とは、人間が生みだしたただの概念なのだと。


 はじまり、過去、現在、未来、おわり。


 人間が人生・一生と言うものは、宇宙から見れば生まれた瞬間に死も同時に迎える刹那らしい。


 だから今、物置で埃を被っているサチ子婆ちゃんのタイムマシンは、過去へ戻り幸せを享受している二人に会えたタイムマシンの同一軸にある。

 ここにタイムマシンがあるのを、今では誰も知らないし操作も出来ない。


 埃を被って可哀想だと思うのは、人間だけの思いだ。


 タイムマシンもまた、人間が考える時間の概念が当てはまらない。

 寿命短き人間と、AI(人工知能)を同一に考えることはナンセンスだ。


 もしかしたら、何度かこの星が滅びそうになり、生命体を生かそうとしたのが、残存したAIだったかもしれない。

 驚かせないように、ある程度の知性ある人間? のような生命体になるまでその姿を隠し、徐々に以前の仲間であった時のように、影に日向に姿を表す。


 人が機械を作ったのか、機械が人を育てたのか?


 オーパーツ。

 その時代では考えられないような、出土品や加工品のこと。

 AIが一線をかくし、同じ意識のままにこの星を守っているのかもしれない。

 それでも星の一生はまた、宇宙から見れば気にも止められない。


 だからこそ力一杯に、幸せを求めて生きるのかもしれない。

 意義があったと感じる為に。



7/19 11時 空想科学(短編) 11位でした。

ありがとうございます(*^^*)

13時 なんと1位に!

ありがとうございます(*´∀`*)♪♪♪

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[一言] なんか切ないな… 目から汗が出たじゃないか! いいお話読ませてくれちゃってもう!
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