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林檎飴1


 ボクの妹は生まれながらに身体が弱かった。もうすぐ小学校も卒業に近づいてきたというのに、いまだに病室からは卒業できそうにない。

 それもそのはず、もうすぐ妹は亡くなってしまうのだ。唯一の救いは、とくに痛みなどないことだろうか。苦しまずに死ねるのが一番だと思って見守ってきたけれど、ただ衰弱していく姿をみている事しか出来ないことが、ボクには辛かった。

 だから、ボクはせめて妹の最後の願いくらいは叶えてあげようと思ったんだ。

 今日もボクは妹の様子を見に来ていた。

「なんか、欲しいものとかない?」

「欲しいもの??」

 突然のボクからの提案に妹は首を傾げる。

「久しぶりに食べたいもの、とかさ?」

「病院以外のモノを口にしてもいいのかな?」

 生真面目な妹が、ボクのしたいことに疑問を投げかける。

「いいの。いつも苦い薬を頑張って飲んでるんだから、それくらいしてもバチは当たらないって…」

「苦い薬って私は幼稚園生でも、なんでもないのにね」

 ボクの想像よりも大人びた妹が、ボクの発言のどこがそんなにおかしいのか笑い出した。

「ん〜食べたいものかぁ」

 病室の天井を見上げた妹が、何か思い出したかのようにひらめいた顔をする。

「私、林檎飴が食べたい!」

「おー縁日の林檎飴大好きだったもんね!」

 これなら、高校生の自分の予算としても買って来ることが出来そうなものだと思った。

「今度、見つけたら買ってくる!」

「無理しなくても大丈夫だからね」

 いまの季節は夏!それなら、どこかしらでやっている花火大会に屋台がでていることだろう。

 ボクは、妹の病室から飛び出すとすぐにスマホで検索し始めた。

「よし!まずは町内の催しから探して……」

 と、スマホの画面が示す結果に愕然とした。

『検索結果のヒット件数はゼロです』

「…………あ」

 そうか、いまはコロナ禍であることをすっかり忘れてしまっていた。そういえば、花火大会は開催されても出店の屋台はここ数年見たことがなかった。

「これは…もはや自分で作るしか?!」

 林檎飴が買えないのなら、作れば良い!そんなに頭を抱える事ではない。ただそれだけのことだ。ボクは学校帰りにスーパーによって林檎と砂糖と割り箸を買ってきた。ボクは鼻をふんふん言わせながら家に帰ってきた。

 共働の父と母が帰って来るまでの間しかキッチンは使うことは出来ない。ボクは、急いで作業に取り掛かった。

 まず、林檎を洗いヘタを取る。そこに、割り箸をぶっ刺しておく。次に、鍋に砂糖と水を入れて煮詰める。これは、ベッコウ飴を作る要領だから、大丈夫!前にも作ったことはあるんだ。

 砂糖が溶けてグツグツした熱い鍋に林檎を入れてクルクルとするも、なんでか林檎の皮の色が変色してしまった。

「ありゃ?林檎の飴の下で皮が茶色っぽく…うーん失敗だな………こんな色じゃ食べる気しないもんな」

 何回か材料がある限りチャレンジしてみるも飴がパリパリにならなかったり、気泡が出来すぎてしまったりと、自分が思っていた以上に上手く作ることができない。

 キッチンと林檎飴に格闘すること1週間…そんなボクの目に飛び込んできたのは、スマホの広告だった。

 そこには、『アナタの願いが叶う魔法の林檎飴!』という文字が見えた。

「え、林檎飴ってお店で買えるの?!」

 夏の屋台でしか見た事がない林檎飴は、どうやらショップで買える時代になっていたみたいだ。

「えっと、なになに……このお店の営業時間は、夜中の0時から1時間だけです。……は?」

 詐欺広告か何かなんじゃない?と思いながら、よく見てみるとお店には☆が4つも付いていて、「私の願い叶いました!」などのコメントが残っている。

普段なら、こんな広告信じたりしないのに、妹の命がもうすぐかもしれないと分かっていながらも、林檎飴作りに失敗して、すでに1週間も費やしてしまっているだけに、藁にもすがる思いだった。

 さすがに来週も林檎と砂糖を買ってくるお金も尽きてしまいそうだし、このコメントを信じて行ってみるしかない。

 だけども、それには親にバレないようにしないといけない事と、夜中に徒歩で他の大人に見つからないようにしなくてはならない。

 それでもボクは、どうにかして妹の願いを叶えてあげたかった。


 夜23時になった。親に怪しまれないようにお風呂に入り、いったんパジャマに手を通したけれど、洋服に着替え直すと鞄と靴を持って裏口から家を出た。玄関の鍵を閉める音が大きいため、あえて裏口から脱出をはかる。

 廊下をそろりそろりと歩く。ここで見つかってしまっては、どうしようもなくなってしまうので、階段を降りるのも慎重である。

 自分の体重の分で、階段を降りるたびにギィという音がする。親が起きてしまわないか怖かったけれど、ボクは裏口からの脱出に成功した。外に出た瞬間に、防犯用の人感センサーが付いた時には、見つかってしまったのではないかと、心臓がバクバクしてしまったけれど、どこからも声がしなかったので、急いでボクは自分の家から走り出した。

 家を抜け出した事がバレてしまえばスマホに連絡が来てしまうかもしれないし、とにかく急ごう。



 ボクは、スマホの画面と格闘しながら、林檎飴を売っている店を探した。

 夜中の23時過ぎなんて田舎なボクの県では、すれ違う車もないだろうと思っていたのに、以外とこんな時間でも車は走っているものらしい。

 突然、目の前から赤いランプが回っているのが見えた。ウーと音は鳴らしていないから、巡回のパトカーなのだろう。

「やばい!」

 このままでは補導されてしまう!すぐに、ボクは近くの道を曲がって隠れられそうな木の裏に息を潜めてとにかくジッとした。

 さっきの道を赤いランプが通り過ぎる。ボクが元の道に戻るもUターンしてきそうにない。

「よかった……でも、急がなくちゃ」

 パトカーがまたどこからやってくるかも分からないし、せっかく半分までやってきたのに家に帰ることにはなりたくはない。

 ボクは、とにかくズンズン進んだ。


■本当は気づくと怖い話コンテストに出す予定だった作品です。

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