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最終石「Let Me Hear」

 一年後。


 高い青空の下、少しばかりの草木や朽ちた宝石蟲の残骸が点在する広大な砂漠。

 そんな大地を砂埃と共に横切る影があった。それは大型の二輪車のようであったが前方に突き出した巨大な銃口は宝玉機用のライフルを改造したものであり、タイヤと座席とジュエルエンジンを強引に取り付けたような異形のシルエットを持つ、サイドカーつきバイクであった。

 バイクは、一つの街の前で停車する。

 街の名前はベンジャータウン。そのバイクに乗る者達にとっては、二度目の来訪地となる場所だ。

 赤いパーカーの上から桃色の羽織を身に着けたライダーの少女がヘルメットを取り、赤が混ざったような青色のポニーテールを風に揺らしながら、


「……よし。今度は地図間違ってなかったね」

「よかったぁ……宿無し回避……」


 サイドカーに乗っていた青いジャケットの少年は、心底安心した様子でヘルメットを脱ぎ、その下の緑色の髪を手櫛で雑に整える。


「サファ。久しぶりだね、ベンジャータウンに来るの」

「そうだね。でも久しぶりって気はあんまりしなくない? ラルド」

「この街には思い出が詰まってるからね。こう、色々と」


 ラルドと呼ばれた少年は、感慨深そうに街を見る。

 サファと呼ばれた少女も同じく感慨深げな様子であったが、なにかを思い出したのか、みるみる赤くなる顔を恥ずかしそうに伏せて『ソウダネ』とカタコトで返した。


「……ん? あれ、これって」


 ラルドが、地に響く足音に気付く。当然人のものではない。宝玉機のものだ。

 見ると。街の奥から、宝玉機が1機、入口に向かって歩いてきている。

 ようするに、自分たちの方向に向かってきている。


「え、え、え、なに、なに、なに?」

「ラルド、下がってて!」


 サファは腰にぶら下げた刀に手を掛ける。

 宝玉機は、サファ達の目前まで歩み寄る。見ると、その宝玉機は両腕に大型の鋏のような武装を付けている。というか、両腕そのものが大型の鋏のようだ。

 そして、その首には、赤いマフラーが巻かれていた。


『ハッハァーッ! 待ってたぜ、サファ・ツキノ!!』

「!? 何者!」


 異形の宝玉機――アサルトニアークのコクピットが開き、その中から、ややボロいジャケットを着た灰髪の青年が現れた。


「俺はニアゼム! ニアゼム・クズミキコニスだ! いつかお前と会えると思ってたぜ……!」

「……なんの用ですか。わたし達はただの旅人です、この街でなにかするつもりは――」

「俺と勝負しろ、サファ・ツキノ!」

「え?」

「特に崇高な理由みたいなもんはねェんだがよォ~~、単純に戦ったらどっちが強いか試してみてェとずっと思ってた! あぁいや、こんなんじゃ困るよな? だからもっと簡単に理由を用意してやるぜ」


 ニアゼムは腕を組みながら仁王立ちし、


「ここを通りたきゃ、この俺のアサルトニアークを倒していきなァッ!」

「……あー、そういう感じ……」


 納得すると、サファは大人しく刀から手を離した。

 そして。困った様子で人差し指同士をむにむにと突き合わせながら、どう答えるか思案する。


「どうした! さァ出せよ、アンタの宝玉機を!」

「……あの、ごめんなさい。今のわたしは宝玉機を持ってなくて」

「あん!? 待てよ、アンタのロードカイザーはどうしたんだ!?」

「えっと、……月に」

「月にィ!?」

「はい。なので相手することは、ちょっと」

「マジィイ~~~~……ッ?」

「あ、この二輪種子島でレースとかしてみます……?」

「そんなんじゃダメッスよォ……おおおお……」


 この世の終わりのような表情を浮かべながら愕然とするニアゼム。

 そんなニアゼムの後ろからひょっこりと、()()()()()()()()()()()()()()()が現れた。


「ベンジャータウンにいらっしゃーい、サファ・ツキノとそのお友達。ニアゼムのことは気にしないでね、勝手に期待して勝手に自爆しただけだから」

「――!?」

「サファ、あの子……!」


 紺色のセーラー服、ニアゼムとお揃いのジャケット。白髪に、青メッシュ入りのもみあげ三つ編みが特徴的な、ごく穏やかな表情を浮かべた――サファと瓜二つの顔を持つ少女。

 状況をいまいち飲み込めないが、とにかく得体が知れない。サファは再び刀に手を掛け、警戒を強めた。


「私はメレディヤ。よろしくね」

「あなた……もしかしてサファーズ!? なにが目的なの……!」

「ねぇ、お腹とか空いてない?」

「質問に答えて!」

「うちでご馳走するよ」


 その言葉を聞くと同時に、ラルドの腹の虫が鳴った。


「……ラルドってば……」

「ちなみに、今日の献立は。お昼はスイカで、夜はカレーの予定です」

「お邪魔してもいいですか」


 さすがのサファも、その献立(ラインナップ)を並べられたら勝てなかった。



 ◇



 ビッグゴッド店内のフリースペース。

 大きめのテーブルの上に置かれた切り分けられたスイカの山を、4人が囲んでいた。

 ――咀嚼。瑞々しい果実特有の心地の良い快音が鳴る。


「~~~~っっ、渇いた喉に染みるなぁっ、スイカ!」

「すいませんおれ塩いいですか塩、あっ、ありがとうございます!」


 スイカを口にし、言葉にならない歓喜の声を発したのはサファだった。

 長旅の疲れを癒すように、サファとラルドはスイカを貪り食いまくっていた。ラルドに至っては塩まで要求する始末だ。


「ぷぷぷぷぷぷ」

「テメッ、やめろ! 種を連射してくんじゃねェ! 誰が掃除すると思ってやがる!」

「ニアゼムだけど?」

「悪質極まるなお前ェーッ! ったくよォ……」


 メレディヤは口の先をすぼめて、ニアゼムにスイカの種を飛ばしてきている。

 ニアゼムはいろいろな意味で納得の行かないこの状況に立腹しながら、それでもスイカを頬張る。


「――ってことでまぁ、ざっくり話したがわかってもらえたか?」

「ふぁい、しょれはなんとか」

「スイカ飲み込んでから喋ろうな?」


 げっ歯類のようにスイカを頬張りながら答えるサファに、やんわりと指摘する。


「ハイ・サファーズ……わたし達がジプサムと戦ってた裏で、そんなことが」

「当たり前だけど、全然気付いてなかったね、おれ達……」

「気付きようがねェさ、むしろ本域の仕事に集中してくれてたみてェでなによりだ。アンタらが皇帝を討ってくれたから、後方部隊の被害が最小限で済んだんだろうしな。……感謝してるぜ」


 ニアゼムは、ごく穏やかな感謝の言葉を述べ、神妙に頭を下げる。先ほどまで妙なテンションで捲し立てていた男と同一人物とは思えない。

 サファとラルドは、慌てて彼に頭を上げるよう促す。


「……それで。掻い摘んで言うと、メレディヤさんは元ハイ・サファーズと」

「ん。まぁ、そんな感じ。ほんとはもっと色々あるけどね」

「なんだかルヴィさんみたいだね、サファ」

「うん。……もしかしたら。他のサファーズも、対話することができたのかな」


 サファは、1年前の戦いに想いを馳せていた。

 あの時は、ひたすらに自分のやるべきことに全力を費やした。そこに後悔は無い。

 けれど、ひょっとしたら取り零していたものがあったのかもしれないと、そんな小さな可能性が頭に浮かんで、……表情が強張ってしまう。


「もう過ぎた話だ。その優しさは、現在(いま)未来(さき)のために使おう」

「過去を想うのはいい。だがよ、そいつに縛られるのは勿体ねェぜ!」

「そうですね。……そうかも」


 サファの表情から緊張が消え、柔らかさが戻ってくる。ラルドは、そんな彼女の様子に安堵していた。


「……ところでニアゼムさん。どうしてわたし達がベンジャータウンに来ることが? 事前にわかってなきゃ、あんな門番みたいな真似は」

「ああ、それな? メレディヤが察知してくれたんだよ、"もうすぐサファ・ツキノが来る"ってよ」

「え、予知能力?」

「予知能力"のようなもの"かな。私はね、力の流れが視えるんだ。で、この固有波形は皇女様のものかなーって言ったら、ニアゼムがすっ飛んで行っちゃって」

「ああ、じゃあ本当に待ってたわけじゃなかったんだ」

「いや。なんとなく、いつかアンタに会えるような気はしてたんだ。これは真実(マジ)だぜ?」

「え、予知能力?」

「ニアゼムのはただの勘だと思う」

「しっかし、残念だぜ! 俺さ、アンタに一目惚れしちまって――」

「一目惚れ!?」


 その言葉に思わずラルドが反応し、勢いよく立ち上がってしまう。


「あ、あの、サファはですね! なんとなくこう、わかってもらえると思うんですが、お、おれと……!」

「ら、ラルド……!」

「あ、いや、悪ィ。俺が悪かった。言葉足りなかったわ。"戦士として"惚れちまったんだ」

「戦士として……?」

「単騎での宝石蟲殲滅、タケノハシランサーの特攻(ブッコミ)! あんなことする女傑がどんだけ凄ェのか、肌で感じてみたかったわけよ!」

「……あ、あー、そーいう……」


 目を輝かせながら語るニアゼムを見て、盛大な勘違いを起こしたラルドは気まずそうに着席する。

 サファは両手で顔を覆い隠しながら、指の隙間からラルドを恨めしそうに見つめていた。「後で殴る」と言わんばかりに。


「だから手合わせ願いたかったんだが、まさか宝玉機無しとはなァ……」

「地球を冒険して回る、だっけ。素敵だね、大変そうだけど」

「実際、宝玉機無しでの旅ってどうなんだ? 危なくね? あのバイク、戦闘能力は無いこともなさそうだが、荒事にはちょいと向かなくねェーか」

「まぁ、ここまではなんとか切り抜けてきましたけど」

「サファの剣術に助けられた場面、何度もあったよね」

「はァーん……まぁ、自分達の旅だ。好きにしな。でもやっぱ、俺は宝玉機に乗ったアンタと戦ってみてェよ」

「そうは言っても、乗る宝玉機が――」

「困っているようだな諸君!!!」


 事務所の扉が壊れるほどの勢いで開け放たれ、中から髭を生やした眼帯の中年男性――ウォーラ・オオロラが出てきた。


「おやっさん!」

「ふァははははははは! 話は聞かせてもらったぞ。そこの小娘――もとい皇女! 貴様、宝玉機を持っていないそうだな?」

「まぁ、はい」

「くっくっく、安心するがいい。現在我がビッグゴッドは、宝玉機乗りカムバックキャンペーンを実施している。今ならば、吾輩謹製の宝玉機を一機用意してやろう!」

「そんなん俺初めて聞いたんスけど」

「粋だね、ウォーラ博士」

「でもそんな、わたし達、宝玉機を買えるほどのお金は……」

「タダで構わん! キャンペーンだと言っただろう、このウォーラ・オオロラ、皇女だろうが一般人だろうが分け隔てなくサポートするぞ!」

「タダ!?」


 サファは現金な反応をする系の皇女だった。

 というより。ラルドと二人で冒険を続ける中で、どうしても金銭のやりくりに頭を悩ませなければならない場面が何度もあったからか、その手の俗っぽい単語に反応しやすくなっているのだ。


「でも、サファが宝玉機を貰ったらニアゼムさんは戦いを挑むんですよね?」

「あたぼうよ!」

「幾らタダでも、命のやり取りに使われるなら、おれは賛成できません。サファを危険に晒すのは……」


 ラルドの毅然とした態度に、現金な反応を取ってしまった自分を恥じるサファ。

 ごく自然で当然と言えるラルドの反応だが――それに、ニアゼムは思わず吹き出してしまう。


「な、なにがおかしいんですか!」

「悪ィ悪ィ、説明してなかったな。()()()()()()()()()()()()。なにせ、今のこの街(ベンジャータウン)じゃ、宝玉機同士の戦いは立派な"競技"になってるからな――!」



 ◇



 ビッグゴッドの裏手には、宝玉機専用の模擬戦場が存在していた。

 用途は宝玉機の動作テストや、それこそ模擬戦を行うための場所だが――現在ではもう一つの用途があった。

 それは、宝玉機を戦わせて勝敗を競う決闘競技――《ジュエリング》である!


「まさか、この街でそんな競技が流行ってるなんて……」

「だんだん周囲の街でも認知され始めてるんだよ。戦争が終わって、宝石蟲も絶滅して、宙に浮きつつあった宝玉機の需要を満たすためにうってつけだってね。興行的はんだん」


 ラルドとメレディヤは、観客席代わりに置かれたベンチに腰掛けている。

 メレディヤはのんびり構えながら、懐に抱えたボックスに入ったポップコーンを食べている。対するラルドは、先ほどからそわそわと落ち着かない様子だ。

 それを見兼ねたメレディヤが、彼の口にポップコーンを押し込む。


「むぐ!?」

「落ち着こうラルド。二人なら心配はいらないよ」


 サファとニアゼムは、模擬戦場――もとい、《ジュエリングフィールド》の左右に立っている。共に真剣な眼差しだ。

 それぞれの背後には、愛機となる宝玉機が、主の搭乗を待ち望むかのように佇んでいた。


「だってこの戦い、どうせニアゼムが勝つんだから」

「……! さ、サファは負けませんよ!」

「ふふん、それでよし。自分が信じる人だけを見てればいいんだよ」


 ……すると。どこからか、ころころと球形の機械が転がってくる。

 球形の機械は、フィールドの境目となる場所まで移動すると、突如として底面から四つ脚を生やして地面を踏みしめた。

 続けて、球体の装甲が左右に展開していく。その中には――ビデオカメラのような頭部を持つ人型ロボットが内蔵されていた。


「ロボット……?」

「うん、あれはレフェリーロボット。前にニアゼムと遠出した時に見かけた残骸の山から拾ったジャンクで作ったんだ。名前は、メモリーに残されてた奴から取って……」

「――んあぁッ、どうもこんにちはッ! 今回のジュエリング、レフェリーは私、ビスマン01(ゼロワン)が務めさせて頂きますッ! どうぞよろしくッ!」


 はきはきとした口調と、てきぱきとした動作で挨拶するビスマン01。


「選手はそれぞれの宝玉機に搭乗し、エントリーして下さい!」


 両者、同時に搭乗。戦闘システムを起動し、システム画面に表示された"ENTRY"の文字を指でタップする。

 ビスマン01に信号が飛ぶ。大仰な仕草をしながら腕で"○"を作ってみせる。エントリーが正式に受理された証のようだ。


「――OKッ! エントリー承認! セーフティシールド、セットアップ!」


 ジュエリングフィールドの四隅に設置された機械から、ジュエルギーで出来た力場が形成される。

 周囲に影響が及ぶ規模の攻撃や衝撃が発生した場合、この力場が無害化(シャットダウン)する仕組みとなっている。安全を確保するための措置だ。


「これより、ニアゼム・クズミキコニスVSサファ・ツキノによるジュエリングを行います! 勝利条件は、相手の機体を戦闘不能に陥らせるか、戦闘システムをフリーズさせること! なお、故意にパイロットへ危害を及ぼすような行動を取った選手は即敗北となります! よろしいですね!?」

『はい!』

『決まってんだろ!』


 両者による合意。

 戦いが始まる。もう、引き返すことはできない。


「ニアゼム・クズミキコニス、搭乗宝玉機は『アサルトニアークEXES(エグゼス)』! ベンジャータウンで知らぬ者はいない狂気のシザーハンダー! この機体の猛攻に耐えきれるかァッ!?」


 アサルトニアークEXES。ザ・ムーン攻防戦の後、設計の見直し及び強化改造を施されたニアゼム専用機。

 更なる装甲強化が施されている上、ハイパーハサミシザースを両腕に装備し、ジュエルエンジンを4基搭載した、規格外の出力を持つ超攻撃特化機体だ。


「サファ・ツキノ、搭乗宝玉機は――『ロードフェンサー』!」


 ――ロードフェンサー。ウォーラがサファ専用に誂えた、疑似ナイト型宝玉機。ロードナイトとロードカイザーの面影を宿した形状と機体色だが、2機に比べるとそのシルエットはより鋭角的で細身。洗練されている、とも表現できるかもしれない。

 伝統装備であるカタナセイバーを2本肩にマウントする他、腕部と脚部にブレードユニットを装備した、全身凶器とも言える近接特化機。

 腰部にはシリンダー式跳躍ユニットのストライクジャンパーが装備され、三次元的な高機動を可能とする上に、圧縮空気で撃ち込むステークまで内蔵している。


「新進気鋭の剣士! スピードで翻弄する近接戦闘が得意と思われます! 果たして、アサルトニアークの重装甲にその刃が立つのか!? パイロットであるサファ・ツキノの腕前にもご注目ッ!」


 ……単純なスペックだけで見るならば。先ほど組み立てたばかりのロードフェンサーが、アサルトニアークEXESに勝てる道理はない。

 しかし。


『負けませんよ』


 サファは不敵に笑う。自分は決して負けないと。


『俺が……勝つ!』


 ニアゼムもまた笑う。自分が必ず勝つと。


スタート・ユ(火を点けろ、)ア・エンジン(己の心全てに)! レディ――ファイト!!」


 ビスマン01に内臓されたスピーカーから、戦闘開始を告げるゴングが鳴らされる。

 2体の宝玉機が激突する。そして――







「――勝者(ウィナー)ッ! サファ・ツキノ!!」


 勝敗は、あっさりと着いた。


『ぐぁああああああ!! 負けたァアアアア!!』


 両腕を斬り落とされ、地を背に倒れるアサルトニアーク。

 残念ながら、アサルトニアークにはハイパーハサミシザース以外の武装が一切無いのだ。


『勝っちゃっ、た?』


 二刀のカタナセイバーを構え残心するロードフェンサー。

 ロードフェンサーには傷一つ付いていない。完全試合(パーフェクトゲーム)だ。



 ◇



 試合後。一同は、ベンチに集まって雑談に花を咲かせていた。ちなみにビスマン01は再び球体形態(スフィアフォーム)となってどこかへ転がり去っていった。


「やったね、サファ! かっこよかったよ!」

「ありがと、ラルド!」

「惜しかったね、ニアゼム」

「……全然惜しくねぇよォ……完敗だぜこりゃア……」

「……はいどうぞ、ポップコーン」


 ニアゼムは、メレディヤのポップコーンを摘まみながら、うんうんと納得いかなそうに頭を悩ませている。


「いやァ~~ちょっと待てよ、ロードフェンサー強くね!? おやっさん、アレ本当にただの宝玉機か!?」

「ふァはははは! そうとも、吾輩が手掛けた宝玉機はみな強いのだ!」


 ウォーラは上機嫌そうにジョッキのビールを呷っている。


「だが、ロードフェンサーの強さを引き出した要因は、ひとえに皇女の技量によるものだろうな。スピード重視の宝玉機など、なんとも吾輩らしからぬ下らん代物を生み出してしまったと思ったが……勝てるのならば、それこそが正義(パワー)だ!」

「あはは、なんか、そうっぽい?」


 サファは困った素振りを見せながら、照れ臭そうに笑う。

 ロードナイトでも、ロードカイザーでもない。まして、人機一体したわけでもない。

 だがサファは、操縦の手応えからロードフェンサーに2機の魂を感じていた。

 "サファ・ツキノが乗るべき宝玉機"としてウォーラが組み上げた事の証左だろう。


「最初、凄い勢いで突撃された時は驚いたけど、跳躍ユニットに助けられました」

「やっぱ三次元的に動く奴を捉えるのは苦手だからよォ、でもその後のインファイトはワンチャンあったろ? 鋏で圧力掛けたのは!」

「でも、押し切られる前にステークで牽制できたので――」

「あーあそこの一刺しはマジ――」


 感想戦は尽きない。お互いにどこでどうするべきだったか、ここがこうだったらどうだったか。戦術について語る議論はヒートアップする一方だ。

 その様子を眺めるラルドとメレディヤは、互いにこう思う。「楽しそうでよかった」と。

 ウォーラの上機嫌な高笑いはBGM代わりだ。酒のせいか、若干声が裏返り始めているが。


「クッソがよォ~~、ちょっと待ってろ! 腕直して、調整入れて! そしたらもっかい勝負だ!」

「あ、いいですよ。気の済むまでお相手します」

「……サファ、もしかしてハマった?」

「うん、結構楽しいかも。ラルドもやる?」

「おれは――」

「貴様もやるのか小僧!?」

「すいませんちょっと考えさせて下さい!」


 一瞬、ウォーラの迫真の表情に呑まれかけるが、ラルドはなんとか自分を保つ。

「それなら」と言いながら、彼の肩に手を掛けたのはニアゼムだ。


「手伝ってくれ。ロードカイザーの副パイロットの意見、聞きたいねェ」

「え、おれですか!? そんな大したことは言えないけど……いいかな、サファ?」

「いいよ。その間、わたしはメレディヤさんと話してるから」

「もぐ?」


 ポップコーンで頬を膨らませたメレディヤは、サファと顔を見合わせる。

 その様子は――同じ顔だからというのもあるが――先ほどスイカで頬を膨らませていたサファとそっくりだ。

 その微笑ましさ、おかしさに、思わず笑いが漏れてしまうサファ。


「さぁ行くぞ小童ども! 吾輩の宝玉機美学をじっくり聞かせてやる!」

「おいラルド、このクソジジイの戯言は基本無視していいからな」

「あ、そういう感じなんですね……!?」


 ウォーラにがっしりと肩を掴まれ、半ば引きずるように連れられて行くラルドとニアゼム。

 その様子を見送る女性陣。メレディヤはダボ付いた長袖を両手でひらひら振りながら。サファは片手を慎ましく振りながら。


「うーん。こういうとこで、育ちが如実に出ちゃうね」

「そう?」

「お嬢様オーラあるもん、サファ・ツキノは」

「サファでいいよ、メレディヤさん。フルネームは照れ臭いから」

「じゃあ、サファお姉ちゃんで」

「サファお姉ちゃん!?」


 あまりに呼ばれ慣れない呼称に、思わず反応してしまう。

 確かに、生まれた順番を考えると、サファーズは末っ子ということになる。不自然ではない。ではないが。

 ……それこそ、照れ臭いのだ。


「ダメ?」

「……ギリ、アリということで!」

「やった!」

「うーん姉に続いて妹ができてしまった……」


 やや複雑な心境を覚えるサファだが、そもそも(ルヴィ)や自身の出自も複雑なのだからまぁいいかと切り替えることにした。銀河だの蓬莱の血だの、そんなスケールの大きすぎる話に比べればなんてことはない。


「サファお姉ちゃんも、私のこと呼び捨てでいいよ」

「じゃあ、よろしくね。メレディヤ」

「こっちこそ、よろしく」


 ――これでいいよね、カイア。


「……? なにか言った?」

「ううん、なんでも」

「……そっか」


 サファは暫し、考え込む仕草を取る。


「どうしたの? サファお姉ちゃん」

「……あのさ、メレディヤ」

「うん」

「お、お姉ちゃんとして知りたいんだけど」

「うん、うん」

「ニアゼムさんとは、付き合ってるの?」


 ポップコーンの入ったボックスが爆発(ポップ)した。



 ◇



 ビッグゴッドのガレージ内。

 作業用アームに勢いよく頭をぶつけた男がいた。ニアゼムだ。


「だ、大丈夫ですかニアゼムさん!?」

「~~っ……べ、別に大したことはねェがよォ~~、なんつーか、アレだ……理外の一撃っつーか……まさか、お前にそれ訊かれるとは思わなかったもんで……」


 ニアゼムが頭をぶつけるほど動揺する原因となったのは、ラルドだ。


「すいません……でも、メレディヤさんとニアゼムさん、凄く仲良さそうじゃないですか。おれ、付き合ってるのかなと思って……」

「なんッッで付き合ってるかどーかの話になンだよ! "妹みたいですね"ってのも択にあるだろうがよ!?」

「え。妹さんなんですか?」

「違う。あの小娘は、ある日突然、吾輩を訪ねてきたよくわからん奴だ。働き者だから置いてやってる。妙にニアゼムに詳しいのは気になるがね」


 アサルトニアークの両腕の接合作業をしながら、ウォーラが答える。


「……で。吾輩の孫はいつごろ見れそうだ? ニアゼム」

「黙ってろ耄碌ジジイ!!!」


 必死。あまりにも必死。そんなこと、考えたこともなかった。

 もちろん、ニアゼムはメレディヤのことが好きだ。だが、それは親愛の情から来る「好き」だった。

 友達、あるいは親友、あるいは相棒。一緒にいて、なんとなく心地よい存在。寄生されていた頃からそのポジションは変わらない。

 その時。突如、ニアゼムの脳内に溢れ出す()()()()()()()記憶――


 ――ニアゼムー、お風呂空いたよ。

 ――おう、後で入……オワァアお前裸でぺたぺた歩いてンじゃねェ!

 ――あ、ごめん。風呂上りはタオル巻くのがマナーだったね。

 ――……お前アレな。結構、……あんのな。

 ――成長期だよ。せいちょーき。


「がぁあああ! ハレンチな光景を再演(リピって)んじゃあねェエ!」


 一瞬だけ。メレディヤを異性として見てしまった記憶に苦しみ悶える。

 傍から見れば、おかしな発作を起こした危険人物のそれだ。

 ラルドは妙な負い目を感じていた。まさかこんなんなるとは、と。


「わ、わかりました、わかりましたから! おれ、ただ二人の話を訊きたいと思っただけですから!」

「さっき話しただろ! 俺は元宝石蟲狩りで、アイツは元サファーズで、色々あって……」

「その"色々"が知りたいのだろう、その小僧は」


 再び話に割り込むウォーラだが、今度は茶化した様子ではなかった。


「おやっさん」

「別に構わんだろう。客人に、土産になりそうな話の一つでもしてやれ。話したところで、何かが変わるわけでもあるまい」

「……わかったよ」

「ふん。作業は吾輩一人でやる。終わったら声を掛けろ」

「ありがとうございます!」


 背を向けたまま作業に没頭するウォーラに、ラルドは頭を深く下げ、感謝の意を示す。


「……うし。そしたらここ座れ、ラルド」


 やっと冷静さを取り戻したニアゼムは、ごちゃごちゃと工具が乗った作業机にパイプ椅子を二つ用意し、うち一つにドカッと座る。ラルドも一礼してからスッと座った。


「つってもよォ~~、どこから話すべきか迷うんスよねェ」

「そんなに込み入った話なんですか?」

「マジで語るなら、ざっと1000年前からの話をしなきゃならねェからな」

「はは、いや、冗談キツいですって流石に」

「それとも、メレディヤと出会ってからの10年聞くか?」

「……どっちも気になるんで、好きな順番でいいですよ。聞かせて下さい」

「好きな順番で、ねェ。そうだな――」



 ◇



「ねえ。メレディヤ。ねえってば」

「付き合うとは、男女の関係とは。そうか、女神ダイヤとは――私のコト!?」

「違うよ?」

「神です。よろしくお願いします」

「違うからね?」


 サファの質問が鼓膜に到達した瞬間、ペシャンコにしたポップコーンボックスを、両手で雑巾のように絞り上げながら虚空を見詰め、意味不明の独り言を喋り続ける。メレディヤはそういう生物と化していた。

 サファはというと、メレディヤの肩をゆさゆさ揺らして正気に戻そうと必死だった。


「もうっ、ごめんって! わたしデリカシー無かった! 無し無し! この話終了ー!」

「――うん。察してくれてありがとうお姉ちゃん」


 スッと平静を取り戻すと、捻じれた紙の塊を近くのゴミ箱へ全力投球。失敗。外へ弾かれる。微妙に平静を取り戻せていない。サファも思わず苦笑いだ。


「あー、じゃあ、そっち方面にならない程度に。二人のこと、訊いてもいい?」

「私達の? サファお姉ちゃんが楽しめそうなこと、あるかな?」

「どんな内容でも楽しいよ。わたし、冒険の道中で出会った人達がどんな風に生きてきたかとか聞くの好きなんだよね」

「探求心?」

「そんな高尚なものじゃないけど、今はラルドと一緒に地球を冒険することそのものがとにかく楽しいんだ。まだまだ知らないたくさんのものに出会えるし、新鮮な体験ができるし――実際、今日がそうだったし!」


 自分の内から湧き上がる好奇心に声を弾ませる。まるで子どものように。

 1年前、ニアゼムが語ったサファ・ツキノのイメージが、ようやく腑に落ちた。

 彼女は自由(フリーダム)だ。

 何にも縛られることなく、己のままに人生を楽しむ彼女に、戦場はあまりに狭く、似付かわしくない。

 ただ、今この瞬間を味わうために生きる――なんて、素晴らしいことか。


「……そっか。喜んでくれたなら、私もニアゼムも待ち構えてた甲斐があったよ」

「だから知りたい。出会った人達がどんな道を歩んできたのかを。地球に住む人達を知ることも、地球を味わい尽くすことに繋がると思うから。きっと、ラルドも同じ気持ち」

「いいよ、お姉ちゃんの頼みなら致し方あるまい。でも……」

「でも?」

「1000年分くらい積もる話があるけど大丈夫?」

「1000年分!?」

「あ、ニアゼムと出会ってからの10年を話したほうがいい?」

「スケールの落差が……うーん、じゃあどっちも。二人が生きてきた道がどんなものか、聞かせて」

「じゃあ、私が話したい順から。えっとね――」



 ◇



 ニアゼム/メレディヤは、微かに笑う。

 一呼吸置き。彼/彼女は、子どもに読み聞かせるように落ち着き払って、旅人たちに語り始める。


 ――過去から現在へ。現在から未来へ。人が語る話は、後世に伝播する。

 絶えることなく繋がる輪は、重なることで砕けぬ鎖となり、人の心に寄り添う。

 時に、畏れ多い教訓となって。時に、心を癒す物語となって。

 例え、存在が滅びようとも――消えてなお、輝き続けるのだろう。


 ……だから。これが、俺/私が語り伝えたい、……昔話だ。




「「――昔々、あるところに――」」





 The End


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